先日最終回を迎えた『絶対零度~未然犯罪潜入捜査』は月9初主演の沢村一樹が主人公、井沢範人を演じた『絶対零度』第3シーズンとも言うべき作品です。この夏クールでは割と期待していました。いましたというのはおいおい書いていきたいと思いますが、さりとて全然ダメという事ではなくネタとしては面白いドラマだったと思います。
※作品の結末や『ジョーカー 許されざる捜査官』『BORDER』などの他作品のネタバレもございますので何卒ご了解の上お読みいただければ幸いです。
ミハンというシステム
第1話は拡大スペシャルで、前シーズンでもある『絶対零度~特殊犯罪潜入捜査』から8年というスパンが空き、『絶対零度』の2作に主演した上戸彩演じる桜木泉から、沢村一樹演じる井沢範人に主役が交代。桜木泉は物語開始時点で失踪という状況。そんな中、桜木泉と組んでいた山内(横山裕)は失踪した桜木を探そうともしない上層部に不満を持ち上司を殴って総務部資料課分室へ左遷となりますが、実はその資料課は未然犯罪捜査班という非公式捜査班。警察キャリアである東堂が犯罪を未然に防止するべくビッグデータを解析し危険人物をはじき出すシステムを使って犯罪を阻止するべく組織したチームでした。井沢は元公安部の捜査官でしたが家族をテロ組織のメンバーに惨殺され、犯人と目された男を別件で追い詰め射殺しようとした人物。普段は飄々としており手の内は見せませんが時折見せる犯罪を憎む心は熱くマグマのように滾っている人物です。
資料課分室には、男嫌いで格闘マニアの小田切(本田翼)、元から分室に在籍していたホワイトハッカーである南(柄本時生)、そしてあらゆる部署をたらい回しにされてそれぞれの部署のスキルを身に付けた田村(平田満)がいました。この5人のチームでミハンがはじき出した危険人物を調べ犯罪を阻止するのがチームの使命。そこに井沢の妻子が殺された事件の裏や桜木の失踪が絡むというのが複線にあるというストーリーです。
未然犯罪防止システム
この設定はどう考えても米のドラマ『PERSON of INTERREST 犯罪予知ユニット』(リンク先はAmazon)のシステムを思い出しますよね。でもこのシステムはやがてH.A.L(『2001年宇宙の旅』に出てくる宇宙船を管理するコンピューター)やコロッサス(『地球爆破作戦』という映画に出てくる米の戦略コンピューター、ソ連(当時)の同様なコンピューターと通じ平和を守るために人間を管理していく)のような事にはなりませんでした。(その後の展開で実はというのがありますがそれはまた別のお話)それはそれで面白い展開になりえるでしょうが今回はあくまでもマシーン(『PERSON of INTERREST』で犯罪に関連する人間の社会保障番号をはじき出すシステムは「マシーン」と呼ばれていました。)として人物名だけをはじき出すものでした。
そこがちょっともったいなかったなと。テレ朝『相棒』ではビッグデータ解析で犯罪を捜査するAIに杉下警部が挑むというSFチックな展開を見せる回がありましたが、あれも最後は開発者が最後にAIをネットに解き放ち、まるで『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』ばりのラストになりましたが、そういうヒキもなくあくまでマシーンは道具、機械。使う人によってという立ち位置だったように思います。ちょっと肩透かしだなと思ったのはミハンシステムってそのデータの扱いの分析などを考えるとAIを使用していると思うんですが、普通に危険人物だけをはじき出すただの機械としてしか扱われなかった。
冤罪の危険性がクローズアップされながらも、最終回のエピソードがまさにそうでしたが、また第1話も犯罪を予測していながらも人が起こしたアクシデントにより結果が変わってしまう未来予測の難しさを描きながらミハンシステムはただのシステムでしかなったという点でしょうか。もっともそこに軸足を置くと話がこういう風に収束はしないしあくまでシステムは人がつかってこそ。これは道具は使う人によって便利なものにもなるし、凶器ににもなるというテーマから逸脱することになります。
便利な道具
実はこのシステム=道具っていうのは6話で既に喝破されていて、それまでミハンで犯罪が阻止されながらも真の悪党がその手をすり抜けていたりしていたことがありました。しかしその後そういった犯人が次々と誰かに始末されてしまう事案が発生。妻子を殺した犯人を射殺寸前までいった井沢はミハンに危険人物としてリストアップされてるという振りもあり、井沢が闇の仕置き人?と同局の『ジョーカー 許されざる捜査官』と重ねる向きもありTwitterで少し盛り上がりました。
