イギリスを救った翼。/映画『ダンケルク』に登場した飛行機たち。|tonbori堂メカ語り-Web-tonbori堂アネックス

イギリスを救った翼。/映画『ダンケルク』に登場した飛行機たち。|tonbori堂メカ語り

2017年9月22日金曜日

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飛行中のスピットファイア|<a href="https://pixabay.com/" target="_blank">Pixabayより</a>
飛行中のスピットファイアとハリケーン|Pixabayより

あれはロールス・ロイスエンジンの音だ。

 劇中で英国海軍にダンケルクへ徴発されることになった小型船ムーンストーン号の船長ミスター・ドーソンが、ムースストーンの上空を通過する前にスピットファイアだとつぶやいた後にジョージが何故分かるんです?という問いに対して発する台詞です。もしかすると「まちがえるわけがない、ロールス・ロイスのいい音だ」だったかもしれません。自動車もそうなんですが同じ4気筒でもそれぞれ音が違うのです。もちろん直列と水平対向でエンジン音は違ってきますが、排気管の取り回しやいろんな要素でも音は違って聞こえます。スポーツカー、ラグジュアリーカーでも同様です。


 『ダンケルク』は兵士たちの生への渇望と、同胞を救おうとする人たちの苦闘を描く映画でしたが、今回は「空の1時間」に出てきたもう一方の主役とも言うべきレシプロ戦闘機スピットファイアとその周辺について書いてみたいと思います。

イギリス空軍RAFの戦闘機。

 第二次世界大戦、このダンケルク撤退のダイナモ作戦後に飛来するドイツの爆撃機と戦闘機を撃退したことで(バトル・オブ・ブリテン)その名を知られているレシプロ単座戦闘機がスピットファイアです。第二次世界大戦の名戦闘機と言えば日本の零戦こと零式艦上戦闘機、隼、紫電改、飛燕。アメリカのマスタング、ライトニング、コルセア、ヘルキャット。ドイツのメッサーシュミット、フォッケウルフが有名ですがイギリスはこのスピットファイアとホーカー・ハリケーンが有名です。

ホーカー・ハリケーン

画像はWikipediaより|ホーカー ハリケーンMkⅡ
画像はWikipediaより|ホーカー ハリケーン

 ミスター・ドーソンの息子(長男)は空軍のパイロットということがピーター(次男)から海面に不時着しムーンストーン号に救助されたスピットファイアのパイロット、コリンズへ答える形で語られていましたが、その長男が搭乗していたというのが、劇中には一度も姿を見せなかったこのハリケーンです。ハリケーンもスピットファイア同様にダンケルク撤退を支えた戦闘機でした。


 ハリケーンはスピットファイアに比べ木製部分が多く旧式ともいえるものでしたが反面軽く頑丈であり冗長性もある優れた戦闘機でした。イギリスは大戦初期を通じて木製の機体を運用しており、デ・ハビランド モスキートはもっとも有名な木製爆撃機として有名です。また大戦初期には雷撃機として複葉のフェアリーソードフィッシュも使用されていました。スピットファイアはモノコック構造を持つ新鋭の金属製レシプロ戦闘機のため開戦時に数が足りず、いわゆる枯れた技術(古いものの信頼性の高い技術)で作られたハリケーンはRAFの初期を支えた戦闘機といっても過言ではありません。

ロールス・ロイス マーリン

 スピットファイアもハリケーンも基本的には同じエンジンを搭載しています。いやその当時のイギリスの軍用機のエンジンは全てこれだったといってもいいくらいです。まさに当時のイギリスを支えた名エンジンといってもいいのが、このロールス・ロイス マーリンです。


画像はWikipediaより|<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%B9_%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3" style="font-size: small;" target="_blank">ロールス・ロイス マーリン</a>[[File:Rolls-Royce Merlin.jpg|thumb|オーストラリアで展示されたマーリンエンジン(2005年)]]
画像はWikipediaより|ロールス・ロイス マーリン[[File:Rolls-Royce Merlin.jpg|thumb
|オーストラリアで展示されたマーリンエンジン(2005年)]]

