ヒュー・ジャックマンが長年演じてきたアメコミヒーロー、ウルヴァリン。X-MENの中核メンバーとして鋭いアダマンチウムの爪であらゆるものを切り裂き、驚異的な治癒能力(ヒーリング・ファクター)で活躍してきました。そのウルヴァリンをこの映画を最後を演じるのを卒業すると宣言したのが『LOGAN/ローガン』です。
ヒュー・ジャックマンとウルヴァリン
初期のウルヴァリンことローガンは粗野な乱暴者でヒーローよりはアウトサイダーの雰囲気をまとった暴力的な男でした。ですがX-MENのリーダー、チャールズ・エクゼビアことプロフェッサーXや彼の片腕でやがてローガンが愛することになる強力なサイコキネシスとテレパスの使い手ジーン・グレイなどと交わるようになり、使命に目覚めていく過程が描かれていきました。
またウルヴァリンのその個性的なキャラクターから、彼の生誕の謎や、日本での活躍を描く番外編も製作されるなど同じマーベルのスパイダーマンなどともによく知られたアメコミヒーローでもあります。そして演じたヒュー・ジャックマンの代表的な役柄にもなりました。そんな彼の最後の活躍になるであろう『LOGAN/ローガン』これはアメコミヒーロー映画の枠に収まり切らない映画でありながら、しっかりとアメコミヒーロー映画であったという稀有な傑作でした。そしてまたあるヒーローの最後も描ききった傑作になったと思います。
あらすじ
時に2029年。ミュータントの数は減少し、新しいミュータントも誕生しない未来。老化により骨格に埋め込まれたアダマンチウムの毒素に侵され治癒能力が低下していたローガンはメキシコとの国境近くの廃工場をねぐらにレンタルリムジンのドライバーをしてその日暮らしをしのいでいた。老齢になりアルツハイマーを発症、力の制御が出来なくなったプロフェッサーX、チャールズ・エグゼビアを直射日光を避けて暮らしているミュータントのキャリバンともに世話をしながら、金を貯めて船を買って誰の迷惑にもならない海で暮らすことを夢見ているローガン。
そんなローガンに見知らぬメキシコ人の女性が現れ、助けて欲しいと懇願する。一度は断るローガンだったがドナルドという剣呑な雰囲気を漂わす男が現れ女性がまた現れたら通報して欲しいと半ば脅す形で言い残して立ち去る。残した名刺にはアルカリ・トランジェンという企業名が記されていた。女はローガンにリムジンの配車を依頼して接触し自分は看護師である施設から逃げてきたといい、ローラという11歳の少女をノースダコタへ連れて行って欲しいと依頼する。面倒事に巻き込まれたくないローガンは一度は断るが2万ドルを渡すという女に、これで船が買えると思い渋々引き受けることに。しかし翌日迎えに行くと女は殺されていた。
ローラはおらず、ともかくねぐらに戻るローガンだったがローラはリムジンに隠れ乗っていた。一言も喋らないローラを、チャールズは彼女はミュータントだとはしゃぐ。拙い事になったとともかく逃亡を計ろうとするローガンだったが、そこにドナルドが部隊を引きつれ現れローラを引き渡すように要求する。しかしローラを確保しにいった隊員は無残に倒され、辺りは戦場と化し、キャリバンがドナルドたちの手に落ちたが、ローガンとチャールズ、ローラはその場を脱しともかくノースダコタのエデンと呼ばれる場所へ向かう事に。車中で看護師であった女性、ガブリエラの残したスマートフォンに残された動画からローラがミュータントの遺伝子から作られた人造ミュータントで、ザンダー・ライス博士の指揮のもと殺人兵器としてトランジェン研究所で研究、訓練されていたことを知る。
しかし訓練の途中、造反が起こり、博士は別のプランが進んでいる事から、この計画を廃棄することに、子供たちを殺処分する。それを見咎めたガブリエラたちによってミュータントの子供たちが脱走。何人かが成功したか分からないがともかく約束の地「エデン」へ、ローラを送り届けて欲しいと懇願するガブリエラは最後に彼女はあなた、ローガンの子よと言って動画は終わった。
このままでは目立つためオクラホマシティでホテルの一部屋を借り、服を替えリムジンを捨て新しい車を手に入れるローガン。しかし追跡してきたドナルド達はキャリバンを脅しホテルを突き止めていた。その時チャールズの発作が起こり周りが全て停止したかのようになってしまう。なんとか部屋に辿り着いたローガンは動けない追跡者を一人づつ始末しなんとかチャールズに薬を投与し、その場を逃走する。ハイウェイで難儀をしていたマンソン一家を助けたローガンたちはひと時の安らぎを得るがそこにザンダー博士も合流したドナルド達の部隊が。博士はX-24という最強のクローン兵士を投入し、チャールズを殺害、侵入者に気が付いたマンソン一家も無残に殺し、ローラを捕らえるが、キャリバンの犠牲的な行為と虫の息であったマンソンのおかげでその場を脱することが出来たローガンとローラ。チャールズの亡骸を水辺に埋葬したローガンとローラはノースダコタのエデンを目指す。そこには一体何が待ち受けているのだろう?
