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東宝特撮・変身人間シリーズ『電送人間』|感想|tonbori堂特撮映画語り【ネタバレ注意】

2020年6月6日土曜日

movie SF

X f B! P L

 東宝特撮・変身人間シリーズを紹介する第2弾は『電送人間』です。そういえば小学校の図書室にかならずあるシャーロックホームズ、ルパンのシリーズとともに江戸川乱歩の少年探偵団(明智小五郎)シリーズに『電人M』ってのがありましたが全く関係ありません(ヲイ)この『電送人間』、『美女と液体人間』は科学の恐怖とその周りで右往左往する人間という形でしたが、この作品は行き過ぎた科学技術への警鐘と共に終戦後のどさくさで生き埋めにされた人間の復讐譚という筋立てでサスペンス色がより濃くなっています。欲に目の眩んだ人たちにより置き去り、または陥れられた者が地獄より舞い戻り復讐するというのは巌窟王こと『モンテ・クリスト伯』でもお馴染みのストーリーラインです。またこれのビジュアルがとんでもなく印象に残っており、よくあった特撮映画のTV放送で見た記憶がないのに凄く馴染みが深いのです。

電送人間公開時ポスター/『電送人間』/©東宝/鶴田浩二 (出演), 白川由美 (出演), 福田純 (監督), 円谷英二 (特技監督) /
『電送人間』/©東宝/鶴田浩二 (出演), 白川由美 (出演), 福田純 (監督), 円谷英二 (特技監督) /Wikipediaより



※2021.10.02タイトルを変更『|感想|byAmazonprimeVideo』から『|感想|tonbori堂特撮映画語り』にしました。

空想科学サスペンス

 機械で人を遠くへ飛ばすという話なら『電送人間』とはまったく違う『ハエ男の恐怖』というSF映画のクラシック作品があります。『ザ・フライ』というタイトルでリメイクされましたがこちらも今ならもっと効果的な視覚効果でリメイクできるかもしれません。ただ『ザ・フライ』は人と人ならざるものへと変貌していくという恐怖を描いた話ですが、こちらは形は人でありながら復讐心に憑りつかれ復讐鬼となった男のサスペンスドラマです。ということでざっとストーリーのご紹介を。

ストーリー

 遊園地のお化け屋敷に入っていく1人の男。お化け屋敷を楽しむという風情でもなく何かを探しているかのようなその男は突如現れた黒ずくめの男に銃剣で刺殺されてしまう。男は手紙で呼び出されお化け屋敷に来たことが分かり、旧軍の認識票が現場に残されていた。記者の桐岡は学芸部に所属しているが事件に興味を示しこっそり現場に忍び込み怪しい部品を拾う。


 男はブローカーで塚本といい旧軍の関係者だった。仲間だった隆は上官だった大西の元へかけつけ自分にも認識票が送られてきたことで終戦時に死んだ須藤兵長の復讐ではと怯えるが大西はもう一人の一味であった滝が自分がのけ者にされて3人が敗戦時のどさくさのあと時の軍資を密かに手にしたのではと疑っての犯行ではないかと取り合わない。隆、塚本、大西は軍の資金横領は失敗したものの戦後密輸に手を染めていて羽振りが良かったのだ。そのため密輸に関わっていない滝には動機があった。


 一方桐岡の拾った導線と部品はクライオトロンというトランジスタに代わると言われる電子部品だった。構造は単純で正確な動作をするものだが絶対温度4.2度を保たなくてはならず取り扱いの難しい部品と知る。さならる手がかりを求め塚本の部屋に向かった桐岡は部屋を貼り込んでいた刑事と蜂合わすがその一人は大学の同窓生であった小林だった。小林から塚本が隆、大西らと密輸に関わっていた事を聞きだす桐岡。隆の経営する軍国キャバレーで張りこむ2人。事務所では大西と隆の元に滝がかけつけた。彼の下にも認識票が送られてきたのだ。そこに謎のテープが届けられる。テープには死んだはずの須藤兵長のメッセージが吹き込まれていた。そして予告通り隆が須藤兵長に殺されてしまう。


