鏡の国のプリンセス|『プリンセス・プリンシパル』|感想/考察【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

鏡の国のプリンセス|『プリンセス・プリンシパル』|感想/考察【ネタバレ注意】

2017年9月27日水曜日

anime

X f B! P L

 『プリンセス・プリンシパル』最終回を迎えてしまいましたね。caseのナンバーが時系列が入れ替わっている事を示しているのはすぐに分かりましたが20番台出てきたんで2クールあると騙されました(嘘)でも2クール分やってくれてもいいんやでと思ったのも事実です。


画像はAmazonより(リンクも)|プリンセス・プリンシパルを観る | Prime Video
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 女子高生がスパイっていうとどうしてもお気楽なギャグライクなものを連想してしまったり明るい話を想像しますが、こちらはシリアスよりな話でしたね。よく考えると女子高生のアサシン(暗殺者)のアニメやラノベ、漫画もいっぱいあるのだから当然シリアスよりのアニメがあっても不思議ではありません。

ドライバー、メカニック、サムライ、プリンセス、スパイ

 tonbori堂がこのアニメを観始めたのは、アンジェの愛用銃、ウェブリー=フォスベリー・オートマチックリボルバーが出ているというのがきっかけなんですが、この辺りは『終末のイゼッタ』を観た時と同じ理由です(『終末のイゼッタ』は架空のヨーロッパの小国が今の歴史とは違った欧州の大きな大戦の渦に巻き込まれ、王女のために一人の少女が立ち上がり国を救おうと奮闘する。彼女にはその力があった、秘められた魔女の力が、というお話でした。またtonbori堂アニメ語りでちょっと書いてみたいと思います。)『終末のイゼッタ』は対戦車ライフルを持った魔法少女というかけ離れたイメージビジュアルで気になって観始めたのきっかけです。

画像はAmazonより(リンクも)|Amazonビデオ|配信中|(C)終末のイゼッタ製作委員会|
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 あちらは第二次世界大戦がモチーフとなった架空世界でしたが、『プリンセス・プリンシパル』は第一次世界大戦直前の産業革命期のブリテン(イギリス)が舞台となっています。橘監督がプロデューサーから話を持ち掛けられたときにビクトリア王朝時代のスチームパンクで行きたいということでこういった世界観になったそうですが、架空の壁のあるロンドンはいろいろ今の状況をも映し出す鏡にもなっていた気がします。

スパイは舞い降りた。

 アルビオン王国という名のイギリスブリテン島の王国はケイバーライトなる物質を発見。それを用いた王国空中艦隊で世界を席巻、大いなる覇権国家となりました。しかし民衆の不満が爆発、王国の首都ロンドンは2つに分断、アルビオンは王国と共和国の2つに分かれてしまったのです。という始まりから第1話は王女を含めたプリシパルのチームが既に活動していてケイバーライトの技術者の亡命に手を貸す作戦が…実はという話でした。


 裏切り、嘘など重要なキーワードがちりばめられていたもののアクションも十分な引きの強いストーリーでしたが、実はtonbori堂が最初に観たのは第2話、物語の発端となる王女と入れ替わり王国の情報を入手するモグラ(モール)となる、チェンジリング作戦のためにクィーンズ・メイフェア校に現れた共和国側の情報機関のスパイとしてアンジェが転校してくるところからです。そして先に潜入していたドロシーとともにその作戦を実行するがという部分からでした。そのあとすぐに第1話も配信されているので観たのですが、これはなかなかよく出来ているなと思いました。


 大きな秘密を共有しているアンジェとプリンセス。そして姉御肌だがスパイにしては情け深いドロシー。そしてプリンセスを慕うベアトリクス。そして小柄だが戦闘力が高くちょっとずれてるちせらのチームモノとしての面白さや1話にして既に完成しているチームを描いておいて、どうやって彼女たちが組んだのか、2話では彼女らのチームアップの話にしたり、王国の現状や共和国の内情などなど時間軸を入れ替えながら上手く最終回に誘導されたなという感じです。


