テレビ朝日木9の『ハゲタカ』、8話で完結です。もともとこの枠9話だったり8話だったり割と短いのが特徴です。そんなわけでラストまでダイジェスト感がはんぱなかったんですが、この国を動かしているトップ(今回は日本を代表する企業でしたが、ようするに上に立つものすべてに向けてのメッセージだと思います。)にはノブレス・オブリージュが無いという事を突きつけた。そんなメッセージを感じました。
ハゲタカ/ロゴはイメージです |
最終回までの道程
NHK版でも描かれた1990年代末からの銀行のバブル崩壊後の不良債権問題『バルクセール』、そして典型的な日本の同族経営による企業の腐敗と放漫経営に斬り込んた『ゴールデンパラシュート』をなぞっていました。前にも書きましたがこの辺りはNHK版は原作とは違う(そもそも鷲津の出自が違います)ものでしたが、テレ朝版は、原作からの登場人物である松平貴子(沢尻エリカ)を登場させ、物語の複線としていきました。(ちなみにそこも原作を完全になぞってはいない展開をしています。)
そうやってNHK版では最後の大勝負であった大空電機(原作では曙電機)のストーリーを名称を原作にそった「あけぼの」とし、原作ではシャインをファインとして登場させ熾烈な買収劇を描きました。NHK版の大空電機のストーリーはシャープの未来を予測したかのような展開だったんですが、こちらはライブドアの買収を思い出すような既視感がひしひしと。その前の所謂、バルクセールとゴールデンパラシュート辺りのストーリーを第一章とした時点で、ああこれはTBSの十八番になったサラリーマンの溜飲を下げるドラマとなった池井戸劇場をテレ朝の十八番であるドクターXの則(のり)でやるんだなと。ただその点がなんとも『ハゲタカ』で描くべきお金に踊らされた人たちを描くこととはちょっと違う違和感を感じると記したのです。
ですが最終章は2018年の現在を描くという事でどうなるかはこの目で確かめないと思い最終章に至りました。そこで語られたのは日本株式会社とでもいうべきものがこの30年間積み上げてきたものの正体はこれだと喝破してみせた訳です。それは上意下達を強いて、空気を読むことに終始し、やがてはその空気が澱んでも、誰もが会社とはそういうものであるという事に疑いを持たない。未来ではなく今の生活を守るために、いけないことだと思いつつ慣らされた、今のネットスラングでいうなら社畜としてぞろぞろと従うだけの人形。そして、上に立つ者はそれを良しとして自らの地位だけが守られていればそれで良しとして小さな世界で満足し、責任を果たそうとせずその世界の安寧だけが守られていれば満足というスケールが縮小してしまった世界で小さなプライドだけを守る社会になってしまった。
だから『腐った日本を、買いたたく』そして『たたき壊して』、『膿を出し切る』という事を鷲津は行ったわけです。…でもそれってそれまでの前2章でもやってたんちゃうの?という感じがひしひしと。結果、ドラマとしては分かりやすい巨悪としてフィクサーの飯島(小林薫)が設定されてしまったように思います。もちろん飯島もそれなりに企業人として酸いも甘いも噛み分ける事をやってきたので最後に、お前に地獄を見せたるとまだまだ野望をギラつかせて退場していきましたが…、生きている限り敗者復活はあるというメッセージではあるんでしょうが…うん、なんか目的が倒れかけの巨象を延命するだけの話で?ってそこからの流れでこの感じはなぁっての少なからずありました。
帝都重工の社長になった鷲津(綾野剛)をビルの屋上に呼び出し、「ワシの後継者になれ」っていうのは、ああこの爺さん、鷲津を支配したいんかってのはあるし、あの負け惜しみもワシはこれでは終わらんぞ、お前をギャフンと言わせるぞっていう流れでは理解できますが…。ちょっとスケール感でいうと小っちゃいなって感じたのも事実です。
ノブレス・オブリージュ
テレ朝『ハゲタカ』で言いたかった事の一つはこれだと思います。そういう単語ではなく、責任を取らず、初心を忘れ事なかれと馴れ合い、会社の価値を株価で計ることから株価を上げる事に血道を上げ、会社の価値を上げて株価を上げるという目的を違えてしまった。そうアジア重工業連合会議の席上で帝都重工会長(伊武雅刀)に鷲津が突き付け、なんとか日本株式会社でもある帝都重工を延命させようとした芝野(渡部篤郎)も腹を括り全てを明るみにしました。
その後、帝都重工の株は暴落しましたが、その間隙をぬってサムライファンドとアランが新たに立ち上げたウォード・ファンドがTOBを仕掛け帝都重工の株を取得、買収を成立させて芝野を代表取締役社長に据えるという展開は…まあそういうオチになるかなあとは思いましたが、あまりにもテンプレートすぎて。鷲津が社長を続けるというのはあり得ないだろうし、もっと帝都側の事情を書き込んで欲しかったですね。たった2話で決着付けていい話ではなかったように感じます。
