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原水爆で甦った恐怖。|『ゴジラ』(1954公開|東宝)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

2017年8月15日火曜日

GODZILLA movie

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『ゴジラ』(1954)DVD/ジュエルケース/tonbori堂所有
『ゴジラ』(1954)DVD/ジュエルケース/tonbori堂所有

 『原水爆で甦った古代の大怪獣。』それが『ゴジラ』です。何故『ゴジラ』のエントリをしたためようとしたのかと言うと今日が8月15日ということも影響しているかもしれません。『ゴジラ』は娯楽映画として作られましたが、戦争の記憶が色濃い中で作られたため、そこかしこに戦争の匂いがします。ゴジラに蹂躙され、焼かれた街や、深夜のサイレン。ゴジラに怯え疎開を考える市井の人たち。そういった作品を最初から意図したわけではないにせよ、そういう匂いがする『ゴジラ』について少し語ってみたいと思います。

『ゴジラ』プレビュー|YouTubeより|youtubeムービーより本編¥300で視聴可能

戦後に現れた戦争の亡霊

 「それは太平洋の核実験で巨大化した恐竜だった。」

 これは作中で大戸島に現れた正体不明の災厄を調査に訪れた山根博士(志村喬)が、国会の特別委員会のようなところで述べた所見です。最初の会議の時には実際にこの目で見ないと分からないということで大戸島へ飛び調査をするうちに大きな足跡を発見します。その足跡にその生きものに付着していたであろうと思われるトリロバイト(三葉虫)を発見するなどして、正体不明の怪物が、大戸島の言い伝えにしたがい仮に「ゴジラ」と呼称するその生物の由来がその足についていた土の年代測定から古生代にあり、さらにはトリロバイトや足跡から強い放射能が測定された事から、当時の冷戦時代に米仏が繰り返した原水爆実験の影響を受けたと推測しました。原水爆実験が競って行われたこの時代、ビキニ環礁での米軍の水爆実験による第五福竜丸の被曝が念頭にあったことも事実ですが、その事が「ゴジラ」と戦争というものと結びついたことは否定できないと思います。

ソース|Wikipedia|第五福竜丸

第五福竜丸写真
被曝前の第5福竜丸と言われている写真|ソースはWikipediaより

対ゴジラ邀撃作戦

 勇ましい音楽で保安庁の擁する巡視船による爆雷攻撃が開始されました。この辺り自衛隊の前身であった警察予備隊からの保安隊、警備隊の登場は当時そこから自衛隊に改変され前年に休戦を迎えた朝鮮戦争の影響も感じます。緊迫した世界情勢、冷戦下の日本の再武装です。日本は日本国憲法9条で戦力を放棄し、戦争の手段とする戦力を一切持たないとはずでしたが、周辺事情が変わり東西冷戦の中、日本も共産圏に対しての盾として働くことを求められた結果、産みだされたのが警察予備隊、警備隊からやがて改編される自衛隊でした。


 映画では防衛隊としてゴジラから市民を守るために活動することとなりましたが、そのシーンがまた先の戦争を思い起こさせる一因になっているとも言えます。兵器は当時まだ発足したばかりの海上保安庁が協力しフリゲート艦などが撮影に協力。発足まもない陸上自衛隊も野戦砲や戦車、普通科連隊などが撮影協力をしています。

ゴジラに爆雷投射の記録映像がつかわれたくす型護衛艦
くす型護衛艦
ソースはWikipedia|くす型護衛艦より

空襲の悪夢再び、ゴジラ首都蹂躙

 太平洋から大戸島、そして東京へと向かうゴジラ。研究本などで東京空襲のコースをとっているなど、よく言われていますが、実際にどうだったのかはtonbori堂は知りません。ただそういった本にはそういう考察がよく載っている事は知られています。しかしそのB-29爆撃機のコースをなぞっているかのように怪獣が東京にあらわれ、(実際には空襲コースではないそうです。ここは異論異説もあるのですが基本的にコースとしては一致していないとか。)復興してきた街並みを口から吐く放射線を帯びた火炎放射やビルを破壊する様はあの空襲を思い起こさせるには十分、余りあるものだと思います。


