すずさんの居場所|『この世界の片隅に』TBSドラマ版【ネタバレ】|tonbori堂ドラマ語り-Web-tonbori堂アネックス

すずさんの居場所|『この世界の片隅に』TBSドラマ版【ネタバレ】|tonbori堂ドラマ語り

2018年9月18日火曜日

drama

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 2018年夏クール、TBSの日曜劇場『この世界の片隅に』が最終回を迎えました。こうの史代による漫画が原作で、片渕須直監督の長編アニメーション映画も大変好評で、現在もロングラン公開している作品です。多くの人に愛された作品として、戦前、戦中、戦後を広島から呉へ嫁いでいった一人の女性を通して市井の暮らし、そして戦争というものをその視点から描いた名作漫画であり、その作品の精神を汲み取って作られたアニメーション映画はその内容、演出、キャストどれをとっても素晴らしいものでした。そのためこのTBS地上波連続ドラマ版が発表された時にはどうなるのだろうかという期待と不安が入り交じったものがあったのも事実です。そして最終回を迎えた後に思った事を少し書き留めておきたいと思います。

この世界の片隅に(ドラマ版)/ロゴはイメージです
この世界の片隅に(ドラマ版)/ロゴはイメージです



『この世界の片隅に』をドラマにするという事

 アニメとは違う部分もありましたが、それは実写ドラマということもありロケで極力できるところは押さえたものの出来ないところはという事だと思います。いやアニメ映画がなければ、先に放送されたスペシャルドラマ『この世界の片隅に』より、原作に即したとなったかもしれません。と言いたいところなんですが、その件の日本テレビのスペシャルドラマ版に関しては未見なため語ることが出来ないのです。


 ただこの日テレドラマ版はアニメでは尺の関係でリンの部分を大幅にカットした、その部分をフィーチャーしたものとは聞き及んでいます。黒歴史という言われ方をしていますが、多分原作にあった、戦時中での細やかな日常描写や、そこからの空襲によって徐々に歪んでいくすずの生活、そして晴美さんの死を経て広島への原爆投下、終戦に至る部分が削ぎ落された秘められた恋を中心とした普通の反戦ドラマになっていたのではないでしょうか。

今回のTBS連続ドラマ版は、少なくとも原作に沿った展開で(ただ周作とすずの出会いは大幅に変更というかリアルな感じになっていたり細かい変更がなされていました。)その上で終戦に至った時にあのシーンはどうするのかと思ったのですが…。そこも変更されていました。

終戦の日に

 すずは玉音放送を聞いて、戦争は終わった事を受け入れ難く激昂します。そして飛び出した先であるものを見て、正義の戦争を日本はしていると思っていたものが、けっきょくは暴力で従えていただけで、さらに大きな暴力に屈服しただけと悟るのです。そしてこうつぶやきます。「何も知らないまま死にたかった」と…。


 そのシーンにあったのは太極旗、韓国の旗です。アニメ版でも台詞はカットされながらも旗が上がるシーンはありました。抑えつけていた事への象徴であったシーンなのですが、ドラマ版は旗が上がらずその代わりに戻ってきた周作がすずへ語りかけるシーンへと変更になっていました。そこは何かしらの配慮があったのか、どうかは分からないんですが、地上波ということで、緊張感をもたらすものではなくプリミティブな戦争が終わっても「生きていく」というそういう感情を押し出す事により日常を際立出せる。製作陣はそう思ったのかもしれません。


 それは原作に無い、すずが江波のばあちゃんの家で療養しているすみを見舞った後でばあちゃんがすずに語りかける「出来ることは生きていくことだけじゃ」シーンにもつながります。実写キャストでばあちゃんに宮本信子が配役されており、漫画では登場していないシーンでも登場したり存在感を発揮していたのはこういう事かと。

そして何かと「生きていく」を繰り返してきたのは、そういう事かと得心がいきました。ただある意味漫画の重要シーンでもあるところの改変だっただけに、もやもやする原作やアニメファンの人は多かったのではないかなと感じます。ただもう一つのワード「負けんな」というのは今の豪雨被害にあわれたロケ地の呉へのエールとともに観ている人たちへのエールとしてよい言葉だったと感じました。

現代編

 これは放送当初から、この現代パートいる?とTwitterでもさかんに言われていましたが、現代との懸け橋になるという点ではあながち悪いものではないと思いました。特に、こうの史代は『夕凪の街 桜の国』という広島の原爆を題材にとった漫画があります。これは終戦後間もない広島と、現代が舞台の漫画でやがて一つの線につながっていく家族の話でもあります。今年はNHK広島局が開局90年ということで記念にこの作品のドラマも製作され高評価を得ていました。短い時間でよくまとめたなという事でしたが、実はその前に実写映画化もされている作品でもあります。

 この事もあったのでtonbori堂はこの挿入は悪くはないと思いましたが、実際にはそれほど能動的には作品に喰い込んでいってはなかったように思います。もちろん原作者のいる話なので、それほど簡単とは全く思っていませんが、それでも思い切って『夕凪の街 桜の国』を換骨奪胎したような挿話にしていっても良かったのではないかと思いました。

 それだけに最後のシーンはちょっと唸ってしまったんですね。いやMAZDAスタジアムにやってきた時点では見えていました。それにそれ自体は悪くないと思います。力強いメッセージを発していましたから。生きるという事と明日への希望をつなぐこと、負けるなというメッセージを。


