依頼人を守るのが探偵だ。|『探偵はBARにいる3』|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

依頼人を守るのが探偵だ。|『探偵はBARにいる3』|感想【ネタバレ注意!】

2018年1月23日火曜日

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 『探偵はBARにいる』は大泉洋主演、古沢良太脚本で製作された映画で原作は東直己の小説です。これまでに2本が製作され原作をベースに脚色されたストーリーとなっていますが、この3作目に関しては原作者の了解を得て一部設定は原作ストーリーからもってきて練ったそうです。

動画はYouTubeより|『探偵はBARにいる3』予告編|東映映画ch

 前作の『探偵はBARにいる2ススキノ大交差点』から4年、ちょっと時間がかかりましたが、スクリーンの中の探偵と高田は相変わらずでした。tonbori堂は前2作も劇場で鑑賞し、この3作目もなんとかスクリーンので鑑賞したいと思っていましたが本当にロードショー終了ギリギリでの鑑賞になってしまいました(^^;


ススキノのプライベート・アイ、探偵ふたたび。

ストーリー

 相変わらず北日本最大の歓楽街ススキノで街のトラブルシューターをしている探偵。そんなある日相棒兼運転手の高田が北大の後輩を連れてくる。後輩の依頼で姿を消した彼女を探す依頼を何時ものように軽い感じで引き受けた探偵はその女子大生麗子の部屋へ手がかりを探しに向かう。だが彼女の持ち物が年齢に不釣り合いな高級品で占められている事に疑問を感じバイトでトラブルがあったのではと今度はバイト先へあたることに。バイト先のモデルクラブは実はモデルを派遣するという体裁ではあったがデートクラブのようなともすれば管理売春をしているような怪しげなところだった。いなくなった麗子のことをつっつくと怖いお兄さんたちに囲まれることに。若い用心棒、波留に頼みの高田もやられてしまい大ピンチに陥るが、クラブのオーナー、マリが私たちも麗子を探している。何かわかれば連絡をととりなしその場は解放された。


 旧知の地元ヤクザ、桐原組の若頭、相田にコンタクトをとるといきなり脅かされた上で手を引けと警告される。どうやら新興の花岡組といろいろ揉めているようで、数日前に起こったトラック運転手の殺害事件が絡んでいるようだ。記者の松尾から情報を流してもらうと、どうやら密輸したタラバガニが盗まれたということのようだがその背後には北城興産の北城が関っており、当の北城は花岡組の盃を受けた企業舎弟。そしてかなり凶暴ということらしい。そしてマリは北城の情婦でモデルクラブを任されていることを掴む。

 はたしてカニが盗まれただけ?もしかすると危ないブツを仕込んでいたのかもと考えた探偵だったがまだ事件がうまくつながらない。モデルクラブに潜入して出勤簿を調べたところ、どうやら麗子はその殺された運転手とモデルクラブから派遣され一緒にいたことが分かった。マリをマークする2人。麗子をアパートの一室匿っていたところを発見し事件のあらましを聞くがマリに連絡していたため北城の手下捕まり郊外に放り出されこれ以上深入りすると命は無いと言われる。その時探偵は以前馴染の娼婦、モンローが可愛がってた若い女を思い出した…。


 今は引退して漁師町で夫と産まれたばかりの赤ん坊とともに幸せに暮らしているモンローにマリの事を尋ねに行く探偵。やがてこの一連の事件はマリの仕組んだ筋書きということがおぼろげながらに分かってくる。探偵はしぶりながらもこの件にどんどん深入りしていきやがて事件は思ってもみなかった事になっていく。果たしてマリの目的は?そして探偵は無事にこの依頼を完了することができるのか?そしてニュージーランドの酪農を学びに行くことになった高田はススキノを去るのか?

探偵は依頼人を守らなくちゃいけないんだよ。

 今回そういう台詞がでているわけでもないし、最悪の依頼人って予告編ででてたり、まあなし崩し的にって気もしないでもないけど依頼人になったマリに関してもやっぱり探偵はそういう気持ちだったんだよなってのが切なくも分かるラストでしたね。このシリーズ、1作目も好きなんですけどこの台詞がラスト近くで出てきたとき1作目がああいう結末だったからこそ次の2作目のオチがこれまた活きてきたことにより方向性が決まった気がします。そして今回の3作目もあの流れを上手くくみ取っていましたね。そこはやっぱり古沢良太の仕事って気がします。


 もっとも今回は4年の歳月がかかっちゃいましたが。シナリオ製作に当たってはこの探偵役に思い入れの高い大泉洋とのディスカッションもあったそうで、探偵も円熟味を増してきたなって思ったし、特に高田とのコンビネーションは絶妙ですよね。あれは松田龍平の間と大泉洋の間が本当に奇跡的に産み出していたものなんだけど、最後のオチがあるんだろうなと思っていてもやっぱり二人の間がいいので、なんかいいねえってなるんですよ。こういうバディモノではコンビの掛け合いだったり間だったりが重要なんですが、ちょっと軽く、畳みかける探偵に対して、ぼーっとしているように見える高田のやり取りがなんとも心地よく、このシリーズの魅力の一つになっていると思います。

ススキノのプライベート・アイ

 探偵は原作でも名前は明かされず探偵としか呼ばれません。名刺も何も持たず、一応住居兼事務所らしきものがありますが、基本的に依頼はBAR、ケラー・オオハタのカードを渡してそこで連絡を受けるスタイル。原作は未だ未読なんですけどこの3作目でようやく原作読もうかなって気になりました(ヲイ!)と言うのも原作はどんな感じなのかなと。普通バーを根城にしている探偵となればかなりのハードボイルドな感じがしますよね。でもこの探偵はハーフボイルド。固ゆでではなくちょっと柔らかいというか。そうそう仮面ライダーWの主人公コンビで探偵の左翔太郎のキャッチコピーもそうでした。街をこよなく愛する者同士、翔太郎と探偵はけっこう共通点あります。まあ喧嘩は翔太郎の方が強そうですが(笑)

