『富野由悠季の世界』in兵庫県立美術館に行ってきた。|tonbori堂リポート-Web-tonbori堂アネックス

『富野由悠季の世界』in兵庫県立美術館に行ってきた。|tonbori堂リポート

2019年11月18日月曜日

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 6つの美術館での巡回展、『富野由悠季の世界』が福岡市美術館での展示会が終了し兵庫県立美術館にやってきました。この後12月22日までの開催で、来年は島根県立石見美術館、青森県立美術館、富山県美術館、静岡県立美術館へと巡っていくそうです。ほぼ1年間超に渡っての巡回展で多くの人が『富野由悠季の世界』に触れるかと思うと、ちょっとワクワクしますね。今回の兵庫県立美術館での『富野由悠季の世界』展覧会はそれだけの熱量をもったものを感じたからです。

富野由悠季の世界
兵庫県立美術館エントランスにあるのぼり。富野由悠季監督のポートレイトがお出迎えしてくれる。

富野由悠季の黎明期から虫プロ時代そしてフリーへ

 現段階での富野由悠季監督の最新作『Gのレコンギスタ』のフッテージが投射映像として映し出される階段を上がり、入り口から最初に展示されているのは富野由悠季のメッセージとイデオン当時の写真や絵コンテ、セル、背景を用いたアニメ制作現場の説明でした。そこからアニメというものはこうやって創る、一人ではできない、だけどそれらを素材として、料理するシェフであり、演奏者を指揮するコンダクターであるという。アニメ監督とはそういうお仕事という説明から入るのは既に知ってる人には少し退屈だったかもしれません。それでもその後の展示を思うと、監督という仕事の大変さ、そしてその重責さを感じ取るのには良かったかもと見終わったあとで思いました。

兵庫県立美術館
兵庫県立美術館外観

 そして監督の黎明期、少年から学生時代への歴史を遡る展示が始まりましたがなんといっても目を引いたのは与圧服でした。監督の御父上は技術者で、戦争中にパイロットの与圧服の開発に従事していたという事でそれを再現したものと所蔵されてた与圧服に着色したものが一番目を引きました。監督もまたそう言ったモノに心を惹かれ宇宙に憧れたのかと。そしてその頃に創った言わばスクラップブックやスケッチも同時に展示。監督自身は絵心はないとよくおっしゃいますがそんなことはない、やっぱりモノを捉える目は幼少期から培われていたのだと。この辺りも宮崎駿監督に嫉妬するというのも分かるんですよね。


 画才がないとご本人いうものの、監督絵心はあるしレイアウト能力も凄く高い。なんとなれば宮崎駿監督には出来ない動きのダイナミズムや非凡なカッティングが出来る。けれどプリミティブな動きを想像もできるし指示は出来るけどそこが描けない。つまりそれがいわゆるアニメーターという職業の画才というのであって、それがないというのをある種コンプレックスになってて、そこからあのスピード感のあるコンテが産まれたのかなあと想像しています。それは黎明期以後の展示でザンボット3やガンダムのGのレコンギスタなどの絵コンテが多数展示されていましたが、展開はすごく細かいけれどキャラ芝居は腕のいいアニメーターに任せる(当然理にかなわない、気に入らない場合は容赦なくリテイクなんでしょうが)という感じなんだろうなと。宮崎駿監督はそこ自分が書き直してしまいますからね(笑)


 だからガンダムでも安彦さんの能力が無かったらという話はしてらっしゃいますし、イデオンは湖川さんというアニメーターがいたからこそだと。ただそこに安寧とはしないで、次の才能を探しに行くのもある程度業界の先行きに関して早いうちから自覚的であり後進を育てねば業界が終わってしまうという危機感も持ってらっしゃったからこそのエルガイムでありゲイナーでありだと思うんですよね。そしてそれは『Gのレコンギスタ』にもちゃんと脈打っていると思いました。


演出のプロフェッショナルとして

 宇宙好きだけど理数が苦手で画の方に進もうとしてもそちらも頭打ちになり、映像の道に進んだそうですがいろいろ葛藤もあっただろうしそこは黎明期の展示を見ると感じるものがあったなと。大学卒業後の虫プロ時代、そしてフリー時代、自らに課したお題をこなしそれこそ黎明期であったTVアニメの世界で頭角を現していく様は、朝ドラの『なつぞら』でも描かれたある意味アニメエリートの東映動画とは別の雑草のたくましさを感じるのですが、そこでの高畑勲監督との仕事、『赤毛のアン』の高畑勲監督の修正の朱書きなどから上には上がという、そこからのさらなる自分の再発見があったんでしょうね。