 アンジェのカバーネームアンジェ・レ・カレはスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレから来ていると思いますが、スパイらしい非情な選択や厳しいストーリーの中にもほっとするストーリーを織り交ぜたり、非情だけじゃないところも盛り込んでいく様は、最初はスパイ小説『寒い国から帰ってきたスパイ』を読んでいたのに最後は冒険小説『鷲は舞い降りた』を読んでいた感じになりました。と言えば分かっていただけるでしょうか。えっ?例えば分かりづらい?なんでしょうゴリゴリのスパイの暗闘ってわけじゃなく(その側面もあるのですが)主人公たちが乗り越えるべき壁にぶつかり、艱難辛苦の果てにそれを乗り越えていく冒険小説的な展開になったのではないかと思うのです。

アンジェ

 本作の主人公、鉄壁の女スパイ、しかも黒とかげ星人。養成所(ファーム)を優秀な成績で卒業した腕利きで、数人しか渡されない超秘匿兵器、携帯型ケイバーライト装置Cボールを所持しています。少女には不釣り合いな大型拳銃ウェブリー・フォスベリー・オートマチックリボルバーを使いこなすなど銃の腕前も格闘も高いレベルです。その正体はそれこそ2話の時からそうじゃないかと思いつつ、ずっと引っ張り続けて第8話『#8 case20 Ripper Dipper』にてやっと明かされました。だからこそプリンセスを大事に思い、2人のための新天地を用意していたのも頷けます。またこの部分が『カサブランカ』と二重にかかっているとは橘監督と脚本、構成の大河内さんの仕掛けでしょうか。孤高の女スパイという厚い殻をまとったヒロイン。それがアンジェでした。

プリンセス

 実は真のアンジェであり本作の真の主人公でヒーロー。幼い頃に入れ替わり、地獄の日々を耐え忍び、真のプリンセスとなった努力の人です。

『マナーが作るんだ、人間を 分かるか意味が?』byキングスマン:ハリーの台詞より

 まさにキングスマンですよね。二重生活を送っていたため、荒事にはアンジェやドロシーにはかないませんが、頭脳の方はアンジェにもひけをとりません。いや彼女を上回る知性と品格を兼ね備えているのです。だからこそアンジェ(シャーロット)は彼女をプリンセスと呼ぶのです。最終章の2話は大河内さんの手によるものではなく神山健治監督の『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』にも参加している檜垣亮さんでしたがそれまでの展開を踏襲した最終回として大きな困難を乗り切りました。当然まだまだ彼女たちの試練は続くと思いますがより一層絆が深まったよい最終回であったと思います。

ドロシー

 チーム最年長の20歳、そして高校生として潜入中といういささか痛い設定とされていますが、大丈夫。日本でも海外でも20歳以上で高校生役やってる役者さんはいっぱいいます(笑)ですがチームのお姉さん役としてはその20歳設定が上手く利いていると思います。『うんうん、お姉さんに言ってみ?』というアレです。もっともアンジェは抱え込むし、プリンセスは腹を読ませません。いきおいチーム最年少のベアトリクスの面倒を見る事になりますが、この2人が中心になったエピソードも含めいいコンビだと思います。


 ドロシーの父親のエピソードはアンハッピーエンドに終わりましたがベアトリクスとの距離が縮まっているなと思わせる描写があったり、過去が人を作るというこの作品に通底している部分もしっかり描かれていました。こういうチームのドライバー役のキャラクターってけっこう影が薄くなるけど目立つとけっこうヤバいという法則が何故かtonbori堂の中にあるのですが、そういう事もなくちょっとほっとしております(笑)

ベアトリクス

 チーム最年少、プリンセスのお付き役兼友人としてプリンセスがアンジェたちと組むこととになりなし崩し的に参加する事になりましたが、プリンセスを慕うがあまり、彼女を守りたいという意思が強かった最初に比べ、徐々に打ち解けてきた(といってもこれは多分に人好きのするドロシーのおかげでしょう)ベアトでしたが、いざチームの一員となると機械の傾倒しすぎた父親によって強制的に手術された(それによって周りからいわれなき迫害をうけていました)機械の声帯のおかげでチームの立派な戦力となりました。一度聞いた声なら複製できるという強みはチームの危機を度々救っています。またメカにも強くそういった部分でも活躍できるようになったのもドライバーのドロシーのおかげかなとか(ドロシーも自分の使う蒸気自動車の整備は一通りしているようなので)。