とここまではパンフレットに書いてあるあらすじです。当然このあとも物語は続きますが今週で上映が終映するところも多いとは言えまだ公開中の映画ですので結末は是非スクリーンでご確認していただきたいと思います。ですがどうしても感想を書くには結末にも言及しなくてはなりませんしネタバレもあらすじでだいたいばらされちゃってるしというのもありますが(ヲイヲイ)この後は結末も含めてちょっと印象を語っていきたいと思います。
メキシコからカナダへ
犯罪映画で逃亡するとなると逃亡先はメキシコっていうのはスティーブ・マックイーンの『ゲッタウェイ』がすぐに思い出されます。この展開は割と定番でアメリカの官憲の手はメキシコまで届かないという事がその理由だったようですが、昨今では犯罪(麻薬)を持ち込むのはメキシコという事をトランプが喧伝し、国境に壁を作るとまでいきまいていますよね。ローガンは国境付近のエルパソで個人のリムジンサービスのドライバーをしており仕事が終わると国境沿いの廃工場に戻っていきます。つまりかつてアウトローであり今でもお天道様の下を堂々と歩けるわけじゃないがそれでも生きている限りは生活をしないといけないギリギリの底辺に生きていることを表しています。もともとメキシコは貧しい人が多く貧富の差も激しい国です。そこも暗喩として入っているのでしょうが、自らに苦役を課すローガンはまるで巡礼者のようでもあります。
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そんなローガンにチャールズは自由の女神の下で出会う2人が運命を決めると言います。そのとおりガブリエラとローラにモーテル「自由の女神」で再開する訳ですが、これはX-MENシリーズの最初映画『X-MEN』においての最初のクライマックスが自由の女神像で行われたことに対するオマージュという話がパンフレットに載っていました。しかしこれはダブルミーニングでガブリエラはガブリエル、最後の審判を告げる天使の名前でもあります。そして自由の女神はアメリカの象徴とも考えられることが出来るのです。
世界のため、アメリカのためヒーローとして活動してきたウルヴァリンではありますが、その道は決して平たんなものではなくまた血塗られた闘争の歴史でもあります。彼の来歴についてはウルヴァリンの単独映画として作られた『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』に詳しいですがアメリカの歴史上の戦いに参加したいわば生きたアメリカの歴史とでもいうべき人物としてもウルヴァリンは認知されています。だからこそ彼は過去を悔いており、最愛の女性も救えなかったと今も悔恨の日々を送っているのです。
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西部劇へのオマージュ
tonbori堂がこの映画を観ていて思ったのは、凄くクリント・イーストウッド自身が監督した西部劇『許されざる者』っぽいなということです。観終わった後にパンフレットを紐解くとヒュー・ジャックマン自身も『許されざる者』を意識していたという事。但し監督のマンゴールドにはそれは伝えなかったとも。彼のクリエティビティを重視し、自由な発想で製作して欲しかったからと述べていますが、マンゴールドもローガン、チャールズ、ローラのロードムービーになるという方向性から西部劇へのインスピレーションは多く受けているという事を述べていました。実際にローガンは『許されざる者』のウィリアム・マニーのようでもあり、また『トゥルー・グリッド』のルースター・コグバーンのようでもあります。粗野で元アウトロー。物事を暴力で解決するしか方法を知らない。但し義侠心に富み、憎まれ口をたたくが結果弱いものを放っておけない。日本にもそういうアンチヒーローがいましたね。木枯し紋次郎がそうでした。『あっしには関りがござんせん』といいながら結局関わってしまう。そういう不器用さがあります。
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また途中で知り合う牧場主のマンソンとその一家との交流も西部劇の序盤や中盤で主人公たちを助けてくれる善人とだぶります。彼らは主人公を時には胡散臭いと思ったりもしますが善人が故に手を差し伸べたりよくしたりしてくれます。ただそのために主人公たちと関わる事で災厄を呼び込んだり、彼らが災厄とかかわっていたりするのですが、ここでは非常にショッキングな出来事が起こります。この部分も非常にイーストウッドが突然に巻き起こる暴力を淡々と描くように映りものすごく影響をうけているんじゃないかなと感じた点でした。またその結果マンソンがとった行動やそれに対するローガンの反応もです。また追跡者のドナルドはマンゴールド監督の『3時10分、決断の時』に出てくるアウトロー、ベンを慕う強盗団の副頭目チャーリーとも通じる部分があります。しかも西部劇にでてくる典型的な悪役の台詞もあいまってますます西部劇的に見えてきます。
