昔日の思ひで|ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

昔日の思ひで|ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド|感想【ネタバレ注意!】

2019年9月25日水曜日

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 クエンティン・タランティーノの通算9作目の監督作品。それぞれ別の作品でクエンティンと組んだブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオ。意外な事に、実はピットとディカプリオ、この2人が組むのはこれが初めてだそうです。物語も前作、『ヘイトフルエイト』と違うテイストで、今回はタランティーノの小さい時の思い出を今のタランティーノがフィルムに焼き付けた作品になっていました。

<レオ×ブラピ 奇跡の初共演>編 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』15秒予告 8月30日(金)公開/ソニーピクチャーズ/YouTube/

1969.02.06 HOLLYWOOD(STORY)

 レストランである初老の男と俳優があった。俳優はリック・ダルトン。『賞金稼ぎの掟』で一世を風靡したが今はTVドラマの敵役などで食いつないでいる。初老の男はシュワーズ、映画プロデューサーでエージェント。リックに注目しており、彼の作品『タナ―』や『マクラスキー 14の拳』を自宅で見た上で彼にハリウッドではリックをメインで使おうとする人間はいない、ここは一つ、イタリアで西部劇に出ないかと誘う。しかしリックはイタリアで西部劇?とはなから乗り気ではなくイタリア行きを渋るが、それでも自分のおかれた立場を再確認して落ち込む。そんな彼の傍にいる男。彼のクルマを運転し、身の回りの世話をしている『賞金稼ぎの掟』の頃からの彼のスタント・ダブルを務めているスタントマンのクリフ・ブース。クリフは悪い話じゃない、俺なんかはここ暫くスタントマンの仕事をしていないとリックを励ます。


 実はクリフは『グリーンホーネット』の敵役に呼ばれたリックのコネでコーディネーターのランディに口利きしてもらいスタントマンの仕事にありついたが、現場でカトー役のブルース・リーとひと悶着起こしランディの妻で同じくコーディネーターのジャネットのクルマをへこましてしまったのだった。その一件と妻殺しという噂でクリフはハリウッドからは干され気味。リックの付き人をして糊口を凌いでいる状態だった。シエロ・ドライブにあるリックの自宅に到着すると、クラシックなスポーツカーがやってくる。派手な音を立てて隣の屋敷に入っていった新しき隣人は『ローズマリーの赤ちゃん』で一躍時の人となったロマン・ポランスキーとその妻のシャロン・テートだった。


 売れっ子俳優になったときに街の住人になるべく家を購入したリック。しかし最近は敵役でしかお呼びがかからずまさに崖っぷちだった。翌朝、新作TV西部劇のパイロット版の敵役に呼ばれたリックは前日に飲み過ぎコンディションは最悪。そして意にそぐわぬ衣装に付け髭とメンタルも下降気味。そんな時に子役の少女。役名のマラベラで呼んで欲しいと言う利発な彼女と自分の置かれた立場を感じて感情が溢れてしまうリック。まさに最悪の状態。一方クリフは、リックの家のアンテナを直しスタントの仕事を頼んだ時にこの仕事の仕切りがランディと聞いてブルースとの一件を思い出してかぶりをかぶっていた。アンテナの修繕が終わると、リックを迎えに行くまでの時間をつぶしにクルマでロスの街を流していると以前街で見かけたヒッピーの少女がヒッチハイクをしていた。彼女を拾うクリフ。彼女たちはスパーン映画牧場に住んでいるという。スパーンはクリフも映画の撮影で良く行ってた場所だったが牧場主のスパーンがいたはず。妙な予感がしたクリフはスパーンに会うのだが…。


 シャロンは一人街に出て古書店で「テス」の初版本を買い求め、自分の出演した映画『サイレンサー 破壊部隊』をやってる劇場にやってくる。そしてチケットの売り子に「私、この作品に出ているんだけど、観ていってもいいかしら?」と訪ねる。一般観客に混じって自分のシーンを観てほほ笑むシャロン。


