8月15日は『日本のいちばん長い日』1967年版と2015年版|tonbori堂映画語り-Web-tonbori堂アネックス

8月15日は『日本のいちばん長い日』1967年版と2015年版|tonbori堂映画語り

2017年8月14日月曜日

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 8月15日、終戦記念日。終戦というのも結局、2度の原爆投下でポツダム宣言を受諾する事に決まったものの日本の国体を護持せねばという部分で敗戦ではなく終戦、戦争が終わったという言い換えにしたと聞きます。言い換えは昔からこの国のお家芸。撤退を転進というとか。それでも敗戦は敗戦なわけです。なんといってもポツダム宣言を受諾し「無条件降伏」したのだから。

 降伏しますけど、これとこれは免責してくださいという条件付きではないわけです。もっとも天皇は何かの責任を問われることは無かったのである意味、占領軍側が忖度(最近流行ですね、この言葉)したのかもしれません。最初は天皇にもなんらかの戦争責任をというGHQも、マッカーサー元帥が昭和天皇とお会いになっていたく感激されたとかなんとかっていう話で特に問いませんみたいな話はよく出てきてますから。これについては映画にもなっていますが、今回はその話ではありません。

終戦の日に観る映画。

 日本が何故このような負け戦に乗り出したのかというのは、ABCD包囲網で締めあげられたからだっていうのは、いわゆるライトな方からよく出る話ではありますが、朝鮮半島を併合したのも事実だし、大陸に進出したのも事実。満州国という傀儡国家を立てて植民地化を推し進めたのもです。日本は資源がそもそも少なく海外からの輸入によって成り立っているので資源が欲しかったという単純な理由だとtonbori堂は考えています。今でも世界は資源の取り合いを、あの頃と同じようにしたり、弾は飛び交わないけど脅したりすかしたり、助けたり、騙したりでやっているわけです。


 それでも海軍は真珠湾攻撃をした緒戦で止めてハワイまで速やかに進出、しかる後に講和を考えていたとも聞きますが、既に進出した大陸で日中戦争を遂行していた陸軍は大陸と東南アジア侵攻にとりつかれ、緒戦の勝利を講和に結びつけることが難しい状況でした。そして戦局は泥沼へ進んでいき、各地でいわゆる大本営のいうところの転進を余儀なくされていったわけです。枢軸国側として世界相手に戦争する事になったあげく、伸び切った戦線を維持できず、逆に本土への戦略爆撃を許すことになり2発の原爆投下をもって無条件降伏を受け入れました。今回ご紹介するのは8月15日にポツダム宣言を受諾し玉音放送が流れるまで、前日8月14日夜から15日未明に起こった、いわゆる宮城事件を描いたのがこの映画『日本のいちばん長い日』です。

2本の『日本のいちばん長い日』

 前置きが長すぎましたね。といってもやはり戦争は始めるのも難しいのですが、さらに難しいのは終わらせることだといいます。ある学者によれば戦争には終わりはない、今もまだ第1次世界大戦が続いていると見ることが出来るというような事を言っていたとか、いないとか。(実はこれ、工藤かずや先生原作・浦沢直樹先生作画の『パイナップルARMY』からの引用です。第二次世界大戦の英雄が未だ戦争中ということで殺人を繰り返す話で第一次世界大戦ではなく第二次世界大戦ということで書いてありました)この『日本のいちばん長い日』は半藤一利さんが宮城事件を克明に取材し、ポツダム宣言を受諾する前の御前会議を含めた終戦への道程を記したノンフィクションが原作です。物語のクライマックスは国体の護持及び本土決戦において徹底抗戦を主張する若手将校たちが玉音放送が録音された、玉音盤を奪取し、軍首脳を説得。天皇を奉りご聖断を翻意していただくというものでした。

 当時かなり緊迫した空気が宮城以外大本営や軍中枢に流れることになったようで、実際には厚木三〇二空の小園大佐の部隊は戦闘停止と武装解除命令が出てもそれに抗したというのは有名ですし、一部では徹底抗戦を唱え武装解除を拒んだ者もいるとか。

 さてこの『日本のいちばん長い日』は2度映画化されました。1度目は1967年。2度目は2015年です。

岡本喜八監督版『日本のいちばん長い日』(1967年)

『日本のいちばん長い日』(1967)岡本喜八監督/©東宝/キネマ旬報社 - 『キネマ旬報』1967年7月下旬号。"Kinema Junpo", Late July 1967 issue., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=135328055による
『日本のいちばん長い日』(1967)岡本喜八監督/©東宝/キネマ旬報社 - 『キネマ旬報』1967年7月下旬号。"Kinema Junpo", Late July 1967 issue., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=135328055による

 便宜上、喜八監督版と呼ばせていただきますが、こちらの作品は後に東宝8.15シリーズが作られることになるほどの話題を呼び大ヒットしたそうです。ですが製作途中には岡本喜八監督は逮捕も覚悟したそうです。それはラスト近くのシーンを皇居前の芝生でゲリラ撮影したからだそうで、このシーンの撮影だけはどうしても、その場所で撮りたいという想いがあり、強行したそうですが、許可も取らずにゲリラ的に撮影したので逮捕される事も喜八監督は覚悟したそうです。