ちせ

 本名、藤堂ちせ、佐賀藩の出身の隠密であり日本政府の密命を受けている密偵でもあります。使節団を実父であり剣の師である十兵衛が狙っていると知り、単身使節団を追いかけ父と対決、使節団を出迎えにきたプリンセスと護衛のために付き添ったアンジェたちもこれに巻き込まれ、彼女と出会います。その後、小国日本が共和国、王国のどちらにつくのが得策かを見極めるためにアンジェたちのチームに加わる事になります。いわゆるちょっと周囲から浮いている異国の客人キャラですが、まだ年若くベアトと同じ年ながら既に老成したような達観した部分も見受けられるのは年端もいかぬころから隠密として働いていたからでしょうし、日本が維新を経た後となればそれなりの経験もしてきたといったところでしょうか。時にそれは鋭い人物観察眼となってあらわれたりもしていましたが、謹厳実直で曲がった事が許せない純なところもありました。いわゆる影の仕事をしていながらもまさに好漢という、好漢は男子に使う言葉ですが、ちせにもそれはぴったりと当てはまると思います。

コントロールの人々

 共和国情報部でアンジェたちに指令を与える側の「大人」として登場する人物たちですが、一筋縄ではいかぬL、分析官の7(セブン)、技官のドリーショップ、軍の調整官、大佐がいます。基本的には文官組織のようですが、共和国も軍が革命を主導したようでたびたび軍の暴走が見られる政体のようです。最終回では指揮官であるLを更迭しジェネラルという人物がでてきましたが、それには組織間の綱引きがあったとされています。


 この辺りはスパイ小説の本場イギリスのように強硬派や穏健派の化かし合いのようなものがあるという感じですね。スパイ小説っぽいです(笑)特にLは所謂腹の内をみせないボスっていうテンプレートめいたキャラですが、スパイ小説の登場人物はほぼそういう人たちで占められています。興味のある方は『裏切りのサーカス』という映画をご覧になると良いかと思います。渋いおっさんファンは必見です。

 ちなみに「コントロール」というのは『裏切りのサーカス』の中に出てくる英国情報部MI6の元長官のコードネームで、誰も名前も知らずただ指揮官ということでコントロールと呼んでいる(偽名、カバーネームはあるけれど)という人物でした。Lに関しては『007』シリーズのMI6長官がMと呼ばれている事からだろうと思います。

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ノルマンディー公

 内務卿という実質の警察と軍の両方を支配する官僚の大ボス、つまりラスボスです。声をあてた土師孝也さんはもともと家弓家正さんと声質が似ているなと思いましたが、今作では家弓さんそのものか!ってなるくらいにナチュラルなお芝居でちょっとびっくりしました。部下に褐色の肌を持つガゼルがいるところを見ると実力があれば植民地の人間でも登用する度量のある人物のように見受けられますが、その実、全ては自分の思う描くようにするためのコマでしかないと思っている節もありそうです。いわゆる決着はついていないし、プリンセスの秘密に勘づいたようで2期があるとすればノルマンディー公との暗闘がますますメインになりそうですよね。

最後に

 ハードな設定にアクションと一筋縄ではいかないストーリー。明朗快活なキャラクターばかりではないけれど、しっかりとしたバックボーンをもったキャラクターがおりなす話は毎回楽しませてもらいました。そして美術設定がまた緻密でそれも良かった点の一つにあげられます。いろいろ話題になった時系列入れ替えは混乱をきたすようなやり方ではなく、あらかじめタイトルに明記する巧さも良かったと思います。


 橘監督以下スタッフの練り上げた世界観は緻密な考証で、ところどころマニア心をくすぐられる部分もスパイ小説や冒険小説好きにはニヤリとできるポイントでした。エピローグで彼女たちのさらなる活躍と困難が待ち受けていそうな未来が示唆されましたが、2期があるならこのテンションで是非お願いしたいところです。当然前のような感じではいかないでしょうがさらに困難なミッションに彼女たちがどう挑むのか?興味が付きません。

以前に書いたエントリ ガジェット関係、武器やケイバーライトなどについて書いています。:『プリンセス・プリンシパル』について知っている2、3の事柄(リンク)

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