 ロールス・ロイスと言えば高級車メーカーですが、エンジンメーカーとしても有名で、数々の高級車とともに名エンジンをも作り出してきました。実は飛行機と自動車は切っても切れない関係で、レシプロエンジン時代には自動車会社が内燃機関の技術を基に航空機用の大出力エンジンを開発したり、日本では戦後、解散した中島飛行機の技術者が富士重工業の基礎を築いたりなど枚挙にいとまがありません。BMWも航空機エンジンのメーカーでした。エンブレムの青は空の青を指しています。


 マーリンエンジンは液冷V型12気筒で4バルブOHC(オーバヘッドカムシャフト)で、1100馬力をたたき出すことが出来ました。宮崎駿監督の『紅の豚』でポルコの愛機、サボイアにローマのピッコロ社で新たに搭載されたロールス・ロイス ケストレルの後継エンジンでもあります。基本設計はケストレルを継承しつつ1100馬力を達成するために開発されたエンジンは液冷式のため空力的にも洗練されたデザインを持つスピットファイアにぴったりなエンジンです。

スーパーマリン・スピットファイア

 大戦を通してドイツ空軍のメッサーシュミットやフォッケウルフと死闘を演じたイギリスの名戦闘機です。『ダンケルク』でもファリアとコリンズがメッサーシュミットやハインケル爆撃機相手に果敢に立ち向かっていました。

飛行中のスピットファイア|<a href="https://pixabay.com/" target="_blank">Pixabayより</a>
飛行中のスピットファイア|Pixabayより

 スピットファイアはその丸みを帯びた主翼と長いノーズを持つ特徴的なシルエットと独特なエンジン音で誰からもスピットファイアとすぐに分かります。非常に流麗なデザインをしています。兵器を美しいといってしまうのは憚れるところがある方もいらっしゃるかもしれませんが、機能を追究した機械は時として美しく見えるものではないでしょうか。武装は初期型が.303口径ブローニング機関銃が8丁、『ダンケルク』前後から配備されはじめたのが機首に2丁の20mm機関砲とブローニング機関銃4丁で火力をアップさせたタイプです。ちなみに20mm機関砲を搭載している当時の戦闘機は多く、零戦、メッサーシュミットは最初から搭載しています。


 イギリスの空の守りとして活躍したレシプロ戦闘機スピットファイアですが、弱点もありました。それは航続距離の短さです。スピットファイアの初期型の航続距離は651km、日本の零戦は巡航速度で、2,222kmの航続距離を誇りますが、欧州での大戦初期は戦闘機は主に防空任務や前線の飛行場から出撃し爆撃機の援護などで、さほど問題にならないとされたのです。ちなみにライバルのメッサーシュミットBf109も航続距離は同様短かったとされ欧州での戦闘機運用と太平洋を中心とする長距離、空母運用を主にする日本との性能要求の差であると思われます。撮影に使用されたスピットファイアは3機、2機のMk1aと後期型MkV1機だそうです。3機編隊でミスター・ドーソンのムーンストーン号の上を通過するシーンは本当にほれぼれします。


 ちなみにtonbori堂がよくやっているゲーム、『ACE COMBAT INFNTY」は基本的にジェットなのですがおまけ的要素としてレシプロ機が追加要素として導入されています。零戦、メッサーシュミット、ライトニング、そしてスピットファイアです。実はtonbori堂がよく使うレシプロはメッサーシュミットだったのですが、『ダンケルク』観た後に急きょスピットファイアを使って出撃しました。そう影響されてしまったのです(笑)それぐらい『ダンケルク』はスピットファイア大活躍の映画でもあります。

 ですが撤退する英陸軍の兵士にはそれが分からず撃墜され救助されたコリンズは帰還してきた他の兵士に「空軍は何をしてたんだ」と言葉を投げつけられます。しかしミスター・ドーソンは「恥じることは無い。私たちは知っている」と言葉をかけます。ここもグッとくるポイントですね。