 須藤は非常線の警官隊を振り切り倉庫に逃げ込んだ。警官隊が倉庫を包囲したが倉庫内から出火、須藤は行方をまるで煙のように消えた。その後関係者の事情聴取に訪れ大西の事務所を詰問した小林と桐岡に大西は終戦直後の事件の顛末を語り始める。陸軍研究所の仁木博士の資料を松代の大本営に運ぶ任務を隠れ蓑に軍資金の金の延べ棒を密かに持ち出したもののその事情を知らない仁木博士と須藤に知られてしまい2人を銃撃し金と共に死体を洞窟に爆破して埋めたが終戦後再び掘り返したものの2人の死体と金の延べ棒は忽然と消え失せていたのだった。


 これで連続殺人の犯人は須藤兵長でほぼ間違いないはずだが何処に潜んでいるかも皆目わからず燃えた残骸の機能も不明。桐岡たちは仁木と同僚であった三浦博士を訪ね仁木博士の研究内容を尋ねる。三浦博士によると仁木は物質の電送を研究していたいという。偶然塚本の部屋で顔を合わせた中条明子がこの事件現場に遭遇に見舞いに行った桐岡は彼女が務める機械メーカーから冷却装置が小谷牧場へ送られたことを知り軽井沢へ。そして滝に殺害予告が。果たして小谷牧場に須藤兵長は潜んでいるのか?犯人消失は電送機によるものなのか?須藤兵長の復讐は達せられるのか?

復讐鬼「電送人間」

 ちゃんと観たのは先にも書きましたがここ最近(といっても結構経っていますが)の話で観てびっくりしましたね。普通の復讐譚じゃないか!と(ヲイヲイ)それでも全編に渡っておどろおどろしい雰囲気と液体人間の方がどう考えてもホラー向きなんですが電送人間はホラー風味もありますがどちらかといえば犯罪サスペンスという趣もあるんですよ。これよくよく考えるとやっぱり『モンテ・クリスト伯』を下敷きにしているんじゃ?とは言え電送人間は復讐に身を焦がすあまり鬼になってしまった人間の悲哀がよく出ていると思うんですが。何せ何が何でも自分たちを殺した(殺そうとした)者たちへ復讐を果たすという一念で生き延びた訳です。


 そして仁木博士も凄いですよね。軍に見捨てられたものの結局電送装置を完成させてしまうのですから。しかし軍用兵器としては考えてみると致命的な欠陥がありました。それは発信装置と受像装置が必要だという事です。装置が2つないと目的は達成できない。とは言え装置をその場所へ持ち込めれば使えなくもない。例えばスパイを送り込む。または秘密裏に爆弾を送り込んで爆発させる。どちらにしても隠密的に使わないといけませんが。それだけに大掛かりではありますがそのガジェットを使って復讐を果たす須藤もまた大したものです。怪奇大作戦の『壁ぬけ男』のように優れた技術を己のためだけに使うのですから。


 先にも書きましたが大きくなってやっと本編を観たんですが電送人間のルックというか電送機に入った須藤の姿は無茶苦茶お馴染みで、なんでだろうなとずっと考えていたんですが、それは小学生向けのSF映画や特撮映画特集で必ずお目にかかるものだったからです(昭和40年代から50年代後半まで)なので円形型の蛍光管が敷き詰められた筒状の入れ物の中で発光している須藤(電送人間)を観た人はけっこういるんじゃないかなと推察しているんですが…。


 でも話の内容はほとんど知らなくて、地獄から蘇った男が復讐を果たすため電送人間となって襲い掛かるという、間違ってないけどざっくりすぎる説明だけでしたね。だけど顔の傷に青白い顔で大変怖ろしい感じでした。ちなみに須藤兵長を演じた中丸忠雄は完成品をえらい役を演じてしまったと思い次作の『ガス人間第1号』への主役打診を断り少し干されてしまったとWikipediaの記述にありましたが、いやその後も映画には出られてたってことで他作品での主演作の機会を逃してしまったという事かも知れませんね。

キャスト

 その中丸忠雄氏は初期の岡本喜八作品の常連でもあり知的な顔立ちで陰謀術数を張り巡らせる悪役や主人公を助ける敵なんだけどおとぼけな好漢まで幅広い役柄で活躍された人です。東宝特撮作品でも前作『美女と液体人間』では刑事役、『地球防衛軍』では防衛隊隊長役で出演していました。


