(C)2018 スタジオ地図|東宝/TOHOシネマズ |
その評判の細かい所はあまり見ないようにしていましたが、ざっくりと賛否両論なのは耳には入っていました。それは『おおかみこどもの雨と雪』のような、いやいやそれはあり得んてという話なのか、それとも『バケモノの子』(成績は良かったようですが)のようなざっくり感のせいなのか?ともかく今回も「親と子」「未来」「絆」「家族」という細田作品の擁するもので構成されていました。
ストーリー/くんちゃんの大冒険
横浜の郊外、住宅地の一角に樫の木がある小さな家で生まれた、くんちゃん。くんちゃんが4歳になったときにお母さんに赤ちゃんが生まれました。くんちゃんは甘えん坊の駄々っ子です。お母さんが赤ちゃんにかまってばかりで面白くありません。赤ちゃんの名前は「未来(ミライ)」と決まりました。でも相変わらず、くんちゃんは未来ちゃんのかかりきりになるお父さんとお母さんにプンプンです。とうとう未来ちゃんを叩いてお母さんに怒られます。怒られてべそをかきながら中庭に出たくんちゃんはそこでへんな男と出会います。「あなたはあの赤ちゃんに嫉妬しているんだ」と指摘する男は自分が、くんちゃんが来るまでこの家の王子だったといいました。
なんだかへんなその男、尻尾があります。その尻尾を引っこ抜いてくんちゃんは自分のお尻につけるとさあ大変。くんちゃんは犬のゆっこに変身しました。男はゆっこだったのです。それからもくんちゃんがかまってもらえなくて泣くと中庭が不思議な空間とつながるようになります。そして未来ちゃんの初めての雛祭りの翌日、お仕事に復帰したお母さんが出張しておら在宅仕事のお父さんと未来ちゃんとくんちゃんだけがお家にいる時に、遊んでくれないお父さんにプンプンなくんちゃんは中庭で高校生の女の子と出会います。彼女は…未来から来た未来、ミライちゃんでした。そして…くんちゃんはその後も不思議な体験をしていくことになるのです…
ファミリーヒストリーと『時をかける少女』と『バケモノの子』
くんちゃんは謎の王子(笑)の後に、ミライちゃんと出会いますが3度目以降は過去に行きます。(その理由は些かとってつけたようなものに思いましたが、まあセンスオブワンダーな世界ということで)そこでお母さんの子どもの頃、そして未来ちゃんが生まれる前に亡くなった若き日のひいじいじと出会います。
だからといってくんちゃんが成長…いや自転車をこげるようになったから成長はしたか(笑)っていう話にはなってるけれど、ようするに、NHKの『ファミリーヒストリー』を見ながら子供をあやしていた細田監督が、なんかこういうのをしてみたいと思ったんじゃないでしょうか…。なぜかそう思ったんですよね。それと4歳児の突拍子もない部分が急にマッチしたんでしょう。急にコマ付き自転車に乗れるようになったりとか成長していく部分が急にパチンと。身近なネタを昇華するのは『サマーウォーズ』からの監督の十八番になってきた感がありますが、今回はそれがつきつめられた感じを受けました。そして何故ミライちゃんは未来からやってこれるのかってのは詳しく説明しないけれど、そこにそれがあるからってのは出世作である『時をかける少女』を思い出しましたね。
あれもタイムリープできるガジェットは「そうできるもの」として詳しい説明はありませんでした。だけどファンタジーだからそれでいいのです。細田監督はリアルとファンタジーの境目が相当にあやふやな世界が好きで『バケモノの子』は完全に現実の裏の異世界を切り取っていく作法だったけど今回は逆をしてきたなという感じですよね。
くんちゃん駄々っ子問題
割とくんちゃんが駄々っ子でウザいという感想を目にしますが…4歳児はあんなものだと思うのですよね…。というか子どもの頃の自分もあんなもんだろうなと思いながら観ていました。もしウザいと思っているのなら胸に手を当ててとまでは申しませんが、まあそういう事もあるぞとは言いたいですね。それに4歳児くらいならものは散らかすもんだし駄々っ子なもんですよ。いやtonbori堂は独身のおっさんなんで説得力ゼロですけど、数少ない小さい子供とのエンカウントで得た学びはそういうものであるというものでした。
とは言え最後の最後にミライちゃんのお兄さんですという自覚の萌芽が芽生えたところをらしいファンタジーに仕上げてくるあたりが細田監督もまだ大人になり切れていない感をひしひしと感じるんですがどうでしょうか(笑)
子育てはそんなに甘いもんじゃない問題
なんというか星野源がお父さんの声なので、いやいや源ちゃん、そんなに子育て甘くないぞ!とか麻生久美子が声をあてているお母さんもいやいやっていう話もありますが…。そこは本当に独身のおっさんには分かりかねるところです。でもまあまだまともな方じゃないのかなと。それに赤ちゃんって本当に手がかかるので、お兄ちゃんはもうお兄ちゃんなんだからとそりゃなりますよね。にしても結構でっかい家で建築家なんで凝った家なんだろうけどくんちゃん…君はめぐまれているぞとそこは声を大にして言いたい(笑)
