東宝特撮・変身人間シリーズ『ガス人間第1号』|感想|tonbori堂特撮映画語り【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

東宝特撮・変身人間シリーズ『ガス人間第1号』|感想|tonbori堂特撮映画語り【ネタバレ注意】

2020年9月6日日曜日

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 長らくそのままにしていた東宝特撮・変身人間シリーズについてのエントリ、やっと3本目です。ちなみに今月はまだprime会員特典(20年9月時点)で観れます(ヲイ。ということで3部作の最後を飾るのは『ガス人間第1号』です。ちなみに続編は作られなかったので第2号はありません(笑)この『ガス人間第1号』をもって変身人間シリーズは打ち止めになったようなんですが、孤島に漂着した若者が謎の菌類によって変異する『マタンゴ』という作品があります。これは人間が変異していくという、結構内容的に近しいもののシリーズには含まれていないとの事。この変身人間シリーズはあくまでも怪奇と空想科学の合体したドラマとして作られた作品群と言えます。そして第1作から数えてのこの第3作は前作までの怪奇さもあるもののなんとも恐怖メロドラマという趣のサスペンス映画の形をも持つ稀有な作品です。

『ガス人間第一号』/©東宝/TOHO CO., LTD./
『ガス人間第一号』/©東宝/TOHO CO., LTD./リンクはAmazonPrimeビデオ




※2021.10.02タイトルを変更『|感想|byAmazonprimeVideo』から『|感想|tonbori堂特撮映画語り』にしました。(ちなみに会員特典見放題ははずれましたが、レンタル/購入は可能です。)

ガス人間現る!/STORY

 白昼堂々銀行強盗が発生した、出納課長を射殺し厳重な金庫から金を奪って逃走。すぐさま通報を受けた警察がパトカーで犯人を追跡するも手配車両は犯人もろとも崖から転落してしまった。しかし転落した車の中から奪った金はおろか犯人まで忽然と消え去っていた。

 追跡していた警視庁の岡本警部とパトロール警官たちは車の転覆現場から太鼓の音が聞こえる方へと向かいある屋敷の前に辿り着く。屋敷を探索する岡本警部はそこで般若の面を付けて踊る女性を目撃する。しかし玄関に向かった警官の呼び鈴の音で女性は踊りを止めてしまった。応対に出たじいやは主人と2人暮らしで今日はどこにも出かけていないと警官に告げる。屋敷の主人の名は日本舞踊の春日流家元である春日藤千代。彼女の許可を得て屋敷を家探ししたものの侵入した形跡もなし。車は銀行のもので指紋も全て行員のもので手がかりは煙のように消え去ってしまった。


 すると第2の事件が発生した。今度は出納係だけではなく、警戒のため銀行に立ち寄りしていた警官までもが殺害されたのだった。出納係の死体は検視の結果、何か気道に詰まったための窒息死と判明するがそれ以上のことは分からずじまいだった。岡本警部は犯行現場が五日市街道沿いで起こり犯人が消え失せた場所にある屋敷の主人、藤千代が何か絡んでいるのかと睨むがかつて隆盛を誇った春日流が藤千代の代で落ち目となり困窮しているというだけではと上には取り合ってもらえない。しかし急に金周りがよくなり周囲の目も藤千代に。そして第3の事件が発生する。大胆に強盗を新聞社に予告するがその裏をかいて別の銀行を襲ったが、他行も警戒していた警察に逮捕され犯行を自供するが金の行方は吐かなかった。


