立喰師イウモノ巷間ヲ騒ガシ|『立喰師列伝』(2016公開|立喰師列伝製作委員会)|tonbori堂映画語り-Web-tonbori堂アネックス

立喰師イウモノ巷間ヲ騒ガシ|『立喰師列伝』(2016公開|立喰師列伝製作委員会)|tonbori堂映画語り

2017年10月26日木曜日

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画像/リンクはAmazonより|Amazonビデオ|配信中|Production I.G/立喰師列伝製作委員会
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 『立喰師列伝』は押井監督の『犬狼(ケルベロス)伝説(サーガ)』とともに裏戦後史とでも言うべきライフワークのようなものです。古くは『うる星やつら』のメガネたちの放課後の買い食い、牛丼屋での立ち食いからその片鱗はあったと思うのですが。(ケルベロスサーガの元になったメガネのパワードスーツも『うる星やつら』からですよね。)まさか月見の銀二が映像化される事になろうとは。そして立喰師はケルベロス・サーガの中でもその姿を時々表しています。つまり押井監督の私的裏戦後史のさらに裏とも言うべき存在なのです。

【立喰師とは】

  • 路傍もしくは露店などで供される飲食物を立ち居ながら食する商形態の店舗などで調理法及び商形態に難癖、講釈をうち弁舌も巧に店主を圧倒し無銭飲食を行う者達の総称である。

 立喰師とは何ぞや?と説明すれば上のような説明が付けれると思います。もっとも実際にこのような者達はいないとされています。現実にいない架空の裏稼業の香具師、それが立喰師です。但しそれは本当に居ないのか?もしかすると我々がその記憶を思い出したくない過去として全員が目を閉じ耳を塞いでいるのではないだろうか?もしかするとその本質というのはあの決定的な敗戦からいわゆる安保、朝鮮特需、高度経済成長、オリンピック、大阪万博の裏に伏在し続けた過去を隠蔽してきたのではないだろうか?という部分に押井監督のきれいごとに塗り固められた中の猥雑とした中にあるものを見つめる視点を感じるのです。

 それはあたかも、一人ではなく全ての人がそれをそうだと認識できないまでに封じ込めればそれは存在しないし、またそれがあったことというのであればそれが真実となるようなものです。もしくはその両方であるとも言える不条理な世界が現出してしまう。と語ってしまうことが出来る映画、それが『立喰師列伝』という映画でした。ただし、そのまま観た全ての人にそれが通用する映画ではありませんでしたが。(苦笑)ああ、そう言えばNHKの「ひよっこ」、「植木等とのぼせもん」、「トットてれび」は奥茨城から東京、芸能界、TV界から見た昭和史というべきものですよね。それとは違う架空でありながら何かしらリアルな手触りを感じるのは何故なんでしょうね。


 今回映画のキャストは内トラ(内部エキストラ、スタッフなどがそのままエキストラとして出演すること)みたいだなと思う方が多いと思います。これは監督が身近な人の風体を念頭に置きながらキャラクターを作っていったのでそれを演じれる方々が結局その本人だった・・・・ということではないでしょうか(笑)実際のところは、こういう筋にこういう映像手法に好んで出てくれる俳優(一部の役者さんはたぶん出てくれたかもしれませんが)さんを見つけるより、連載時にモデルになっていただいた方々に出てもらったほうが手っ取り早いし、実写映画でもなくさりとてアニメでもないので声優としての演技も必要なく、写真による撮影による止めの演技だからこそ成立しえたという事ならではかもしれません(笑)


 その映像手法はスーパーライブメーション(パンフレットより)と名付けられ機動警察パトレイバー「WXIII」と併映だった『ミニパト』のパタパタ人形アニメの技法をさらに推し進めたものである意味立体的な紙芝居というべきものです。紙芝居というと皆さん結構出来とかを揶揄するときに使ってませんか?あのアニメ紙芝居より酷い出来やったなとか。この映画はそう揶揄される紙芝居をそのまま立体「紙芝居」でやってのけたわけです。多分これは押井監督の確信犯だと思います。そこには監督の悪意に満ちた皮肉が込められているのかもしれないとtonbori堂は観ていて感じたのですがどうでしょうか。アニメという連続した絵の映像、パラパラ漫画であるものと映画という現実を切り取りながらもフィルムのコマに封じ込めたモノもいわば連続する画の映像。そこにどんな差があるのか?といういやらしい問いかけです。そもそもが一般受けするかどうか分からない、でもなんか面白いかもしれない、よく分からない企画を映像化するにあたって押井監督が繰り出した一手らしい気がします。