ファミリー凄すぎ問題。
お母さんの実家もそこそこいい家だし、ひいじいじも飛行機のエンジンを作って飛行士として招集され特攻隊だったけど乗船した船がドカチン喰らって助かったとか、復員してからバイク作ってたとか、何気に凄い。まあそこに引っかかる向きが多いのは分かります。『サマーウォーズ』でもあったファミリー凄すぎ問題ってのはありますね。これも実際にどうだったのか願望なのかある程度そういう事なのか。まあファンタジーだとはtonbori堂は思っていますが…(笑)
とっちらかった鑑賞感
それまでの作品と比べて、個々のエレメントについてはああ、そうしたかったのかというのはよく分かるし、大方はそうなんだろうなと見当は付きます。4歳児が考える世界とそのありようと、なんのことはないことで真理を学んでいくということ。そしてだからといって本質が急に変わることなどないという事。そして歴史はつながっていくということ。ファミリーヒストリー、やっぱりそういう絆ってあるんだね、それはほんの少しの偶然なんだねという事。そして「人に優しく」ってことでしょうか…。
でもくんちゃん視点で描かれるために中庭の大冒険とかそれぞれのシークエンスでそっちに持っていかれるので、トータルでとっちらかった感があるのかなと感じました。あれですね、宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』感と申しましょうか(笑)そういえば細田監督はジブリの後継者と目されているという話がありましたが、興行収入の話で言うと厳しいというのを読みました。でも作劇的にはかなり師匠である(かどうかはおいといても)宮崎駿監督に近づいている感じはありました。ただ数字のラインで言えば新海誠監督がそうなるんですかね…いや分かりませんけど。
ああ、そういえばタイムリープできるマクガフィンとして中庭の樫の木がでてきましたが、思い出したのはファミリーツリーもなんですが(からのファミリーヒストリーなんですけれど)もう一つ「アガスティアの葉」を思い出しました。いや随分懐かしいネタだなと(笑)
やっぱり職人、山下達郎は凄かった。
でもいろいろネガティブな感じの事も書きましたけど、やっぱり山下達郎の楽曲がかかれば、全て吹き飛びます。アルチザン、山下達郎の面目躍如たるものが。特にOPとED両方にかかるという豪華さ。これで金曜ロードショーでもエンディングテーマは短くともOPはしっかり入れないといけないので、これは全部かかるぞと思いました(笑)っていうかこれをカットしたら日テレの正気を疑います(ヲイ)
画像はAmazon(リンクも): ミライのテーマ / うたのきしゃ 【初回限定盤】: ミュージック |
まあそれは冗談にしてもやはり達郎サウンドの凄さで映画が凄く良いものに思えるんですよね。何なんでしょうねこれ。『サマーウォーズ』に続いての細田守監督とのコラボレーションでしたが、やっぱり達郎ソングかかると作品にマジックがかかる気がします(それはアナタだけ)というか普通に星野源、福山雅治が出演しているならプロデューサー的には相乗効果でどちらかに…いや欲張りにも福山&星野源のスペシャルユニットとか…そこをしなかったのは(マネジメントの問題か、大人の事情かは知りませんが)良かったと思います。っていうかそうなってたら最初から観に行く選択肢に入りませんでしたね(コラッ)
参考|「未来のミライ」公開記念 山下達郎×細田守監督スペシャル対談 - LINE NEWS
最後に
虚実ないまぜな、不思議なとっちらかった内容で、厳しい事を書いている評論も目にしましたが、全体的には悪い気分にはならなかったんですよね。現実の厳しさは実写では有効ですけれど、アニメーションでやるとダメージがデカすぎる。そういうアニメも否定はしないけれど細田作品にはそういう部分は似合わない。というかそれは裏にあるものでメタファーで昇華するものであって、やはり作風としてはこの路線なんだろうなという感じです。次作は主題歌が山下達郎でない限り観ないと思いますが(コラッ)この路線を極めていくのかなと思いました。細田守ファンなら必見だし、ちょっと不思議な雰囲気に浸りたい方は観てもよろしいかと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿
お読みいただきありがとうございました。ご意見、ご感想などございましたら、コメントをよろしくお願いいたします。【なおコメント出来る方をGoogleアカウントをお持ちの方に現在限定させて頂いております。】