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こういった随所に見られる西部劇へのオマージュが頂点に達するのが逃避行の最中、オクラホマでホテルでチャールズとローラが観ているTVで流れている『シェーン』です。流れ者のガンマンが難儀している町の人たちを雇われた殺し屋から守り打倒すお話です。ちょっと簡単にまとめていますが当時としては革新的な暴力描写と舞台になった場所とストーリーのベースにある話が実際にあった移民との諍いの話だったことから今も名作の一つとして数えられているのがこの『シェーン』です。ラストシーンの解釈でもいろいろ話が出ることで有名ですがラストにローラが言う台詞は『シェーン』からの引用でした。そういった部分にも西部劇タッチというか匂いがたちこめていましたね。
|Amazon.co.jp: シェーン(字幕版)を観る | Prime Videoそれとともに西部劇オマージュから進んでイーストウッドスタイルというべき匂いもあったのはヒューが意識したという『許されざる者』やそれに続く彼の監督作、中でも『グラントリノ』にもつながるテーマ。『滅びゆく者の誇り(矜持)の継承』があるからかもしれません。
『The Man Comes Around』
ラストに流れるジョニー・キャッシュの『The Man Comes Around』はキャッシュの死の直前にリリースされた晩年の曲ですが多くの映画に引用され、また各地で起こる紛争などのニュース映像にかぶせられることも多い名曲です。この曲が『LOGAN/ローガン』のエンディングにかかるのはマンゴールド監督がジョニー・キャッシュの伝記映画を撮ったということだけではなくストーリーに密接に関係しているのではないかとも感じます。
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(アルバムの1曲目です)
歌詞は聖書、ヨハネの黙示録の事をついてでありキリストの再臨や神のみ使いである4人の騎士ペイルライダーについての事について語られています。興味のある人はこの曲の歌詞を調べてみるのもいいかもしれません。というか今回字幕版にて鑑賞したのですが、権利関係なのか訳が出てこなかったのです。ちょっとそこは残念でしたね。歌詞の内容が映画に関係している場合は超訳は困りますが訳詞を載せて欲しいと思います。
キャスト
ヒュー演じるウルヴァリンがこれが最後と言うのも寂しい話なのですが、チャールズ・エグゼビアを演じるパトリック・スチュアートもチャールズ・エグゼビア=プロフェッサーXを演じるのはこれが最後と明言しています。老齢となり能力の制御が効かなくなる発作を抱えたチャールズを熱演といってもいいでしょう。さすがの貫録をもって演じていました。初期のX-MENを引っ張って来たヒューとパトリックがそろってこの『LOGAN/ローガン』で最終章を迎えた事に感慨がさらに深くなります。
そしてX-23、ローラを演じたダフネ・キーン。若干11歳にして既に大物の風格を漂わすというか、そこまでいったら言い過ぎかもしれないけれど、ローガンと通底している部分を持つ複雑な役をよく演じていたと思います。今後どういう女優さんになるのか、成長が楽しみな女優さんになって欲しいと思います。
By Maximilian Bühn, CC-BY-SA 4.0, CC 表示-継承 4.0, Link画像はWikipediaより/ダフネ・キーン |
最後に
ウルヴァリンというヒーローの生き様を鮮烈に描き切った『LOGAN/ローガン』はアメコミヒーロー映画としては大人向けのR指定になっていますが、そこには西部劇スターだったイーストウッドが自身の根幹である西部劇で『許されざる者』で決定版というべき映画と作ったというのと同じ気概をすごく感じました。
マーベル・シネマティック・ユニバースに代表される明るい(深い部分も持ち合わせているけれど)アメコミヒーロー映画ではなく、ウルヴァリンという一人のキャラクターとしてしっかりと完結させようとしたヒュー・ジャックマンとジェームズ・マンゴールド監督の想いが結実した作品だったように思います。だからこそラストシーンにローラがする行為がまた泣かせるんですね。まだどこかで上映があったらスーパーヒーロー映画が好きな人なら是非観て欲しいと思います。そんな映画でした。
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