 探偵もそこそこ腕っぷしは強いんですがだいたい相手に強敵がいたり銃で脅されたりでボコられたりひどい目にあったりします。また桐原組の相田から情報を貰おうと会うと拷問されて手を引けって言われたり。このひどい目に合うのがお約束になっていますが大泉洋というキャラクターにそれがあっているのかある意味お楽しみシーンになっているのもこの映画の面白い所です。

 そんな探偵でもマジな時はマジな顔で決めますし、そういうギャップがいいんですね。それがこの作品の最大の美点であり大泉洋という役者がはまり役としてはまったと思うんですが、いかがでしょうか。

遅れてくる相棒、高田。

 高田は北大の農学部の助手で探偵の運転手兼用心棒である相棒です。とは言え探偵のピンチには何故か遅れてくるという部分があるんですが、作品を重ねるごとにそのノリが高度になってきて、2作目では出てきた時に暴徒に襲われている探偵を見てそのまま立ち去ろうとしたり(これは予告で確認できます)今回はいっしょに麗子の隠れている部屋で捕まったときに何故か怪我一つ無くどうしてお前は無事なんだ?と探偵が聞くと、「キャラじゃねえか」と返すとか。いや本当にいい返しですよね。


 基本的に寝ていたいというものぐさ太郎なキャラクターですが今回は強敵の波留が現れ一人道場でサンドバックを叩くシーンが挟まれ静かなる闘志を燃やしているシーンがありましたが決着の付け方がこれまた高田らしい。(笑)って感じのシーンになっていたと思います。オーストラリア行きのオチの付け方もある程度そうくるのかなと思ったらちょっとツイストさせてきましたね。ここは思わずプッとしてしまいました。

命を燃やすものを見つけた女、マリ。

 今回のヒロイン、「最悪の依頼人」とか書かれていましたが哀しい生い立ちを背負ってボロボロの人生の裏街道を歩いていた彼女が見つけた命を燃やすもの。その切なさは1作目、2作目よりもさらに切なくなるかもしれません。実際1作目のヒロインは本懐を遂げたし、2作目のヒロインは悲しい現実を知ったけど、その想いを胸に新たなる出発をしました。ですがマリは見た目は報われない結末を迎えてしまったわけですが、ラストにそれでも命を燃やすものを見つけた満足感に包まれていたのが印象的に映りました。予想がつくようなラストにちょいツイストいれるけど捻り過ぎず、確かに何故となるけれど、だからこそ余韻のあるいいラストだったと思います。

キャスト

 探偵、大泉洋、高田に松田龍平。そしてススキノの住人たちにマギー、安藤玉恵、篠井英介、桐原組の相田に松重豊、組長に片桐竜次。物語の発端になる麗子役には前田敦子。彼女も本当に面白いんだけど、そろそろ当たり役ってのが欲しいですよね。幾つかの作品で頭角を現してきてはいるんですが、みんなが知ってるこれっていうのが。今はAKB48を卒業した売り出し中の女優さんってだけなので。


 伝説の娼婦でマリの面倒を見ていたモンローには鈴木砂羽。キーポイントになるシーンだけでしたが相変わらずいいお芝居します。そしてススキノで暗躍する北城にはリリー・フランキー。最近本当にバイプレーヤーズに入れるくらいバイプレーヤーとして確立しつつありますよね。というか今回もパンフ読むと割と役を作り込んでいるようで、凄いなと思いました。役者の人はうかうかできませんぞって。その北城の部下でめっぽう強い若者、波留には志尊淳。今やってるNHKのドラマではトランスジェンダーの役を演じていますがトッキュウジャーのトッキュウ1号もやってる戦隊出身者。中性的な顔立ちもそうなんですが、こういったキレ役も出来ることでこれからのオファーも増えそうですよね。


 ヒロインのマリには北川景子。熱演といってもいいんではないでしょうか。彼女そもそも頑張り屋さんなところがあると思っていましたが、今回も気合入り過ぎっていう部分がありました。でもよく頑張ったしファムファタルというよりは薄幸の美少女という体に寄せていった作劇によりラストのあの顔を含めいい印象を持ちました。

最後に

 今回監督が1作目、2作目の橋本一監督から吉田照幸監督へバトンタッチされました。吉田監督はNHKコント番組『サラリーマンNEO』の演出、その劇場版の監督や『あまちゃん』の演出をしていた方だそうで、そのためカラー変わってないかなと思いましたが、やはりススキノという場の持つ力と主演のコンビネーションできっちり前作のいいところを引き継ぎながらも、アクションシーンこそ少なくなったもののハイスピード&スロー撮影も駆使してあらたな試みも盛り込んで『探偵はBARにいる』らしい画を作りだしていました。


 あとエンディングテーマが1作目はカルメンマキの『時計を止めて』、2作目はムーンライダーズの『スカンピン』。3作目はいったいなんだろうと思ったら、はちみつぱいの『大寒町』これはムーンライダーズも歌っています。というかはちみつぱいはムーンライダーズの前身なのですが、まさかのはちみつぱいかと。アバンでははちみつぱいの『大道芸人』がかかるなど。音楽は『相棒』シリーズの池頼広さんが担当ですが、主題歌選びが本当に泣かせます。探偵の物語はここで終わったわけではありません。これからもススキノのプライベート・アイとして町に居続けることでしょう。4の動きは今はありませんけど息の長いシリーズとしてまた帰って来てほしいものです。

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