そして時は流れ1969年8月。運命の夜が訪れる。

タランティーノの昔日の思ひで

 これはもう古き良き時代…というよりはタランティーノの想い出を美しく映し出している作品なんですよね。『三丁目の夕日ALWAYS』は昭和のあの時代はっていう作品なんだけどもこちらは完全に個人的な想い出なんです。だからリックの置かれた状況は厳しいし映画は斜陽。だからこそイタリアで大量に作られてたマカロニウエスタン(アメリカではスパゲッティウエスタンだそうですが)にリックが誘われるのもハリウッドではもう殆ど作られていないから。


 リックは元々TVの西部劇スターでそこから映画へ進出しようとしたけれどキャリアチェンジが上手くいかずくすぶっているという設定は今では映画界の大御所で自らも監督作を世に放ちオスカーも獲得したクリント・イーストウッド。そして70年代から80年代を代表するセクシースター。バート・レイノルズを思い出します。そういえば2人の共演作もありましたね。またスティーブ・マックイーンもそうでした。この映画は昔日のハリウッドの関係者が実名で登場していますがマックイーンもシャロンとポランスキーとシャロンの元婚約者であるシブリングがプレイボーイマンションでのパーティに行ったときに登場していました。


 ファンの間で物議を醸したのがブルース・リーの扱い。ブルースが高説を垂れ、それをリックが鼻で笑うことから一触即発になるというシーン。これについてはブルースの娘が反論し、クエンティンもいや彼はそういう面もあったと反論したとか。tonbori堂もブルース・リーは好きだからちょっと心穏やかではないシーンではありました。まあ映画だからということで納得していますが(クエンティンもそういう言い訳をして火に油を注いでいたようですが)うーん実在の人間を出すとそういう部分はありますね。でもスティーブ・マックイーンはめちゃくちゃカッコいい。ああクエンティンにとってのアイドルだったんだろうなと。分かりますね。登場シーンは多くないけれどいちいち渋い(笑)でもそれよりも彼が力を入れていたのがシャロンです。

タランティーノのミューズ

 彼の映画のミューズって(実際の恋人や配偶者とは別に)だいたい金髪なのはずっとシャロンの幻をおいかけているから?かと思うぐらいにシャロンをずっとインサートしてくるわけです。というか実は彼女が本筋に絡んでいるかと言うとそうでもなく。この話、元々筋らしい筋はなくリックとクリフというハリウッドの映画産業の隅っこにいる2人があがきながらも2人でなんとかやってる話が前半でそこから転機が訪れてラストへなだれ込むという構成になってるんですが、ともかく2人の人となりとともにシャロンへの描写もまたこれでもかっていうくらいに入ってるわけです。それだけクエンティン・タランティーノがシャロンに入れ込んでいるという証拠でもある訳なんですが、彼女への哀惜の情もひしひしと伝わってくるのがシャロンが夫のために『テス』の初版本を手に入れた後、自分が出演したアクション映画『サイレンサー 破壊部隊』を劇場で観るシーン。満員ではないけれどスクリーンに映し出される自分を見てニコニコするシャロン。周りの笑い声にまたニッコリするシャロン。もうどんだけタランティーノ、シャロン好きなんだと言わんばかりのシーンです。


 この時スクリーンに映し出されるシャロン・テートはオリジナルのシャロンです。フェイクな作品やリックがもしマックイーンの代わりに自分が『大脱走』のヒルツ大尉を夢想するシーンでは原版のシーンにリックを差し込んだものを使いました。またドラマ『FBI』のリックが敵役で出演した回もバート・レイノルズが敵役で登場した回を上手くリックのシーンと差し替えて使用していたことからこの作品ではシャロンが一種別格であるという事を表していると思ってもいいでしょう。


 この作品でシャロンを演じているのはマーゴット・ロビーだけど、フィルムの中のシャロンは永遠に侵されざる存在となった。でもあの悲劇がなければというIFを「おとぎ話」としてあのラストをつくったタランティーノの心情もこれこそのがリアルなシャロンなんだという一種の叫びだったように思います。