 これは監督の巨大プロジェクトGRM(ガルム、後に『ガルム戦記』としてようやく日の目を見た)が頓挫(その前に『アヴァロン』というカタチでほんの一部だけは日の目を見ています)が色濃く出ていると言るのかもしれません。CGで全ての映像を(フェイクではなくリアルな映像材料を使える部分にも)使った押井監督の映像の業がこめられているところは、『イノセンス』『攻殻機動隊』と同一線上にありながらそれぞれが別のモノというのも押井監督らしいと思います。

ストーリーに関して

 お話は単行本にまとめられたエピソードをそのまままとめて映像化したもので語られています。順番も登場するキャラクターも同じ。一部の差は見られても殆どそのままです。そこに込められた監督の意思は、言い換えれば監督の仕掛けたゴトとなんだったのか?裏昭和史というべき偽りの中に埋もれた真実を掘り起こすことだったのか?それとも真実の中に埋没していく偽りだったのか?それさえもフェイクだったのか?という感じに溢れたストーリーが展開されていく事になるのです。


ひとつ言えることは監督自身も語っているように70年代以降は監督にとっては何も無かったということであり監督にとっての70年代は牛丼で完結しているということは半ば確信を持って論ずることが出来るでしょう。牛丼の牛五郎とハンバーガーの哲のエピソードが実は同じ事の反復になっているということにそれが見て取れます。まったく本質が違ったところにある牛丼とハンバーガーという食文化が全く違う原点を持ちながらもその発展形態が同じであったことから必然をもってそうなったのですが、原点の違いも論じている部分がその残滓を見るようでした。


 監督があちこちで語っているように前半の『月見の銀二』、『ケツネコロッケのお銀』(特に監督の偏愛はこのエピソードに集中しています。いや正確にはお銀に集中していると言っていいでしょう。)、『哭きの犬丸』、そして『冷やしタヌキの政』(このエピソードはケルベロスサーガの変奏曲で、これもまた監督の偏愛が感じられるエピソードです。)の話で終わっておりそのあとは、ただいつかどこかで見たような聞いたような台詞回しが繰り返されることになり、まさにビューティフル・ドリーマーな世界へと閉じていく構造になっています。


 そして蜃気楼なような『中辛のサブ』で話が締めくくられることにより常々監督が語ってい事、70年代以降は同じ事の繰り返しだったのかということを思い知らされることになる構造になっています。とはいえ安易な懐古ではなく葬り去られた過去に対することが今もなお進行中であるということへの警句と捉えることが出来るのではないでしょうか。

音楽とキャストに関して

 音楽に関しては押井組の音楽ならこの人、川井憲次氏(ハンバーガーの哲としても出演)でいかにもというパトレイバー劇場版以降の押井作品らしい音が全編に渡って鳴り響きます。そしてこれが昭和に対する鎮魂歌であるということがOPとEDの昭和歌謡タッチな楽曲で語られる。そう押井監督の作品では音楽もまた重要なのです。ボイスキャストは山ちゃんこと山寺宏一がナレーション他9役、店主の品田(出演は造形師の品田冬樹氏)を立木文彦氏(PRIDOとかフジの格闘系ナレーションで御馴染み、『銀魂』のマダオなど持ち役も多数。)が担当。榊原良子さんは顔出しで出演なさっております。ちなみに映像キャストで弟子筋にあたる攻殻SACの神山健治氏の店長はまさにハマリ役であったこと付け加えておきたい事項です(笑)


※このエントリは本家ブログ(web-tonbori堂ブログ)から転載加増筆改訂分です。エキブロエントリ時のタイトルは『立喰師イウモノ巷間ヲ騒ガシ -『立喰師列伝』』でした。ご了承いただければ幸いです。またこのエントリを再掲載、加筆のためにいろいろしらべているとマクロスFの早乙女アルト役中村悠一が出演してたとか。えっ?どこにとなって、またちょっと観たくなりました。まだまだいろいろ出てくるかもしれませんね(笑)


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