現代のアウトロー|『ザ・ドライバー』(1978公開|米)|tonbori堂映画語り-Web-tonbori堂アネックス

現代のアウトロー|『ザ・ドライバー』(1978公開|米)|tonbori堂映画語り

2017年11月4日土曜日

car Gun movie

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 この夏に公開された『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督が影響を受けたと挙げているのがカーアクション映画『ザ・ドライバー』です。


そのインタビュー記事が掲載されている映画.comの公式アカウントによるツイート

記事中にあるウォルター・ヒル監督は、多くの数多くのアクション映画を監督したベテランで、代表作は他に『48時間』『レッドブル』『ストリート・オブ・ファイヤー』があります。脚本家、シナリオドクターとして『ゲッタウェイ』の脚色に関わり、『エイリアン』では製作など数多くの映画に関わったヒル監督の『ザ・ドライバー』は監督の好きなモチーフの一つ、現代の西部劇というべきものでした。

THE DRIVER - Restored in 4K | Official Trailer - Ryan O'Neal, Bruce Dern and Isabelle Adjani/YouTubeより/StudiocanalUK



謎の男、逃し屋ドライバー

 この作品では登場人物が全て通称で本名で呼ばれたりすることがありません。主人公は「ドライバー」です。これはラストのエンドロールにもそう載っています。ドライバーは凄腕の逃走車の運転手で、逃走用の自動車を調達し、強盗犯や犯罪を犯した者たちを時間通りにピックアップし、警察車両などの追跡を躱して彼らを安全なところに運ぶのが仕事です。ここからは記憶を頼りにストーリーを。もしかするとちょっと間違っているかも?しれませんがそこはご容赦を。

ストーリー

 2人組の強奪犯を犯罪現場からピックアップしたドライバーは今回も卓越したテクニックと全ての道路を知り尽くしたルート選択でパトカーの追跡を振り切り逃げ切りました。安全圏に逃れた後廃車置き場で報酬を受け取り逃走車を処分するドライバー。そんなドライバーを付け狙う刑事(ディティクティブ)。強盗犯などを毎回完全に逃がすドライバー逮捕に異常な執念を燃やし彼を捕らえることにやっきになっています。あるケチな強盗犯「眼鏡(グラス)」を捕らえた刑事は眼鏡に取引を持ち掛けます。刑事の指定する銀行から現金を強奪し、その逃走にドライバーを雇う。そしてそれを証拠にドライバーを逮捕するというものでした。


 しかし雇う段になって腕を見せろとドライバーに迫る眼鏡たち。用意された車に眼鏡とその仲間である歯(ティース)達を乗せて振り回すドライバー。あちこちをぶつけ車をボロボロにしながらも中はちゃんと大丈夫なように車を操るドライバーは、銃を振り回す連中は好かないと一旦は依頼を断ります。しかし刑事の動きを察知したドライバーは罠と承知でグラスの仕事を受けることに。首尾よく銀行から用意された200万ドルを強奪後、それを独り占めしようとした眼鏡はドライバーを始末しようとしますが反対に返り討ちにし、金をそのまま自身の仕事を斡旋する連絡屋(コネクション)の女に頼んで綺麗な金に換金(ロンダリング)してもらうことに。


 金の受け渡しには駅のコインロッカーを使うことになり刑事に監視されているドライバーは引き取りにふとしたことで知り合ったカードの賭博師(プレイヤー)の女に頼むことにしました。しかしグラスを殺されたと知ったティースが連絡屋を襲い金の交換のことを知りドライバーを狙います。若いドライバー(キッド)にドライバーを追跡させるティース。夜のロサンゼルスでカーチェイスを繰り広げますが未熟なキッドではドライバーにはかないません。車は横転し、ティースは倒されました。呆然とするキッドに命が惜しければ何処かに立ち去れというドライバー。そして刑事の待ち構える駅での取引。鞄をもちかえったプレイヤーの後を付けた刑事が逮捕しようとすると鞄の中身は空。換金屋が金を持ち逃げしていたのです。結局証拠がなく刑事にはなすすべのないままに、ドライバーはロスの夜の闇に消えていったのでした。

アウトローvsアウトロー

 ドライバーはアウトローですが刑事も相当にワルで逮捕のためなら手段を選ばない男で、部下の刑事もついていけないという感じで執念深くドライバーを追いかけます。それはもう法の番人というよりはアウトローに近い感じです。『ダーティハリー』も刑事ですが自警にちかく、法の限界に最後はバッジを投げ捨てますが、こちらの刑事はバッジの威力をも使うどちらかといえば悪辣な保安官といった立場です。そこに眼鏡(グラス)というアウトローが加わり物語は三つ巴の様相を呈してきますが、欲をかいた眼鏡はあっさりとドライバーに倒されます。


