壁の向うは「死」『U・ボート』(1982公開|西独)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

壁の向うは「死」『U・ボート』(1982公開|西独)|tonbori堂映画語り【ネタバレ】

2012年11月2日金曜日

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 『世に潜水艦映画にハズレなし』って誰が言い出したんだろう?この『U・ボート』は元々は連続ドラマとして製作され、それを監督だったウォルフガング・ペーターゼン自らが1本の映画にまとめあげたものである。

[Das Boot]trailer/YouTu

U・ボート

 潜水艦は単独で任務にあたり敵に静かに忍び寄りヒットアンドアウェイ戦法を取る。殆ど場合通商破壊作戦に従事して足の遅い輸送船を狙う。駆逐艦などの天敵に追われると浮上も出来ずひたすら海中で静かにしてやり過ごす。第二次世界大戦初頭、ドイツは多数のU・ボートで連合軍の通商破壊作戦、いわゆる群狼作戦(ウルフパック)に乗り出したが緒戦こそは破竹の勢いがあったものの徐々に連合国側も対抗して輸送船団はコンボイ(複数の輸送船で隊列を組む護衛船団方式)を組み、駆逐艦が護衛に付くようになって苦しい戦いを強いられるようになった。ドイツの潜水艦隊は実に4万人の将兵を送り出したが、帰ってきたのは1万人ほど。3万人の乗組員は帰還しなかった…。

ストーリー

 U・ボートとその乗組員にスポットをあてて彼らの航海の軌跡を追っていく映画。占領下のフランスの港から出航し、通商破壊作戦に従事するU96。古強者の艦長に古参のクルー、そして補充の新兵。そんな彼らに同行取材する軍の報道班のヴェルナー。出港前はみんな酒で不安を紛らわす。フランス、ラ・ロシェル軍港にある酒場は潜水艦乗りのたまり場。皆が人事不省になるまで飲んでいる。


 戦局は徐々に厳しくなってきているが、そんなことはお構いなく命令によって作戦に従事する。経験豊富で艦長の片腕でもある機関長。陽気な次席士官。海の男たちの中では少々浮いてるいかにも模範的なドイツ第三帝国軍人たる先任士官。豪快な兵曹長、機関室の主ともいえる「幽霊」ヨハンなど個性的な面々を率いて出港する根っからの職業軍人である艦長。一歩、外洋に出ればそこは単独で任務にあたる潜水艦。艦長以下緊張を強いられる日々、過酷な任務の果てにまっているのは?というストーリー。

潜水艦の息苦しさを伝える傑作

 潜水艦内での高まるストレスや狭い潜水艦の閉鎖された空間での息苦しさをきっちりと伝えている傑作戦争映画の1本。この映画でハリウッドに進出し今では「トロイ」なんかを撮っているウォルフガング・ペーターゼンの出世作にあたる。また艦長役のユルゲン・プロホノフも、この後、ハリウッドでも活躍することになった。元々はTV映画の連作として制作されたそうだが、そっちの方はまだ観ていない。だがこの作品だけでも凄みが漂って、まるでそういう出自(ドラマ)は感じさせないが、それぞれのエピソードが章のようにまとまっていることにその片鱗がのこっているように思われる。作品は1982年に公開され、アカデミー賞にノミネートまでされた。


 すぐに思いつく感想としては「潜水艦乗り」ってのは過酷な仕事だ、ってこと。だからこそクルーは家族のように一致団結し事にあたるんだろう。でないと即、死が待っている。薄い壁の向うは海が拡がっている、彼らには海は生命のゆりかごなんていう生易しいものではない、彼らに死を与え、牙をむく魔女の如き存在を印象付ける。非常にリアルに描写された乗組員達の日常と艦内での生活。それが敵艦との遭遇時に張り詰める緊迫感をまた盛り上げる。撮影時に同寸のセットを作りカメラをキャスト共にそのセットを駆け巡ったそうだ。そして当時の状況をつぶさにしらべ、リアルに描写した潜水艦内部のセットは必見である。


 出港前は全員、綺麗に髭をそり、髪もきっちり切り揃え、多少は海の男らしさもありながらも小綺麗にしている。だが徐々に航海が長引くと髭は伸び放題、髪はざんばら。これも水が貴重品であるから身体を洗う事は大変であるからと、徹底的にリアリティにこだわった描写は画面に説得力を持たせることに成功している。これは撮影期間が2年の長きに渡り、そのまま出演していた彼らの格好がどんどん疲労困憊していく様をそのままに表していたという事らしい。また出港シーンで使われた。ラ・ロシェルのU・ボート施設は当時使われた本物のU・ボート・ブンカ―(U・ボートを係留、整備、補給できる分厚いコンクリートで覆われた軍事施設である。

ソース|Wikipedia/U・ボート

 このお話は原作があり原作者、ロータル=ギュンター・ブーフハイム。彼は実際にU・ボートに同乗した元軍人でその時の体験をもとに『U・ボート』を執筆した。艦長にはモデルがいて、彼の潜水艦U96に描かれていた「笑うノコギリサメ」のエンブレムが艦橋部にマーキングされている。


 これを観て思うのは彼らにとって戦争を戦うということは任務を果たして生きて帰る事。そして隣の戦友たちのために戦うってこと。戦場は甘いものじゃない。命はいとも簡単に失う恐ろしいところ。それでも生きて帰るため懸命に戦う彼らの悲壮さは、次第に頬がこけ、疲労困憊していく彼らの姿と重なっていく。『プライベート・ライアン』でも活写されているが、数々の厳しい戦いを経てやっとの思いで戻った先に待っていたのは…。残ったものはむなしい光景。無常感ただよう戦争映画の傑作。

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このエントリは本家ブログ(web-tonbori堂ブログ)よりの転載加筆分です。(2004.7.1-23:44:05)

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