 出演者は東宝オールスターキャストで、阿南陸軍大臣に三船敏郎、米内海軍大臣に山村聡、鈴木貫太郎総理に笠智衆、陸軍の若手将校で宮城事件の中心人物に中丸忠雄、黒沢年男、高橋悦史、他に天本英世、伊藤雄之助、堺左千夫、江原達怡、ナレーションの仲代達矢の喜八組常連に加藤武、神山繁、島田正吾、田崎潤などのベテランなどそうそうたる面々でまさに大作といっていい布陣で臨んでいます。アンサンブルキャストによる群像劇ですが、主に陸軍大臣阿南惟幾と徹底抗戦のため宮城占拠を企んだ若手将校と陸軍の将校たちに、それぞれの立場でその日を迎える者たちを描いた作品になっています。


 この喜八監督版の凄みはなんといってもモノクロというところでしょうか。カラーでないからこその臨場感、そしてその時の熱量がダイレクトに伝わってくる感覚があるのです。それは汗。軍服に滲む汗。8月も14日と言えばまだまだ暑い盛りです。ですが兵士たちは皆、軍服を着て汗がにじみ出ています。上着の前をはだけたり、ワイシャツだけになったりしても、その暑さが熱さに変換されますます息苦しくなるこの感覚。タバコの使い方も物資の窮乏のためそこかしこで吸うわけではないですが、落ち着くためにタバコを吸う仕草も緊張と緩和をよく活写していました。一度はご覧になって欲しい作品。それがこの岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』です。

原田眞人監督版『日本のいちばん長い日』(2015年)

これは第二次世界大戦後70周年に当たる年である2015年の8月に公開されました。

 当時1967年の喜八監督版では昭和天皇はシルエットでしたが(これは喜八監督も原作者の半藤一利さんもこだわりがありつつも、そこまでがギリギリの描写だったそうです。)戦後70年の年になり天皇もしっかりと描写出来た部分は評価できると思います。原田監督自身がインタビューで喜八監督版を観て、気になった部分を、長じて自らが映画監督になり、その後その宮城事件をリサーチしていく中で、阿南陸軍大臣と鈴木貫太郎総理だけでなく、やはり昭和天皇も描かなければこれは成立しないとなった中でそのエピソードをいれることが出来たのは、やはり戦後70年という年月が必要だったのかもしれないなということなのかもしれません。

映画『日本のいちばん長い日』(2015年)特報映像/シネマトゥディch/©松竹/アスミックエース/YouTubeより


 ただ終戦に至るまでの道程を克明に映像化しようと若干駆け足になったきらいもあり、熱量が分散しているきらいもあります。喜八監督版の157分に対して136分という上映時間のせいということにはしたくはありませんが、やはり入れたいストーリーと結末までの道程を考えると、うーんってなってしまうところです。ただ喜八監督版にはない分かりやすさとそれぞれの立ち位置が明確になっている部分は評価してもいいと思います。

最後に

 この原田監督版と喜八監督版は補完しあうような作品ではなくそれぞれが独立した一個の作品です。そこには時代性と歴史を描くことの難しさ。そして描く人の視点によって変わっていくものという事がよく分かります。どちらもここをこうしたいという部分と上映時間と製作とのせめぎ合いの中で成立した作品だということが観ていて分かります。岡本喜八監督版は終戦から20年以上の月日が流れたとはいえ戦中派が多数を占め、あの戦争をよく覚えている人たちも多く、その中で東宝35周年記念作品として作られた中、喜八監督にお鉢が回ってきて、長大な話の中でも、その中であの前日から翌日にあったことにフォーカスして撮り切った作品です。


 ただ監督はもっと市井の人々に寄り添いたいという想いもあり、その後にATGで『肉弾』を撮りました。またこの東宝8.15シリーズで『激動の昭和史 沖縄決戦』(こちらはカラーです)も撮っていらっしゃいます。対して原田眞人監督版は喜八監督版には無かった部分や半藤さんがその後に表した決定版「日本のいちばん長い日」でのその後の取材による新事実なども入れ込み、あくまで昭和天皇、鈴木貫太郎総理、阿南陸軍大臣という太平洋戦争を「終わらせた」3人にフォーカスしたという違いがあります。それぞれの家族の描写も盛り込みつつ3人がそれぞれの立場で戦争を終わらせることに腐心した様が描かれています。そしてそれに抗う若者たちのどうしようもない狂おしさも。


 tonbori堂は喜八監督版がやはり好きなのですが、それは切り取られたからこそ浮かび上がるものがあるからです。当然事実関係や映画的フィクションの匙加減というものは双方難しいとは思うのですが、点描された横浜警備隊の行為や厚木三〇二空。自転車で移動してそれぞれの部隊や将校に檄文を送るなど熱量はすごいものがありました。やはりモノクロという画面から感じられる当時の空気はこちらの方が上に感じます。


 原田眞人監督版はよく出来ているのですが若干熱量が冷めている気がします。機微は感じられるのですけれど…。特に昭和天皇の描写が入った分、御聖断に至る経過がよく分かりました。もし原田版もモノクロで撮られていたら。たらればはせんなきことですが…。ちょっとそう思った瞬間もありました。ただどちらがいい悪いかではなくこれは好みの話になってくるので、つまりはそういう事だと思っていただければ幸いです。ともかく、あの日こういう事があった。そして日本は敗けたのだという事をこの2本の映画は真摯に描いていると思います。ちなみに半藤さんがこの『日本のいちばん長い日』を表すきっかけになった1938年に行われた文春主催の座談会の模様も映画になっています。ご興味のある方は。アニメ監督の富野由悠季さんもご出演しています。

 『日本のいちばん長い日』両方2本とも観るとほぼ5時間ちかいものになりますが、終戦記念日にこの作品のどちらかでも観て、あの日に何があったのかをふりかえってみるのもいいかもしれません。

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※東宝の8.15シリーズとしての『激動の昭和史』シリーズ2本も併せて観るのもおススメします。

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