ルフトヴァッフェ(ドイツ空軍)

 ドイツ軍兵士の姿は『ダンケルク』では殆ど出てきませんでしたが、その代わりに英仏両軍の前に死を運ぶ凶鳥として現れたのが急降下爆撃機ユンカースJu87スツーカや双発爆撃機ハインケルHe111です。

 Ju87スツーカは東部戦線や電撃戦で使用された急降下爆撃機で、その主翼下のエアブレーキの風切り音は悪魔のサイレンとして恐れられ、後に降下時に別に風力で回るサイレンを鳴らすことで戦場での威嚇効果を狙ったとか。急降下爆撃を加え、撤退するための収容船や船を待つ隊列に爆弾を降らせてきます。

 ハインケルは双発の爆撃機で脱出する英軍艦艇に爆撃を加えた機体です。この後の『バトル・オブ・ブリテン』でイギリス本土へ爆撃を敢行した爆撃機ですがその多くはスピットファイアなどに撃墜されたそうです。


 劇中でそのハインケルを護衛していたのがメッサーシュミットBf(Me)109です。大戦中で一番多く生産された戦闘機として有名で、プロペラシャフトに機関銃を装備した同軸モーターカノンは強力な武装で装備された2丁の機関銃と合わせれば強力な火力になりますが実装に手間取ったり結局初期は機首部に装備した機関砲と翼内に収められた機関銃2丁という装備になりました。とは言え良好な運動性能と先進性のある設計で今も語り継がれる機体です。


メッサーシュミット Bf 109 E
画像はWikipediaより|メッサーシュミットBf109(メッサーシュミットMe109)
[[File:Messerschmitt Bf 109E at Thunder Over Michigan.jpg|thumb|メッサーシュミット Bf 109
E|alt=メッサーシュミット Bf 109 E]]

 ちなみに『ダンケルク』で使用されたのはフランコ独裁政権時のスペインで使用されていたBf109のスペイン改修型、イスパノHA1112。実はこの機体、第二次世界大戦後も使用され最終的にエンジンはロールスロイス・マーリンエンジンを搭載することになりました。スピットファイアと同じマーリンです。歴史の皮肉ですね。この機体は『空軍大戦略(バトル・オブ・ブリテン)』という映画にもメッサーシュミットBf109の代わりとして登場しています。


画像はWikipediaより|スペイン語版イスパノHA-1112
[[File:HA-1112-M1L Buchon C4K-102.jpg
|thumb|Un HA-1112-M1L Buchón en condiciones de vuelo,
 pintado para representar un Bf 109 alemán, con marcas de la Luftwaffe.]]

 なお上のメッサーシュミットのようなノーズ部分を黄色く塗られた塗装は『ダンケルク』以後の事だそうで。映像的に敵味方が分かりやすいように敢えて史実とは違う塗装にしたとのことだそうです。ソース|「ダンケルク」パンフレットプロダクションノートより

HA-1112-M1L(左)とBf 109G-2(右)|画像はWikipediaより
画像はWikipediaより|イスパノHA1112[[File:HA 1112-M1L and Bf 109G-2.jpg
|thumb|HA-1112-M1L(左)とBf 109G-2(右)]]

 2機の機体が並んで飛行している画像です。シルエットの違いがよく分かるかと。またコクピット内のクローズアップ撮影のため旧ソ連のレシプロ練習機Yak-52が使用されています。

最後に

 『ダンケルク』はミリタリーマニアにも見どころいっぱいな作品なのですが、今回はtonbori堂の好きな飛行機について書いてみました。一番好きなスピットファイアのシーンはラストシーン。燃料切れで、引き込み脚を展開するために重いクランクを回しながら砂浜へ着陸を試みるファリア。あのシーンは今まで緊迫感の溢れる音が鳴り響いていた時と違う一種の静謐な時間が流れていました。あのシーンをもう一度劇場で堪能してみたい気がします。

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