リックとクリフ

 この2人のブロマンス的なストーリーも終局に向かうはずが、最後の最後で凄い展開を見せる事になります。そこで分かるのは、リックというのはイーストウッドやレイノルズになり損ねたハリウッドスターだって事。ある意味当時のハリウッドの住人の色々な部分が混ざった、でも愛すべきルーザーで、年代は違うけれど『ナイスガイズ!』のマーチに近いメンタリティの持ち主。だから分かりやすいんです。対するクリフはリックとは違って本当に闇を抱えてしまった人物であるなと。ラストシーンでマンソンの信奉者である襲撃者3人を躊躇なく返り討ちにするあたり、戦争で受けた心の傷が大きいという事を暗に示しています。それに妻殺しも決定的なシーンを見せないでぼかしている部分もタランティーノのらしいなと感じました。決定的な事を言わないから観た人がこうではないかと想像できる余地がある。だからこそ糊代が出来て複雑な人間性を垣間見ることが出来る。


 だから彼がスタントマンをしているのも、それが危険を買う商売だからかもしれないと思いました。まあ月並みな連装だけどスタントマンは危険な商売。それを描いた映画もありました。クリフの人物造詣のモデルでもあるバート・レイノルズが主演し、その盟友でありスタントマンであり映画監督でありクリフのモデルの一人であるハル・ニーダムが監督した『グレートスタントマン』です。この作品も中年に差し掛かり引退を考える歳になったスタントマンが若手に対してベテランの意地と矜持をみせる作品で、この映画も大きくはないけどこの作品にじんわりと影響あるかもしれません。ちなみにレイノルズ演じるベテランを脅かす若手をジャン・マイケル・ビンセントが演じていて、晩年の彼を思うとこれまた人生悲喜こもごもだなと。

ソース|映画 グレートスタントマン - allcinema
ジャン=マイケル・ヴィンセント(Jan-Michael Vincent) のプロフィール - allcinema

 また戦争の英雄ってことで戦争に行き英雄として映画界にデビューし映画の斜陽に伴い自らのキャリアに苦しんだオーディ・マーフィを連想させますが、彼の歩んだ道はどちらかといえばリックに当てはまります。そういえば『ダーティハリー』のスコルピオは最初彼にオファーされていたそうで、再起をかけていたとも…ですがそれは果たせず飛行機事故で亡くなります。当然タランティーノはそういう事も知っててリックやクリフの人物造詣の参考としたのだろうと思います。

哀惜のおとぎ話

 物語の最後に訪れる惨劇は実際にはシャロン・テート殺害事件としてマンソンの信奉者であった3人が彼女たちを惨殺した事件として世の中を震撼させました。実際のくわしい事はWikipediaや、映画系サイトでも公開に合わせて特集しているところが多いのでそこをご覧いただければ。但し胸糞悪くなる事件ですので閲覧する場合は十分お気を付けください。

ソース|

ワンハリが描く『シャロン・テート殺害事件』とは?監督の解説付き (1/2) - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

【中編】シャロン・テート殺害事件、50年前のどう報じられていたのか? - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

シャロン・テート - Wikipedia

 さらに言うとこの事件は発生した年末まで犯人が分からず捜査は難航していたんですが、その間にピッピ―ムーブメント、フラワームーブメントの最後の打ち上げ花火とでも言うべき「ウッドストック・フェスティバル」が1969年8月15日から開催されラブ&ピースが叫ばれフラワームーブメントは最高潮を迎えました。しかし同年末に事件の真相が明るみに出ると、ムーブメントに暗い影を落としたと言われています。(同じころに行われたオルタモントのフリーコンサートでは殺人事件が起こり混乱したのもこの頃でした)


 ベトナム反戦運動など1970年代にもこの運動は続きましたし、今はムーブメントとしては過去のものですが影響は様々な形で残り受け継がれています。タランティーノはそんな混乱と映画の黄金時代から斜陽へ、まばゆい輝きと共に一瞬だけ存在したミューズを、自らの手で救い出したかった…でもそれは叶わぬ夢物語。だからおとぎ話としてこの作品を作った。そう思います。哀惜のハリウッドおとぎ話として大人の夢物語としてタランティーノの渾身の1作でした。

ソース|映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

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※何と言ってもタランティーノはサントラ。今回も通な選曲です。

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