 劇中で、親子が燃え盛り崩れ落ちそうなビルのそばで「もうすぐお父様の元へいけるのよ」といって母親が子どもたちをぎゅっと抱きしめるシーンなどは父親が戦地で亡くなったか、それとも空襲で亡くなったかは分からないけれど先の戦争で落命したというのが分かります。そして再度の災厄にもうなすすべもなく呑み込まれていく人の悲哀も抉り出した悲しく重いシーンです。


 ゴジラは2度東京を襲います。2度目の際には空襲でも破壊されなかった国会議事堂をものもの見事に破壊していきました。そして放射線を含む炎で東京を焼き尽くしまるで大空襲にあったあの風景に戻してしまうという部分は、あの空襲をメタファーとしていたのは間違いないでしょう。その時に国会議事堂を破壊したのは、製作者たちになにか含むところが多少はあったかもしれないですね。

オキシジェンデストロイヤーが示すもの

 芹沢博士(平田昭彦)が開発した特殊な薬剤です。水中にある酸素を破壊するものですが、この開発にも実は戦争が関わっています。芹沢博士はなんらかの事情で片眼を失っていますが、カラーのポスターを見ると実はケロイド状の火傷も負っていることが分かります。どのような経緯でこのような火傷をおったのかは分かりませんが片眼を失った事と無関係ではなく、戦前は明るく快活な性格であったことも山根博士の娘であり形だけの婚約者、恵美子(河内桃子)から語られています。この辺りの話から芹沢が戦争の被害者という語られ方もありますが、一方で恵美子に頼んで芹沢宅に取材に行った荻原記者(堺左千夫)がドイツ人のある科学者がセリザワの研究しているものなら、このゴジラに対する有効な対策になるやもという話を聞きこんでいます。


 ここから戦前に芹沢博士はドイツに派遣留学していた可能性もあるのではないかと思うのです。戦時下にドイツからのと言えば映画『ローレライ』もドイツから日本に回航されてきたという設定でしたが、これは戦時中技術交換という名目でイ号潜水艦とUボートが秘密裏に日本とドイツを往還したという事実を下敷きにしています。

ソース|Wikipedia|遣独潜水艦作戦

 科学者として水中に豊富に含まれている酸素の研究中に偶然発見した薬剤が酸素を破壊し生物を溶解せしめる恐ろしい研究であるから封印したのは、このような強力な物質が心無い人の手に渡れば兵器となりえると断言していますが、それはドイツへの留学からの体験からというのは妄想にすぎるかもしれませんが、そう思えるのです。何せ日本の敗戦を決定づけたのは科学の粋といってもいい原爆であったのですから…。ラストシーンで尾形(宝田明)を先に浮上させ、自らはその存在をゴジラと共に消し去るまでの悲壮な決意はあるいは先の戦争で地獄を見てきただけでなく、一種そういう事に加担してしまったことによる悔恨の表れだったのかもしれないと思うと切なくなります。

最後に

 1954年に公開された『ゴジラ』はエンターテインメントを目指して作られた事は疑いの余地がありませんが、特撮映画、パニック映画として優れていただけでなく、ある種の『戦争映画』のメタファーでもある部分がありました。その後の『ゴジラ』シリーズは怪獣プロレスと揶揄される子供向けの作品の側面を持つものもありましたが、やはり特撮、パニック、そして「戦争」のメタファーは拭い去れないものがあると思います。本多猪四郎監督のドキュメンタリー的な抑えた描写、円谷英二による特撮。企画を立てた製作の田中友幸。そしてそれを支えた人々。伊福部昭の手によるテーマ音楽は未だに繰り返し使われるモチーフとなっています。

 その後のゴジラシリーズは色々ありましたが1984版『ゴジラ』金子修介監督『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』を経て、その系譜に連なっている『シン・ゴジラ』まで。そしてハリウッドで新作が進行中、新作アニメも作られています。時代が産みだした怪獣ですが、いろいろな思いを乗せてこれからも怪獣の王として君臨するでしょう。そして新しい「ゴジラ」を観た時にその時にちょっとだけでも、上にあるような事をふと考えて貰えればと思います。

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