 残った金を行方を追う岡本警部たち警察は金周りの良くなった藤千代に狙いを絞り身辺を捜査する。すると藤千代が使った金が中野の銀行から強奪されたものと一致した。岡本警部たちは藤千代を逮捕するがすると自分が真犯人だという男が警視庁に出頭する。先に逮捕された男は三つ目の事件だけを起こした模倣犯であり第1の事件と第2の事件の犯人は自分であると名乗り出たのだ。そして藤千代にお金を渡しただけだと語るのであった。その水野と名乗るその男はどうやって鍵のかかった金庫室から金を強奪出来たのか実際にやってみるという。実況見分のため被害にあった銀行に向かう一同。そこで水野は自らの身体をガス状化させ支店長と刑事を殺害しその場を逃げおおせるのであった。水野は愛する藤千代にかつての春日流の隆盛を取り戻させるために一連の事件を引き起こしたのである。新聞社の呼びかけで新聞社に現れた水野は自らは科学実験で産み出されたと告白する。佐野久伍博士がかつて航空自衛隊に志願し落伍した者の中から水野を選びだし彼に宇宙飛行士を目指さないかと持ち掛けたのだ。そしてそのための人体を改造する人体実験の被験者へと水野を誘う。不毛な青春時代を送っていた水野はその誘いにのったが結果、ガス人間になってしまったのだった。


 釈放された藤千代の前に再び水野が現れる。藤千代は水野に凶行をやめてと懇願するが自分の事しか顧みない世間に迎合する必要などないと水野は聞き入れない。世間では藤千代よりガス人間に注目集中し、警察ではガス人間に便乗することにより世情がこれ以上不安定化することを恐れガス人間を抹殺する事を決定する。佐野博士の研究所を調査していた田宮博士から一定の容量のある空間にUMガスを充満させその中にガス人間を誘い込み誘爆させればあるいは倒せるかもしれないと助言を受ける。はたして藤千代の発表会は紅蓮の炎に包まれガス人間は滅ぼされるのか?今藤千代の最後の踊りの幕が上がる…!

ガス人間、その悲哀と情念

 水野は元々小市民でした。経済的事情から大学進学を諦め、ならばパイロットへと一念発起するものの身体検査ではねられ、それでも人を押しのけ図書館の仕事に就けたものの、パッとしない人生を送っていました。そこに降ってわいた宇宙旅行が出来るような身体になれるという実験の話。2万円という給金がとても高額でいかにも危ない話ではなく、少々高いアルバイトという感覚もあったでしょうが本音は、それで自分の身体が頑強になりまたパイロットを目指せる。または何かそれでパッとしない人生を変えるというのもあったでしょう。


 事実彼はガス人間になってしまったその時は悲観しました。そしてその実験で先に命を落とした者たちのこと思いそんな危険な事をさせたのかと博士に怒りもしたけれど結局、精神統一をすれば自由自在にガス人間になったり元の身体に戻れることが分かり、その万能感に酔いしれたのです。だが彼は却って何もかも出来る万能感からくる虚無感で積極的にそれを使う事は無かった。しかしある女性に好意をもった。それが春日藤千代です。美しい彼女と彼女の舞いに惚れ込んでしまった水野はその力を彼女のためにふるいます。それはまるで自分の好きな藤千代以外はどうでもいいと思うように。そして彼女にもそう要求します。


 最初は金の出どころを知らなかったため離れていった弟子筋をお金の力で引き戻し、発表会に全てをかけていた藤千代はそれが自分のためにしてくれた事とはいえエゴイストな水野の自己満足と自己実現のためだと分かり、まるで鏡に映った自分を見ているようだったのかもしれません。だからこそ最後のあの行動につながったと思うのです。岡本警部の幼馴染で記者の京子が発表会は警察の罠だと伝えに言ってもです。とは言え京子の水野の「愛しているのか?」の問いにははっきりと答えなかったのもまたいろいろと思うところがありますね…。

ガス人間をとりまく人々

 この物語2層構造になっていて前半は明らかに謎めいた踊りの家元、藤千代を警視庁の岡本警部と幼馴染の記者京子が追いながら事件の裏を探っていくというものになっていますが途中から水野がガス人間の正体を表してからは水野と藤千代の物語になっていきます。警察は最初は一風変っているものの普通の強盗殺人事件として捜査していましたが水野が正体を明かしてからは上層部もその扱いに苦慮し、やがては世情を不安定にするという事で彼を「抹殺」するという結論になっていきます。佐野博士を調査している田宮博士は藤千代に協力を求めたり水野の抹殺には科学的見地から異を唱えていましたがそれは「ゴジラ」の山根博士と同じで破壊と死をもたらすものでもその科学的意義を正しく見極め調査、研究することでそこから得られる福音を重視する科学者的見地からでしょう。