 ドライバーは主義として銃は好きじゃない言いますが、護身用に実は銃を持っています。銃を向けて勝ち誇ったグラスに銃弾をお見舞いするのですが、その銃はコルト・ピースメーカー。西部劇の銃です。ここからもこの映画が現代の西部劇を指向していることが見て取れます。ドライバーは名もなき男でガンマンや殺し屋ではないですが独自のルールを持ち、寄る辺なきストレンジャーとして描かれています。後半、刑事から狙われている事を知り街から出ようとするのもストレンジャーが街を出ようとする定型です。


 そこに絡んでくるプレイヤーもまたストレンジャーです。西部劇で酒場にいる女。だいたいが西部劇だと訳アリの娼婦であったりする事もありますがここではカードの賭博師という立ち位置です。ファムファタルな匂いもありますがやはりよそ者ストレンジャーの匂いが濃いキャラクターで、それを監督たっての希望でイザベル・アジャーニーにしたのはそういう事ではないかと推察しています。

 ドライバーはコルトSAA(ピースメーカー)を使用しますが刑事はS&Wのマグナムリボルバーを使います。M28ハイウェイパトロールというタイプで.44マグナムM29と同じ大きさの堅牢なNフレームを使った.357マグナム弾を使用するリボルバーです。強盗犯のグラスはコルトM1911A1、ティースはM28の6インチモデルでした。印象的なのはティースがコネクションを脅すときに、ソファに押し倒し口の中に長い銃身を突っ込むシーンです。マッチョなシーンですが子ども心にドキドキしたことを覚えています。

キャスト

 ドライバーには『ある愛の詩』でブレイクしたライアン・オニールが起用されました。正直に言うとtonbori堂はそれまでライアン・オニールというと『遠すぎた橋』に出てくる連合軍キャストの一人でまあそれぐらいの認識しか無かったのですが、青春映画のスターだったようです。その彼にこういったダークな役柄をさせたというのは非常に面白い試みだったと思います。結果は無口で武骨なドライバーを好演したのではないでしょうか。最近では人気海外ドラマ『BONES』でブレナンのお父さん(しかも訳あり父親)役で登場していましたね。娘のテータム・オニールと共演した『ペーパー・ムーン』も有名です。


 刑事役にはブルース・ダーン。『サイレント・ランニング』で最後までドローンロボットのデューイたちと植物プラントを守る狂気の人を演じたブルース・ダーンは今回は別の意味で偏執的にドライバーを狙う刑事を熱演していました。ドライバーを捕まえるためなら罠をかけるし、平気で人を陥れる危ない人物を演じれるのは彼しかいないでしょう。最近はタランティーノ監督の『ヘイトフルエイト』で元気なところを見せていましたね。


 謎の女、プレイヤーにはイザベル・アジャーニー。上にも書いたように監督経っての希望で渡米したフランスの女優さんです。このために英語を特訓したというようなことがパンフレットに載っていたように思いますが詳細は分かりません。なんせ昔のパンフレットが見当たらない上にその後米映画にも数本出演したり英語圏の俳優さんとお付き合いしたりと、恋多き女優さんでしたので。ただ何を考えているの容易に読ませないそういう堅い部分が謎の女プレイヤーにぴったりだったのは間違いありません。

影響

 この作品はマイケル・マン監督の『ザ・クラッカー真夜中のアウトロー』と同じく強盗映画に残した影響は大きいと思います。『ザ・クラッカー』は『ザ・ドライバー』の3年後に公開になりましたが、強盗犯がチーム(クルー)を組む時にドライバーは専門職を雇う。もしくは逃走経路に熟知した運転技術の高いものが行うという描写はマストになったと思います。またそういう逃し屋、運び屋のストーリーも多く作られることになりました。例えばリュック・ベッソンの『トランスポーター』シリーズはジェイソン・ステイサムの演じるフランクの造形にこの映画の影響を見て取ることができます。


 またニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』原作者のジェイムズ・サリスの小説は『ザ・ドライバー』の影響があると原作者自らが明言しています。映画のほうはレフンのカラーが色濃くありますが、主人公のドライバーの名前が出てこないとか、作風はとっても歪ではあるけれど西部劇っぽいストーリーとか、やはり『ザ・ドライバー』からのなんらかの影響があることは否めません。


 そこに『ベイビー・ドライバー』も加わったという事になると思います。『ザ・ドライバー』は上映時間も2時間越えではないちょうどいい時間なので、もし『ベイビー・ドライバー』を観てその影響を知りたい人や、強盗映画のクラシック、マスターピースとしてそういう方におすすめできる名作の一つです。気になったら是非観ほしいと思います。

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※2019.09.17「裏社会の逃がし屋」から「現代のアウトロー」へと改題しました。

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