 以後展示は、監督の代表作、『海のトリトン』、『勇者ライディーン』『無敵超人ザンボット3』を紹介し、決して順風満帆ではない、どちらかと言えば失敗の烙印を押されてもなお『機動戦士ガンダム』に至るまでの世界観構築や、物語のテーマ性などなどを考察させる作り。そして多分この展示会で最も力の入っている『機動戦士ガンダム』への展示となっていきます。幾つかのフッテージ(取り出された映像素材)もモニターやプロジェクター上映されていましたが、『機動戦士ガンダム』の第1話『ガンダム大地に立つ!!』はやっぱり良くできているのですよね。


 細かい性格設定、露わにしないが奥底に流れているものを感じさせる台詞回しやそういうものを絵コンテなどで視覚的に解説も当時の資料を紙媒体ではなく使われた本物(コピーもありますが)を見るとまた訴えてくるものが全然違います。でも『ザンボット3』と来たら『無敵鋼人ダイターン3』じゃないかと思った人もいたはず。大丈夫ガンダム、イデオンという監督のメジャーシーンへの第一歩の展示の後にちゃんとあります。基本的に富野由悠季監督の関わったお仕事けっこう網羅されています。当然初期のコンテ参加作品全てではないですが監督、演出としてキープレイヤーだった作品は『ラ・セーヌの星』までも。

出口に設置された撮影用ダイターン3の像。
出口に設置された撮影用ダイターン3の像。

重戦機エルガイム/ファイブスター物語/F.S.S

 なので当然、『重戦機エルガイム』もございます(笑)そうtonbori堂的にはこの話は外せません。永野護のラフデザインは紙媒体で見たものが殆どでしたが、それの本物が目の前にあるというのはやっぱりいいですよね。それにtonbori堂が見た事が無い画稿があったり(これはマニアの間では知られているやつなんでしょうか?)あと永野護関連では『聖戦士ダンバイン』のビルバインのラフ案とか、『ブレンパワード』も見逃せないところでしょうか。


 ここにHsガンダムとか永野護案ZやZZがあればさらに…いや永野護展じゃないんだから(^^;でもエルガイムの展示だけで言えば富野由悠季監督の『ムゲン・スター』イメージボードは少なくともエルガイムは監督のものだったと思いました。だから永野にやる発言が出たんだなと改めて感じましたね。それとあのイメージボード見ているはずだからやっぱり影響あるのかなあと穴が開くほど見ちゃいました(笑)

∀、そしてGのレコンギスタ

 この2作品の展示も力が入っていました。特にシド・ミードさんの画稿とか(海外から送られてきた原本のコピー)この辺りは図録買っていないので(4000円ですが資料性は高いので押さえておきたい人は買いの逸品です。)脳内記憶を呼び出して、凄かったなあとなっているんですが、それ以外にも大河原さんやその他の方の画稿のみならず初期設定からメモ、イメージラフなどなど。フッテージはラストシーンの月の繭がかかる名シーン。とにかく今更ですけれど『∀ガンダム』って名作ですよね。1999年から2000年に放送されたのも今から考えると凄い事です。


 そして今、富野由悠季監督が取り組んでいる『Gのレコンギスタ』もTV放送時の絵コンテとフッテージ(参考映像)の比較対比や世界観の構築、キャピタル・タワー、軌道エレベーターの図解、解説などなど世界観の作り込みやその作業の一旦を紐解くつくりにやっぱりこれは演出も含めて子どもに向けてつくっているなと改めて思いましたね。あれが深夜に放送されてたのが放送当時から残念だなあと思っていたので。この機に皆というかお子さんにまず観て欲しいなあと思ったりもしています。(お子さん連れのお客様もいらっしゃったので、余計にそう思いました。)

最後に

 富野監督の作品の魅力がもっと深掘りされてもいいんじゃないかなと感じていた時に今回の企画を聞いて、それは是非見たいと思っていましたが、かなり力が入ったものになっていました。まあ当然全ては網羅できないし、作品というのは多くのスタッフがいてこそのもの。それは最初にそう明示されています。つまり監督は水先案内人であり、船頭。そういうある種のコンパスとしての作品の設計書を展示するというのは面白い試みであったなと思いました。


 でも立体物の展示ももう少しあってもいいんじゃないかとも思ったんですが映像の人だから、こういう映像をなんとか皆さんに多面的に見て欲しいと工夫はしているなと凄く思いましたね(フッテージの使い方とか)それと初期の富野メモとか、本当によく取ってあったなと感心しました(笑)特に幼少期から青年期の資料は個人蔵ってなっていましたけど…監督ご本人?な訳ないか。まさかご実家から?しかしガンダムという一大ムーブメントの立役者であり、その後も幾つもの作品を残してこられた監督の創造の原点と、その時の想いなどを断片ながらも網羅している。確かに「概念」を展示するのは難しいけれど手がかりとしての資料として、これほどの一級品の資料を一堂に会して見る事は余りないと思うので、富野由悠季監督に興味のあるお近くの方は是非ご覧になっていただきたいと感じる『富野由悠季の世界』はそういう展示会でした。

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