犯人は東堂が子供の頃にうなじを切りつけられ、眼前で父を殺されミハンシステムを立ち上げようと決心する事になった練馬台無差別殺人事件で同じく婚約者を亡くした田村でした。彼はミハンシステムや捜査の過程で知り得た事を基に法の目をくぐり抜けた犯罪者に私的制裁を加えていたのです。道具は便利でもそれを使う人によって凶器にもなる。それは田村のエピソードで既に語られていたわけです。この盛り上がり処を中盤に置いたのでラストの桜木のエピソードが初回で語られた「冤罪」を産むのではないか?という山内のエクスキューズに対しての再度のアンサーになりまたこの道具は使う人により天使にも悪魔にもなり得るという事をつきつけたわけです。
最後に自分が積極的ではないにしろ、ボーダーを越えてしまったと事が終わったら自殺を考えていた東堂に、井沢はミハンを守る側に残るから見届けろといいましたが、それは井沢も寸でで思いとどまりましたが、闇を抱えているからにほかなりません。東堂が助かるはずの命を救いたいと願った思いから始まったミハンを守る決心を東堂に見届けて貰わないと何時また暴走するかもしれないという恐怖からかもしれないですね。
システムに飲み込まれてしまった人物
それは東堂であり、田村であったというのはなんとも皮肉な結末な気がします。東堂は己の正義を信じていたのにシステムを守るために一線を犯すだろうと思われる結末を予測しながらそれを放置し悲劇を産みました。田村もまた惨劇を経験し、悪には悪を以ってという、越えてはいけない一線を越えてしまいました。たびたび比較される『ジョーカー 許されざる捜査官』は法的に許されない行為で隠ぺいのために殺人を犯した主人公の協力者は罰せられることになりましたが、テレ朝の『BORDER』では主人公はラスト一線を越えて、特別編ではそれを乗り越えてその向こうで罪を犯した者を裁くと決意しました。『BORDER』主人公、石川のように自分の遺志で決定するのであれば越境したとしても踏みとどまれるし、彼を見守る人がいれば越えても止めてくれるという安心感があります。主人公井沢にはそれがありましたが東堂と田村もそれが近くにありながらシステムに飲み込まれてしまった…そんな感じがします。
ソース|JOKER ジョーカー許されざる捜査官 - フジテレビ
ソース|BORDER|テレビ朝日
闇落ちしたのか?桜木泉
愚直でのろまだけど前2作では正義を信じていた桜木がラスト黒幕である町田警察庁次長(中村育二)を井沢が追い詰めた時、ミハンの仲間は止めましたが、「殺せばいい」と口走りました。ミハンシステムが桜木をリストアップした時点でやはり彼女も心に闇を抱えてしまったと見るべきなのでしょうか。
警察には既に彼女の仲間はもういません(そこは前シリーズを観ていた者としては釈然としませんが)事が終わり分室から去る彼女にはバディであった山内の声に反応しながらもそこから立ち去り行方をくらましました。完全には闇には落ちてはいないでしょうが彼女もまた井沢と同じく危険を抱えながら生きていく事になったと思います。元上司の長嶋(北大路欣也)もいますがロンリーウルフになる可能性も…。ただミハンシステムだけでストーリーを組み立てられるのにわざわざ桜木を出した意図がいまいち不明でそこにひっかかった旧作のファンも多いようです。
続編はあるのか?
フジテレビってトレンディドラマで一世を風靡しましたがテレ朝のように定番ドラマを作りだすチャンスを活かせなかったところがあります。『踊る大捜査線』『HERO』『コードブルー』あたりですか。でもスパンが長く空いてしまったりして(その後売れっ子になる人をキャスティングしている事もあるんでしょうが)長期の安定したシリーズとして確立したものはない印象です。
ファンサービスの映画がヒットしたりするのでそういうので、こういう回収するスキームを否定するわけではありませんが…と脱線しましたね。この『絶対零度』シリーズ、ミハンシステムは存続する(非公式のまま)事になったと井沢が告げたのでこのシステムを軸に続編を作る事は可能ですし、それこそ次はAIにも切り込んでいくのもありでしょう。ただそれが作られるかどうかは不明です。
上戸彩の『絶対零度』という作品というイメージも人によったらいささか乱暴な感じかも知れませんが沢村一樹にバトンが渡されたという感じもありますし、ですが反面、のろまなカメがいきなり闇落ちしかかった感じで終了というのもなんだかなっていうのはありました。という事で画竜点睛を欠く終了であったかなとは思います。ただミハンシステムというガジェットは面白いテーマであるのでtonbori堂としては続編は観てみたいと思います。
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