異国の人から見たサムライ|『ラスト サムライ』(2003公開|米)|tonbori堂映画語り-Web-tonbori堂アネックス

異国の人から見たサムライ|『ラスト サムライ』(2003公開|米)|tonbori堂映画語り

2012年10月20日土曜日

movie 時代劇

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 ハリウッドの日本人を捉えた映画ってのは「ライジングサン」を観るまでも無くおかしいものが多い。(エコノミックアニマル・眼鏡に出っ歯、背が低い等々)ある意味カリカチュアライズ(戯画化)されているもので仕方が無いかなと思う。しかし映画の影響力はたいした物でそれで本当に日本人はそうだと思っている人も中にはいる。もちろんそうでないと知っている人もいるがそれだけ沢山の人が観ると言う事だ。

ラスト サムライ/ロゴはイメージです
ラスト サムライ/ロゴはイメージです

外つ国からみた武士道とは?

 キングオブハリウッドと呼ばれた俳優、早川雪州も敵役でのし上がった人で人望もあった、名実ともにスターだったがそれでも正義の人という扱いではなかった。それはアジア人に対してハリウッドは開かれている門ではない。自ら開く扉ではあるが、尋常なことでは開かない、それは非常に重い門でもあるということの証左でもある。

 一方巨匠黒澤明の「7人の侍」「用心棒」に代表されるように武士道、侍(サムライ)というものに異常なまでに反応を示す。これは彼らのメンタリティでは計りしれないストイックな精神に惹かれているからかもしれない。(このあたりは西部劇が下火になってネイティブアメリカンに対しての紹介が進みそれまで西部劇の敵役、蛮族といったイメージから精神的に自然と共存している誇り高き種族として注目を集めたことにだぶる)


 そこでサムライに関してハリウッド一のツウと言われている(誰に?)トム・クルーズと歴史モノでオスカーを獲ったアンソニー・ズウィック監督がタッグを組んで制作したのが今作である。物語自体は架空のお話であるがそのベースに明治維新後に起こった士族の反乱、西郷隆盛の『西南の役』がベースになっていることは想像に難くない。この時期不満を抱えた士族(元の武士階級)の騒乱があり、明治政府は対応に苦慮したという。そういう時代の流れに押し流されていく者たちへの哀惜と誇り、矜持を描こうとしたのだろう。

オールグレンの眼を通して描かれる日本。

 主人公オールグレン(トム・クルーズ)は南北戦争の英雄でもあるが戦争後酒びたりになり新式のウィンチェスター連発銃のデモンストレーター(宣伝マン)として日々の糊口をしのいでいた。このOPシーンからも彼は戦争によって名誉を受けたこともあるが忸怩たる思いで生きていると解る。そして明治政府要人の大村(原田眞人)から近代国家にふさわしい軍隊を要請するための教官として元の部下と上司から誘われ日本に赴くことになった。錬度低い兵士達を訓練するが一方で国内では急激な変化に反対する士族(侍)達の反乱が相次いでいた。訓練が不充分なまま討伐隊を組織し出発するが奮戦空しくオールグレンは捕らえられ士族の長、勝元(渡辺謙)に出会う。とまぁこのあとのストーリーは語ってもしょうがないので割愛するがオールグレンが勝元やその部下氏尾(真田広之)、勝元の息子の信忠(小山田真)、そして傷ついたかれを介抱してくれる勝元の妹たか(小雪)。たかはオールグレンが先の戦闘での一騎打ちで倒した相手の妻。しかし次第に心通わせるあたりも西部劇を彷彿させる。


 これは西部劇へのオマージュともとれる内容で、ある人はその主人公の精神的変化からサムライ版「ダンス・ウィズ・ウィルブス」と言っていた。ただし本当の日本の現役俳優を使いしかも時代劇に精通した真田や外国の映画作りを知っている原田眞人らが関わったことにより細部のディティールがよりはっきりとしてきた事により日本人にも受け入れやすく解りやすい内容になっていることは評価したい。ただアメリカ人にはどうかというクエスチョンは残ってしまうが。ただこれはは古き良きものへの憧憬ということなのだろうと感じた。

サイレントSAMURAI

 それとこの映画でもっとも侍を体現しているのは「サイレントサムライ」という役名(パンフでは寡黙なサムライとなっていたがあえて静かなる侍と言いたい)福本清三氏だろう。福本清三氏は斬られ役一筋でココまできたベテラン大部屋俳優。彼にとってはこれはご褒美だと語っていたが、彼が一番『侍』というものを表していた。ただそれだけだと話が進まないので勝元や氏尾のような役柄が必要になってくるわけで、そういう意味では渡辺謙は儲け役だったと思う。しかもアカデミー賞ノミネートまで。


 それはこの作品が日本の維新からの急激な発展を描きながらも、それはアメリカへの写し鏡であったからではないのかと。オールグレンは元北軍兵士で西部開拓時代も終わり世の中経済が世界を回す時代になりつつある時代遅れの男。そんな彼が日本の古き者を率いる勝元と同道するのは至極分かりやすいからだ。ともかくまっとうな大作としても、割合(ここ重要)に普通の日本が(おかしいトコも多々あるが)描かれているハリウッド映画としても、ご覧になって欲しい作品である。

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※追記2021.1.9 寡黙なサムライ役福本清三さんが今年1月1日に逝去されました。生前、福本清三さんの遺された数々の作品と斬られ役一筋の人生に敬意と哀悼の意を表します。安らかにお眠りください。合掌。

MOVIEtonbori堂「ラスト・サムライ」(リンク)

元記事を改稿掲載2004年1月14日アップ。

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