サバイバルの掟/『モンタナの目撃者』感想【ネタバレ】-Web-tonbori堂アネックス

サバイバルの掟/『モンタナの目撃者』感想【ネタバレ】

2021年9月29日水曜日

movie

X f B! P L

 テイラー・シェリダンの『モンタナの目撃者』やっと観てきました。シェリダンの則が好きな人にはたまらない1本となっていました。スクリーンで観ておいて良かったです。本国ではHBOmaxで配信と同時だったとか。そのため成績はパッっとしなかったそうですが元より大ヒットするようなスタンスの映画ではないのは脚本担当作『ボーダーライン』や監督作『ウインド・リバー』でも明らか。今回はアンジェリーナ・ジョリ―というビッグネームが主演ですが彼女がスーパーヒーローの如く華麗にアクションを見せるという訳でもありません。自然に翻弄されながらも必死にサバイバル(生き残る)しようする人間の物語でした。ということであらすじのあとネタバレ気味に感想を書いてみたいと思います。

映画『モンタナの目撃者』本予告 2021年9月3日(金)公開|ワーナーブラザーズ公式チャンネル|YouTube|

傷を抱えた女と傷を負った少年|STORY

 ハンナ(H)は森林消防隊員。中でも初動消火活動に当たるためパラシュート降下を行う航空消防隊の一人だった。しかし1年前の森林火災の時に風向きを読み違えたため仲間の一人とキャンプに来ていた少年3人を見殺しにしてしまったことで心に深い傷を抱えた。森林局や消防隊は彼女を一時任務から外し森林地帯にある監視塔での任務に付ける事にする。


 会計士のオーウェンはTVのニュースを見て急に挙動不審になった。息子のコナーは父に尋ねるが彼は急に学校の前から自動車を家とは反対方向に走らせる。ニュースは地方検事の家が爆発を起こして家族全員が死亡したというニュースを流しており地方検事の依頼である監査していたオーウェンは汚職の証拠をつかみそれを彼に報告したところだった。オーウェンは地方検事が消されたと感じすぐに逃亡を図ったのだ。

彼の読みは当たっていた地方検事宅へ押し入り家族を殺害し爆弾を仕掛けたのは2人組の殺し屋パトリックとジャックだった。2人はすぐさまオーウェンの追跡を始める。オーウェンのつては彼の死んだ妻の弟でモンタナ州の田舎でサバイバル教室を営み町の副保安官をしているイーサンだった。しかしイーサンの元へ逃亡していると読んだ殺し屋2人組は途中の山道で待ち伏せし銃撃を加えるが崖下へ転落させてしまう。オーウェンはコナーを車から押し出し逃がし自分は囮となって落命してしまう。殺し屋たちは通りかかった自動車の女性を殺害した後その場を立ち去るがコナーがその場を逃げ出したことに気が付き、彼らの上役アーサーが止めを差すように言い渡しに来る。チームで当たれない2人は警察や保安官事務所の目を別にむけさせるため山火事を起こしコナーの追跡を開始する。


 コナーは父に小川の流れる方へ向かいやがて川にでたら川下へそうすれば街に行き当たると言われ小川沿いを歩いていたがそこで顔を洗いに下に降りてきたハンナと出くわす。そしてハンナはコナーが逃げてきたと察知し彼を保護すべく監視塔へ連れていくが落雷のため通信機は壊れ充電器は衛星電話の充電が出来なくなっていた。このままでは危険と判断したハンナはコナーを連れて山を降りる決断をする。果たしてハンナとコナーは2人の殺し屋から無事逃れる事が出来るのだろうか?

コナー少年の地獄巡り

 テイラー・シェリダンのモチーフとして突如巻き起こる暴力の嵐とそれに翻弄され地獄を見てしまう人々というものがあるんですが今回の『モンタナの目撃者』ではまずコナー少年がその暴力の嵐に翻弄されます。父親のオーウェンが犯罪の証拠を見つけたために怖ろしい目に有ってしまうんですが何もわからず急に地獄の渦に叩き込まれ父親は目の前で自分を助けるために命を落とす。それでも父親の教え通り谷を降り小川沿いを歩いて逃げるという言いつけを守るのも何も考えられないからかもしれません。

追跡者がいれば定石として谷を降り川沿いを行くというのは察知できるからです。ただコナーにとって幸運だったのは襲撃地点にこちらは運悪く通りがかった車がいたこと。顔を見られたことから殺し屋は運転手を撃ち、散々ライフル弾を打ち込み転落したので運が良ければと思っていたでしょうが目撃者が増えれば彼らに不利となります(警察が出張ってくる)確認したかったもののやむを得ずその場を離れるというミスを犯してしまいます。その結果普通に谷底に降っても追跡されずにハンナに行き会えたのは僥倖といっていいでしょう。