 ただ、あの想定はアニメーション映画版の片渕監督が舞台挨拶等でおっしゃっていたことで、tonbori堂も先行上映会で(クラウドファンディングした人に対して行われた先行上映)片渕監督がおっしゃった事を直に聞いております。それだけに…うーんとなってしまいました。普通なら、すずさん生きてて良かった、元気で良かった…といういい着地だと思うんですが、それぞれの胸の内でそこはいいんじゃないのかという想いがあるからなのです…。

 現代編を入れた以上、今のすずを描かない訳には行きません。だからそうしたというのは理解はしていますが…、節子の「会いに行こうかね」で終わっても良かったかなと。今のすずを観た人がそれぞれ想像する…それが良かったように思うのです。

キャスト

 すずを演じた松本穂香は悪くなかったと思います。すずのぼやっとした部分、夢見がちな部分と後半の歪んでいく部分、そこからでも生きていく…をよく頑張っていたと思います。もともと『ひよっこ』での東北から集団就職で東京にやってきた素朴な感じが印象深い女優なのですが、大阪の出身だそうです。

ソース|FLaMme official website|プロフィール

 周作役、松坂桃李に関しては…ちょっとイケメンすぎたかな…若手で様々な役を演じしっかりと演じてて周作さんらしいとも思うんですが…。でも現実的にはいいキャスティングではなかったかと思います。すみ役の久保田紗友。こちらもイメージもぴったりな美少女で、すずを思いやって呉に来るときや原爆症になった時の儚いところはよく出せていたと思います。ですがなんといっても、ぴったりだなと思ったのは径子役の尾野真千子、そして北條円太郎役田口トモロヲ。この2人は本当にぴったりで、ベストアクトだと思いましたね。カットというか変更されてしまった呉の海軍病院での円太郎さんの芝居も見て見たかった…。


 そして尾野真千子の径子はアニメーション映画版の径子と甲乙つけがたいと言ってもいいのではないかと。それと短いながらも印象を残す白木リンを二階堂ふみが演じたのもまたいいアクセントになっていたと思いました。驚いたのはすずの母、キセノ役で仙道敦子が久しぶりのドラマ出演で元気な姿を見せてくれたこと。結婚後、引退していた格好ですが、演技は健在で今後も活躍を期待したいですね。

火垂るの墓

 周作とすずが養女にする女の子の名前が節子というのは、同じく戦中の神戸で生きていく幼き兄妹を描いた『火垂るの墓』の妹を彷彿させます。しかも江波の浦野家には戦災孤児の兄弟が…。どうしても思い出してしまいますね…。たぶん意識してつけた名前だと思います。人の出会いと見つけれくれる人がいたら…そんなアナザーを感じる話ではあるんですが…いやそれなら原作をってちょっともやもやする部分ではありました。全くダメだとは思わないんですが…。

最後に

 TBSドラマ版『この世界の片隅に』は良い部分もたくさんありました。オリジナルキャラクターで登場した刈谷幸子(『ひよっこ』にも出演の伊藤沙莉)、堂本志野(『べっぴんさん』の土村芳)の2人。そしてその周りを支える刈谷家や隣保班の皆さんとか。これまでとは違った戦時下の日常を描いていこうとしている流れととして、描写も含めてパーフェクトではないけれど努力の後や力が入った後にすずの養女になる節子の描写や闇市、朝日町のオープンセットは賞賛に値すると思います。(ドラマとしてですよ)惜しむらくはアニメーション映画版『この世界の片隅に』がリンの話を予算の関係でカットしていながらも高いクオリティで作り上げられた作品であったこと。漫画の映像化というのは、その漫画への導入になればというのが前提にあると思います。商業作品ならばそこは意識しないといけない。

 そしてそれを考えたとき、やはりアニメーション映画がと思ってしまうのは否めません。とは言え平成最後の夏によくぞとドラマ化したと思います。いろいろアニメと比べてしまったし、問題が無いとはいいませんし、スペシャルサンクス問題と言うのもありましたし(ドラマのクレジットにスペシャルサンクスとしてアニメーション映画版の表記があったけれど、アニメーション映画製作側がドラマの設定など表現などなど一切かかわっていないと公式発表を行った)それが無ければもっとこの作品の評価も上がったかなとも思いますが、少なくともその志や意思というものは今後も大事にして欲しいと思ったドラマでした。

ソース|日曜劇場『この世界の片隅に』|TBSテレビ

この世界の片隅にを観る | Prime Video(提供/TBS) 

※現在配信されていませんが日テレ版ですすざんを北川景子が演じたのも前は配信されてたようです。|Amazon.co.jp: この世界の片隅にを観る | Prime Video 

※原作は名著なので是非是非。そしてアニメーション映画『この世界の片隅に』も今も上映継続中です。そして12月にはその予算の関係でカットされた部分を含め新しい1本の映画になった『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開です。

リンク|公式サイトこの世界の(さらにいくつもの)片隅に【映画】

アニメ『この世界の片隅に』/Blu-ray/Amazon

長尺となった『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』Blu-ray/Amazon

※ちょっとでも興味をもっていただければ原作漫画も是非。

この世界の片隅に 上 | こうの史代 | マンガ | Kindleストア | Amazon(紙の単行本もあります。)

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