「三色の娘」|『ファイブスター物語/FSS』考察第6話エピソード『二羽の小鳥』より|【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

「三色の娘」|『ファイブスター物語/FSS』考察第6話エピソード『二羽の小鳥』より|【ネタバレ注意】

2018年6月6日水曜日

FSS manga

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 ファイブスター物語/FSS第6話のエピソード『二羽の小鳥』はいろいろな二羽の小鳥たちがいました。それぞれに対になる小鳥たち。ジークとヨーン、リリとショーカム、そして茄里とクリス。ナカカラ様のご託宣により、彼女たちも二羽の小鳥として今後の長きに渡り、ファイブスター物語の魔導大戦終結からフィルモア帝国終焉への鍵を握る人物となることは明白になったように思います。そんな茄里、『三色の娘』について今回は書いてみたいと思います。

※内容について触れておりますので未読の方には【ネタバレ注意】とさせていただきます。

ファイブスター物語13巻|永野護 著|KADOKAWA刊茄里初登場回「三色の娘」収蔵巻
ファイブスター物語13巻|永野護 著|KADOKAWA刊茄里初登場回「三色の娘」収蔵巻

三色の娘/茄里・ブラウ・フィルモア

 エピソード『二羽の小鳥』では、なぜ茄里が何故にバルバロッサ家にいるのかは明言されませんでした。ただ三色の血の意味はドナウ帝国からつづくブラウ・フィルモアと太陽王国直系であるボルガ・レーダー、そしてその2者を調停するバルバロッサの血を持つ皇位継承権1位を持つ高貴な人物を指すというのは今回の『二羽の小鳥』で明かされています。もっとも三色の皇子ジークの妹として生まれたからというのは単純かも知れません。しかしジェイン女王が何事もなく育ってほしいと願うのは、皇位1位が表に出る時はフィルモア存亡の危機の時であるからというのは察しがつきます。つまり三色の娘の行く末も平坦ではなく、せめて今は健やかに(歪ではありますが)、出来ればカーテンの奥のままで過ごして欲しい。そう考えているからでないでしょうか。

定められた滅び

 フィルモアの鬼門、やがて惑星カラミティは崩壊する。その前に自国民を移住させフィルモア帝国を遷す。これは滅びゆく惑星と定められたカラミティにあるすべての国家の懸案事項でもあるでしょうが、とりわけ最大の国家であるカラミティの重要問題です。すぐに崩壊というわけではないですが国を遷す準備をしなければならないわけですが、とりわけバッハトマが起こしたハスハへの侵攻、その後のベイジを自由都市へ解放はフィルモアの意向にはうってつけでした。


 そういえば『精霊の守り人』でも星ではありませんが、物語の舞台である新ヨゴ皇国は異世界ナユグの春の訪れによる大量な水により首都が水没しましたし、『宇宙戦艦ヤマト』では太陽がガルマンガミラスの大型ミサイル誤射により1年先に爆発、移民を強いられます。(ヤマト3)宇宙戦艦ヤマトはけっこうこういった設定多いですが、地球(惑星、星系)の寿命や天体(遊星)の衝突、異星人の侵略により対抗するというのもありますが、もう一方の手段として宇宙移民計画というのはSFの王道です。


 ジョーカー星団には4つの太陽系があり、その中でもウェスタ太陽系第2惑星であるボォスは広大な国土を持ち、元々移民の星であったことから、新天地と定め移住しようとするというのは選択肢としては堅いやり方です。ただし先に住んでいる人もいれば国家もあるわけで。この国家移住は1000年レベルの大事業のはずですが年表を読んでいる我々はこの先に起こる事をもう知っています。カラミティは3159大侵攻後、アドラーを平定した天照率いるA.K.Dが次に向かう星。そこでフィルモアをはじめとする国々は大きく抵抗し、大規模な戦闘がンビトー湖で行われ、マグナ・パレスは擱座し、ラキシスは銀河の果てへ飛ばされると。そしてその時のJ型駆逐兵器のバスター砲によりフィルモアは星に致命的なダメージを受け砕け散ると。その時のフィルモア皇帝はレーダー9であるジークです。その時どのような戦いが繰り広げられるのかは分からないのですが実は『花の詩女ゴティックメード』のラストのクリスティンとジーク、エスト、町が出てくるシーンはカラミティ崩壊後その後の事ではないかと思っています。


 星が寿命でいつ崩れ落ちてもおかしくない状況。それがA.K.Dとの戦いが引き金となり星が崩れるというのは年表に書かれています。その後の出来事を描いたものではないだろうかと。そこでジークとマグダルは何を話すのか?というのも気になりますが、カラミティはA.K.Dの大侵攻が引鉄にならずともやがては崩れ去る運命。そして星の寿命についてフィルモアではこの件が長年の懸案事項となっており、王家の中では引き継いでいかれていた話であることは魔導大戦での慧茄とダイ・グとの会話でもはっきりしています。つまり緊急時には強権を発動してでもカラミティを捨てフィルモアをボォスに移す必要があるということですが、今の時点での皇帝のダイ・グは覇道ではなく王道を目指しているという事も我々は知っています。バジル・バルバロッサはその事に理解を示しながらも、王道が上手くいかない場合の切り札として皇位1位をたてフィルモアを強制的にボォスへと遷す。当然元からの国家もあるでしょうがダス・ラント時代から続く巨大二重帝国であるフィルモアをそのままにという事で、茄里を手元に置いている。そうではないかと考えています。