シェリダンの流儀

 ただ突然殺し屋に襲われたコナーは直ぐにはハンナに助けを求めません。いきなり、しかも山中であった人を信用するのは難しいし「信用できる人を探せ」というのが父の最後の言葉だったからというのもあります。それでも危険ではないと判断した後は互いの距離を探り合いながら不器用に近づいていきます。ここはハンナも心の傷を追っているので同類相通じるものがあったのかもしれません。ハンナを演じたアンジェリーナ・ジョリーはパンフレットのインタビュー記事によると「母親」として接しないでほしいとシェリダン監督から言われたそうです。あくまでも人命救助のプロとしてという事ですがここもシェリダンの則が光ります。プロがプロとして己の出来る事をやる。それは殺し屋であろうが保安官であろうが。そしてコナーは一般人です。だからこそプロの動きが際立つのです。頻発する落雷の中、草原では落雷を受ける危険性が高い。しかし殺し屋が迫ってくるなら歩みを止めることは出来ない。だから交互に少しずつ走って前進する。その様はサバイバルの知識(防災にもつながりますが)があれば納得できる動作になっています。(もちろん本当にいいのは監視塔で助けを待つのがいいのですが落雷で機器が故障し監視塔にいれば下からの銃撃でハチの巣になってしまうので)もっとも結局ハンナの近くに落雷し、その上殺し屋が起こした山火事で退路を断たれてしまうのですが。


 殺し屋2人組もいい味を出しています。『ボーダーライン』のマットもそうですが危機的状況でも慌てず騒がず常に先を行く(行けてない場合もありますが)そしてしぶとい。とは言え今回の仕事には最低でも2チームは必要だというのはシェリダンの入れた台詞なのかそれとも原作にあったものなのか?あとパンフレットを読まないと分からないんですが2人は同じ名字で親子ないし兄弟のようであり原作では兄弟設定なんだとか。でも作中では一切説明されません。普通に仕事をこなすプロの姿だけが描写されるのもいいですね。くどくど説明せず必要最低限の事柄だけで物語が進んでいくのまたいい。追われる側、追う側も両方スーパーな能力がある訳じゃなく計画が上手くいかなくても知恵と機転でなんとかする部分とかも観ていて納得できるんですよね。


 そしてもう一方でこの地獄の追跡に巻き込まれてしまうのがオーウェンの義理の弟になる保安官補(字幕では副保安官、昔は保安官補って言ってたように思うんですがどっちが正しいんでしょう?)イーサン。シェリダン組ではお馴染みの顔になっているジョン・バーンサル。タフガイ役も多いバーンサルはここでは妻と共に副業でサバイバル教室を開いている地に足のついた男で妻アリソンは妊娠中。ここでコナーがここで保護されてるのではと踏んだ2人がイーサンの自宅を急襲しますがアリソンが機転を利かせて逆襲しその場を逃れます。そこもまたやり方が上手いんですよね。でもアリソンを取り逃がしてもやってきたイーサンと保安官のうち保安官を早々に射殺してアリソンは手の内にあると思わせイーサンを従わせるなど駆け引きもあり殺し屋2人組とイーサンとアリソンの物語も見応えがありました。特にアリソンはサバイバル技術に長けているので手近なもので逆襲したり、夫が案内役にさせられたと見ればすぐに猟に使うライフルを持って追跡する。この2人の物語も注目です。

追記※見出しを則(のり、ルールという意味です)としましたが分かりずらいかもしれないので流儀としました。

サバイバルの掟

 こういう作品だと舐めた相手が鬼強く殺し屋たちに逆襲に転ずる映画も好きですけれど(笑)この作品は「普通の」法執行官であったり消防士であり、そういうスーパーヒーローが活躍する話ではないんですね。そういう普通の人たちが如何にして生き残ろうとするか?そのための小さい積み重ねとかディテールがちゃんとしていないと観ていて納得できないものが多いんですがシェリダン監督の作品は納得できるものが多いんですよね。それはシェリダン監督がそういう自然の中に生きる人々や酷薄な世の中に興味があってそこを追究しようとしているからだと思います。「極端な偏見を持って終わらせろ」『ダブルボーダー』っていう映画の原題名の元になった言い回し「Terminate with extreme prejudice」なんですがこれは『地獄の黙示録』で主人公がベトナムの奥地で王国を作っているカーツ大佐を暗殺するように命じられた台詞です。実はシェリダン作品ってこの「極端な偏見もって終わらせる」者たちとそれに抗う「サバイバル(生存願望)」のせめぎ合いが底流にあるんじゃないかなと睨んでいるんですがどうでしょう。

 あと最後に『モンタナの目撃者』原題名は『Those Who Wish Me Dead』Google翻訳にかけると『私の死を願う者たち』となります。邦題にはしにくい感じではありますが『モンタナの目撃者』というのはうーんどうなんだろうなと観る前も観た後も少し思ってしまいました。「目撃者」は多分同名映画で年長者が殺人を目撃して追われる少年を護るという映画から来てると思うんですが…。とは言え現代によみがえった西部劇とよく評されるテイラー・シェリダン、現代の事情を反映した上でそういう掟や則のような硬派な作品を今後も楽しみにしたいですね。

※テイラー・シェリダン脚本作『ボーダーライン』ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の流儀で撮られているので監督の味わいが交わっている1本:Amazon | ボーダーライン スペシャル・プライス [Blu-ray] | 映画

※テイラー・シェリダン初監督作品『ウインド・リバー』こちらはよりシェリダンの流儀が現れています。:Amazon | ウインド・リバー スペシャル・プライス [Blu-ray] | 映画

『モンタナの目撃者』Blu-ray&DVDセット/Amazon

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中

ファイブスター物語/F.S.S第17巻絶賛発売中
永野護著/KADOKAWA刊月刊ニュータイプ連載『ファイブスター物語/F.S.S』第17巻絶賛発売中(リンクはAmazon)

このブログを検索

アーカイブ

QooQ