 それでもガス人間という稀代の凶悪犯、しかも確たる証拠も残さずに金を奪える人物がいるだけで社会が脆くも崩れていくのは力を持つ者、例えばヒーローが実は危うい存在であるという事の表裏一体にも通じているなと思いました。水野はその正体を隠し正義のヒーローになることも出来たはずです。でも彼は世間に倦み、その結果自分が愛した者のためにその力をふるう事にしたことで結果世界から排除されてしまった。ここは物凄く考えさせられましたね。また京子がいってた世間の目が藤千代ではなくガス人間水野、または彼女と彼の関係や事件が起こらないかだけに注目しているという言葉には40年前と今もそう人の思うところは変わりがない。いやSNSの発達でさらに酷くなっているかもしれないなと感じます。実際今リメイクしても十分いけるテーマとストーリー性をもっている作品だと思います。

キャスト

 キャストとスタッフについてもふれておきましょう。ガス人間水野を演じたのは前作『電送人間』では電送人間を追いかける立場だった刑事を演じた土屋嘉男。前回とはうって変わって愛する藤千代のために暴走していく水野を説得力のある演技をみせていました。土屋嘉男さんは東宝特撮には無くてはならない俳優で『地球防衛軍』でミステリアン統領やゴジラシリーズ『怪獣大戦争』でX星人統制官など一癖ある役を多く演じています。なんでもそういう一癖もあるような役を演じたいと『地球防衛軍』の時は直訴したとか。その他でも重厚な役柄などをしてきた俳優さんです。


 春日藤千代には八千草薫。昨年他界されましたが、可愛いおばあちゃんや、気品のある役。またおっとりとした女性役などが印象深いでしょうけれど、ここでは悲運の女性を気高く演じ切っておられます。八千草薫さんは宝塚歌劇団出身でこの『ガス人間第1号』以外でも多くの映画にご出演されており東宝作品ではあの『ブルークリスマス』にもご出演されておられます。


 岡本警部には三橋達也。Gunマニアなら三橋達也さんの銃捌きはうなるものがあるんですが、この作品でもホルスターから脇の下をくぐらして撃つというシーンがありました。ある年齢層の人にはトラベルミステリーでお馴染みの土ワイこと土曜ワイド劇場の十津川警部を思い出す方も多いかもしれません。東宝では『国際秘密警察シリーズ』(007に影響を受けて作られたアクション映画)でもお馴染みの俳優さんでした。他、東宝特撮にはお馴染みの面々、田島義文、山本廉、他に新聞社デスク役に松村達雄、田宮博士に伊藤久哉などが出演されていました。


 スタッフには監督に『ゴジラ』の本多猪四郎、特技(特撮)監督には同じく『ゴジラ』の円谷英二。水野がガス人間に変身するシーンは苦労されたそうですが等身大のゴム人形をつくったり、電送人間時の合成など挑戦的な撮影に挑んでいます。また描写でもアバンタイトルとOPを交錯させるカットは今でも通用するシャープさがあり、佐野博士の研究所での水野の回想シーンはわざと構図を斜めにするなど特撮と同じく画面で伝えようとしているのが他の作品より顕著に現れていました。脚本は『地球防衛軍』『空の大怪獣ラドン』の木村武。木村武は『美女と液体人間』『マタンゴ』でも本多、円谷コンビと組んでいる間柄です。鋭い人物描写などは必見です。

最後に

 タイトル、今だとサブタイトルで「ガス人間の悲恋」だの「この情愛の果てに」だののサブタイトルが付きそうだけどそういうのを一切廃したシンプルな「ガス人間第1号」ってのは凄くいいタイトルだと思います。そこに込められたのは人類の進歩にもなり得たかもしれないという科学万能時代への警鐘とそして鬱屈した青年の悲哀。そしてそれに殉じた悲運の女性。今でも十分通用するけれどそれだけに下手に手を出したらこりゃ陳腐になってしまうなという完成度を持つ作品です。時間も実は91分。是非ご覧いただきたい過去の名作の1本でした。

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