 本来ならば、ダイ・グがその役割を成すジークに対して、自らが盾となりボォスへの王道楽土建設を歩むはずであったのでしょう。しかし心優しき少年ジークはフィルモアの闇に耐え切れず出奔したのではということではないでしょうか。そしてダイ・グの選んだ王道は険しく困難であり、そう易々とボォスの人々が受け入れてくれるとは限りません。実際にミノグシアの人々反発も大きいでしょうし、そういった事を含めて困難な道を歩むことに対してフィルモア内部の誇り高き貴族たちの反発もこれまた大きいことはアドー、ティルバー、エイデンスらの密談からも明らかです。彼らはいろいろ劇的なことを考えているようで、そのために(それだけじゃないですが)カリギュラも使うことを考えている訳で、今ダイ・グの身の上に起こっている事も含めて茄里の今後も茨の道なのではないかと思うのです。


 ダイ・グの想いはクリスティンが引き継いでいくという事は何度も示唆されていますが、詩女様の託宣で、思いもかけない人が支えてくれるとあります。それが茄里なのではないかというのは、ナカカラ様が茄里の前に現れて導いた事で間違いないかなと思っています。ただそこまでに至る道にはまだまだこれからだとは思いますが。

調停者バルバロッサ

 茄里がバルバロッサ家預かりになっているのはそういう安全弁であり最終決定権を保持するためというのだとしても、当然ボルガ・レーダーもブラウ・フィルモアもまたそれぞれに付き従う衛星王家も動いたんでしょうが、ジークの出奔後、彼女に対してそうとうの綱引きがあったのは想像に難くない事です。力の衰えた皇位1位継承王家、ボルガ・レーダー王家やドナウ帝国の正統フィルモ王家でありながらボルガ・レーダーとバルバロッサの婚姻に際して止められず逼塞していったリリのブラウ・フィルモア家ではそれを引き留めることが叶わなかったのでしょう。


 こうなってくると2988のハグーダの侵攻も、サードに対するラルゴの逆恨みもあるけれど、ハグーダを使ってジュノーに権益を(それはハスハも絡んでいるけれど、先々を考えての布石としてブーレイとして参戦した)取るためと思えば合点がいきます。そもそも物語の冒頭にジョーカーでの戦争は純粋に領地を得るためと言明されています。地下資源などは殆ど取り尽くし宇宙植民地、カーマント―など小惑星から掘り出している状況では結局人が生きていくための大地を得るためで、カラミティは星の寿命が尽きかけている事から、自国の人間が住める土地を少しでも確保という部分も少なくないはずです。となればジュノーへの干渉は権益を確保した上での発言権の強化(レーダー側の)ということで、ラルゴがそれを任されたのもコーラスの確執もあったとはいえレーダーの血筋だからなのかという事がおぼろげながらに見えてきます。


 だからこのアトキ侵攻の失敗はカモン(ハリコン)との確執からの因縁があるとしてもレーダー家の失点として、レーダー、フィルモア両王家の調停役であるバルバロッサ家が茄里を手元に置く名分となり得るでしょう。上手くいっていれば…それでも力が強大になり過ぎるのはなんとかとか言ってやっぱり手元に置いている気がしますが。実際レーダー8陛下とバシルはよくやりあったと言ってましたが、その実、笑い事では済まない事もあったことは想像がつきます。


 フィルモアとしては軍事国家として星団各国に睨みを利かせる立場でありながらも、自国の未来も考えなくてはならない。そんな状況であるからこそ1位の人物の言葉は全てのフィルモアの人間を動かす鍵になるわけです。王家の勝手になっては拙いというのがフィルモアの調停者たるバルバロッサの家長であるバシルの言い分ではないでしょうか。クリスティンを呪われた娘と呼び三色の娘に対する態度からはそういう部分も透けて見えます。もっともアドーはフィルモアを操るカーテンの奥、として帝国を動かそうとしている感じですが、分かりやすい小物感はバシルの歪んではいるけれどフィルモアの未来を案じる実力者とは格が違う感じがあります。


 そうですね、バシル大王は歴史上の人物で言えば井伊直弼でしょうか。まあプロトン城の門前にて暗殺ってことになならないとは思いますけれど…(ファイブスター物語ではいわゆる悪党は長生きする傾向がある)

二羽の小鳥たちの行く末は

 クリスはエンペラーズ・ハイランダーとして帝国最高騎士となり、茄里は元老院議長としてレーダー9に協力するという事が薄っすらと伝わっています。そこからはダイ・グはアドーたちの奸計で落命するか、はたまた病に倒れるかは分かりませんが、このまま結末を見ずに退場するようです。悲しい事ですが、それは変わりそうにありません。ですが詩女の託宣通り、クリスティンが倒れない限りダイ・グの想いは成就する。そしてそれはジークのいやレーダー9の願う未来でもあるのではないかと。


 そしてそのクリスを支えるのは実は茄里なのではないかと。意外な人物が支えるというのは、現状ではバシルはクリスティンを危険視していることからも、そうじゃないか(茄里は今はバルバロッサにいる)と思えてならないのです。願わくばこの二羽の小鳥たちの行く末には幸いがあることを。切に。そんな気持ちです。

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