ノブレス・オブリージュというのは高貴なものには責任が伴うという意味です。そもそもは貴族に対して使われていた言葉でしたが、貴族はその地位に胡坐を書いて結局はその座を追われました。今の日本の多くの企業や責任のある地位についている人はその宿痾に陥ってると喝破したかったとは思いますがダイジェスト動画を観ているようで残念ながら響いてきませんでした。というか第2章のせめて「あけぼの」と同じくらいの尺を割いてくれればと思いました。
松平貴子
NHK版に無くて、テレ朝版にあるものといえば彼女の存在です。時には鷲津に翻弄され、生家でもある日光みやびホテルは、売却され外資のものとなったりいろいろ艱難辛苦がふぃりかかりますが、聡明な彼女はその度に真正面から立ち向かいます。当然傷つき、人の裏をも見てきて、多分このドラマで一番成長したのは彼女ではないでしょうか。
初回にイヌワシを見たところで鷲津と出会った事から、まさかなんとなくいい感じになってしまうのでは?と思いましたが、それはありませんでした。貴子はお慕い申し上げておりますっていう感じで、最後にあのイヌワシのところでまたお会いしたいといいましたが…結局、鷲津はそのまま海外に去りました。でも多分会っても、2人は別々の道を歩むのではと思っていたし、会わなくてそれぞれの道を歩むという流れは良かったと思います。ベタベタするのはハゲタカには似合いません。
追記20180909:
忘れていましたが森崎ウィン演じる雨宮のスペース・フロンティア・ジャパンの話も『下町ロケット』に対抗していれてみました感が。付けたし感がぬぐえなかったのも、もっと尺をスペース・フロンティア・ジャパンに割かないとのめり込めないですよね。そこは残念ポイントでした。スペース・フロンティア・ジャパンが一体何をやってんのか?(人工衛星と無人ロボット制御みたいなことはなんとなく分かりましたが)雨宮の、鷲津が一蹴した夢とやらが、こちらに届いてこなかったのが大きな要因です。この夢が少しでもビジョンとして見えれば最後に鷲津が対等なビジネスとしてお付き合いするというのにも実りあるものに見えたんですけど単に助けただけにしか見えないのはもったいなかったと思います。
続編はあるのか?
どうなんでしょうね。視聴率はおっかけていないので分かりませんが、企業買収、乗っ取りなどは今も普通にある話です。このまま日本国内に留まる話なのであれば、羽ばたくという鷲津が提示したビジョンからは離れると思います。つまり海外からの刺客(^^;、死に体の日本をついばみに来たハゲタカをハゲタカである鷲津が守る?っていうのもおかしな話ですが、さらに大きなディールとしてのスクラップ&ビルドを仕掛ける、これはまあtonbori堂の希望なんですけれどそういったスケールを感じさせる物語ならとは思います。
ただNHKのドラマ『ハゲタカ』は面白かったんですが、それの映画版『ハゲタカ』はちょっと微妙ではあったんですよね。これはもう尺の話になってくるんですが…。原作はなかなかハードでバイオレンスを予感させるところもあったとか。いや映画もバッサリという訳ではないですが抜けが悪かったなあと思ったので。多分テレ朝で続編が来るとすればそのNHK映画版の下になった『レッドゾーン』がベースになると思います。上手くスケール感が出せるかがキーになるかと思いますが、襲来するのが中国のファンドなので別の架空の国とかにしちゃうかもしれませんね(テレ朝ドラマワールドにはエルドビアをはじめ架空の国が幾つもあります)架空のアジアの某国でも見せ方次第とは思いますが…やっぱりドクターXの則になってしまうのかな。
最後に
ぶっちゃけていうとNHKドラマ版『ハゲタカ』でガツンとやられた衝撃は無いテレ朝版でした。それでも最後まで観続けたのはやはりキャスト上手いし、tonbori堂は衝撃を受けなかったけど、こういうドラマもまあ有りではないかと…ただtonbori堂が観たかった『ハゲタカ』ではないかなあって感じです。ああ、それと今回急きょ原作を斜め読みしてみたのです(まだしっかりとは読めていません)が、鷲津の部下のリン・ハットフォード。凄い猛女でした。どちらのドラマでもそこまで押しの強い感じではないですが、小説では完全に鷲津のパートナーっていうか恋人というか、猛禽類が2人というか(^^;第3の『ハゲタカ』があるなら猛々しいリンが活躍するやつをちょっと観てみたいなと思った事を付け加えておきます。
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