 主役の新聞記者、桐岡は鶴田浩二。東映の戦争映画や任侠映画が思い浮かぶ人が多いかもしれませんが実は東宝と専属契約を結び1958年から1960年制作の東宝映画に出演していました。『電送人間』もその1本と言う訳です。鶴田浩二は甘いマスクで戦後を代表するスター俳優でしたがこの頃は低迷していた時期だったとの事。それでもやはり重厚なところを見せています。ただこの作品では謎を追う探偵役で、鶴田浩二がキャスティングされるなら刑事かまたはタイトルロールの電送人間でしょうが電送人間は言わばダークヒーロー。明るい道を歩いてきたスター俳優ではという感じで、謎解き役へ思うんですがどうにもミスキャスト感が否めません。ただ同級生でワトスンの役回りとなる小林警部役平田昭彦との掛け合いは良かったですね。平田昭彦は『美女と液体人間』に続いての刑事役です。そういえば『太陽にほえろ』でも七曲署の署長でした。


 その他にも須藤による殺人事件を担当する岡崎捜査主任は土屋嘉男、平田昭彦と同じく前作でも刑事役ですがこの後の『ガス人間第1号』ではタイトルロールのガス人間を演じる事に。土屋嘉男といえば『地球防衛軍』のミステリアン統領、『怪獣大戦争』X星人統制官など特撮ファンには癖のある役でお馴染みです。ガス人間にも並々ならぬ思い入れがあるそうです。ヒロインには白川由美。東宝の看板女優としてすでに高名であり、特撮にも『空の大怪獣ラドン』、『地球防衛軍』にもヒロインでご出演されてますね。


 敵役には東宝男優陣、田島義文、堺左千夫が配され、親玉である大西元中尉にはこれまた大スター、河津清三郎が演じています。時代劇で名を馳せ戦後も大御所俳優として脇を締める重要な役どころで各社の作品に出演していた方です。東宝の作品にも数多く出演し『モスラ』『世界大戦争』『妖星ゴラス』など東宝特撮にも出演されています。ギャングのボス、社長など重厚な役が似合う方でした。

監督

 今作の監督は福田純。これもWikipediaの記載なんですが実は『ゴジラ』の本多猪四郎監督が撮るはずだったのが多忙なため福田監督にお鉢が回ってきたとか。ちなみに変身人間シリーズ3作とも本来は本多猪四郎監督が登板の予定だったようです。しかし売れっ子の本多監督の過密スケジュールでは連続撮影は難しくなり福田純監督が撮影することになったとか。福田監督は東宝の職人監督として若大将シリーズや後半のゴジラシリーズを担当。中でも宝田明の『100発100中』を撮ったとか…これtonbori堂未だ未見なんですよね。007をお手本にした三橋達也の『国際秘密警察』と共に軽妙なスパイアクション映画として作られたそうなんですが『国際秘密警察』よりもさらにライトでコメディタッチと聞いています、何時かは観たいと思ってる1本です。


 その他の作品も一見すると陽性なものが多いんですがフィルモグラフィを観ると『エスパイ』(かなりぶっ飛んだ残酷描写やエロティックなシーンもある)や『野獣都市』(大藪春彦原作のハードボイルド)もあるのでまさにオールマイティな監督であったことが伺えます。またゴジラ・シリーズでは5本を担当。中でも人気怪獣ガイガンの登場する『地球攻撃命令ゴジラ対ガイガン』『ゴジラ対メガロ』を撮っておられます。斜陽期だったこともあっていろいろ苦労もあったようですがガイガンやメガロに登場したジェットジャガーは未だに人気がある作品なので福田監督の名前を目にした特撮ファンは多いかも。また「ゴジラ対メカゴジラ」も監督されたことも見逃せません。

最後に

 『電送人間』は終戦の時代から14年経って世は科学時代、人は宇宙へと進出する時代となっても復讐心はそうやすやすとは消えないという部分と、科学というものが時として凶器となりうるという部分をクローズアップした作品となっていました。正しく使えば電送機械は交通手段の一つとしてまたは遠隔地への作業などなど世界を新たに切り拓くものになったかもしれない。しかし須藤は殺されかけた復讐のため、歪んだ目的でそれを使用してしまう。いかに優れた技術であっても使う者よって左右されるものであるという警句を感じます。全体のトーンとして明るくない作品ではありますが隠れた名作ではないでしょうか。とくに電送人間須藤の中丸忠雄の演技は一見の価値ありだと思います。


 さて次回は変身人間シリーズ第3作にして最終作である『ガス人間第1号』をお送りしたいと思います。ではまた次回にてお会いしましょう😌

ソース|電送人間 - Wikipedia

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