風の谷のナウシカとAKIRA|tonbori堂アニメ語り-Web-tonbori堂アネックス

風の谷のナウシカとAKIRA|tonbori堂アニメ語り

2019年1月12日土曜日

anime manga movie

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 2019年お正月第2段目(といっても既に10日以上を過ぎていますけど)平成の最後の年に『風の谷のナウシカ』と『AKIRA』を地上波とCS放送で観るとは…今回はそれぞれアニメ史上にその名を燦然と輝かす2作品について思った事と、両方について少し書いてみたいと思います。

風の谷のナウシカ

 まさかこの2019年の正月が平成最後とは数年前には思ってもみなかったですが、そもそも元号が今上天皇の崩御で無く譲位によって元号が変わる経験というのは明治維新後初めての事ですので、誰も経験をしていないという事は当然なんですよね。そんな時に1984年に製作された『風の谷のナウシカ』を観る事になろうとはちょっと思うところがあります。

風の谷のナウシカ/パンフレット/表紙は高荷義之先生のてによるもの
風の谷のナウシカ/パンフレット/表紙は高荷義之先生のてによるもの


 この作品は雑誌アニメージュの連載漫画で『ルパン三世カリオストロの城』の再評価でその人気が高まってきた宮崎駿監督が連載している漫画を自ら監督するというのが売りでした。東映動画の生え抜きで高畑勲監督らと手がけた『アルプスの少女ハイジ』を経てNHKで不放送されたTVアニメ『未来少年コナン』、そしてヒットシリーズルパン三世の映画第2弾として『ルパン三世カリオストロの城』を監督した宮崎駿監督はまだこの時点では知る人ぞ知る存在でした。もっとも既に知っている人たちは宮さん(宮崎監督の愛称)の凄さを既に知っており、当時まだ小僧でやっとガンダムなどでアニメージュの存在を知ったtonbori堂には子供の頃に衝撃を受けたルパン三世1stシリーズ後半を手掛けた人という情報は大きなものでした。


 そんな宮崎監督の独特なタッチの漫画、『風の谷のナウシカ』はまだ連載途中にも関わらずその好評からアニメ化決定となり(実際は既定路線だったそうですが)休載して宮崎監督は製作に入ります。この時の体制が後のジブリの基礎になるわけですが当時はまだジブリは存在しておらず、トップクラフトというスタジオで製作されました。

ディストピアとユートピア

 未来の地球は腐海という菌類の森に覆われそこに棲む蟲たちがその菌類を版図を広げていき、それを押しとどめようとした人類は王蟲という巨大な蟲に辺境へと追われた存在でした。

 そもそも地球がこのようになってしまったのは「火の七日間」という出来事により、巨神兵という人が産み出した人型の巨大生体兵器によって1000年前に燃やし尽くされたからです。なぜ彼らは自らの主たる人々や文明までも燃やし尽くしたのかは判然としませんが、腐海の奥深くには化石化した巨神兵が眠っている事から世界中を破壊しつくした後はその場で活動を停止したようにも見えます。

蒼き衣の救世主

 ナウシカはその辺境の辺境、酸の海のほとりにある風の谷の族長の娘(姫)であり族長ジルの代わりに谷をまとめている中心的存在です。その彼女が風の谷に墜落したバカガラス(古の技術を再使用した大型輸送機で逼塞した人類の2大勢力の一つトルメキアが使用しているもの)が墜落した事からトルメキアと土鬼(ドルク)との争いやその勢力内での内部抗争に巻き込まれていく事になります。また腐海に深奥において森の人と呼ばれる腐海の秘密を守る者たちと交わりこの世の秘密を知りそれでも雄々しく大地に立つという話です。


 アニメは原作でいうと土鬼と戦う前で終了し王蟲の大海簫を止めるところできれいに終わっているため原作を読むと余りも酷薄で残酷な終わり方であり、ナウシカもいわゆる世界を救った救世主とはなりません。いや蟲使いたちや土鬼の民にも慕われてはいるけれど、一種白土三平作品のような寂寥感漂うラストでありました。しかしアニメの方は『その者、青き衣をまといて金色の野降り立つべし』とともに王蟲と心通わせ厳しい世界でも未来はあるという希望溢れたラストとなっています。


 このギャップはしばしばネタとして取り上げられたり、宮崎監督の心境の変化などが語られたりしますが基本的にこの作品を貫いているのは、人は道具を手に入れたら使わずにいられないし、いい人もいるけど悪い奴もいるという事だと思います。そして人はその現場での行動でしか道を指し示すことが出来ないという事では筋は通っていると思います。といっても宮崎監督の中で筋が通っているだけですが(笑)

AKIRA

 一方『AKIRA』は漫画家大友克洋の漫画を大友克洋自身が監督したアニメーション映画です。ナウシカ公開から4年後の1988年に公開の運びとなりました。その映像のち密さと原作通りのキャラクターがストーリーは漫画と違う展開を迎えますが、主人公金田とある出来事から実験体41号となった島鉄雄との対決を軸に反政府ゲリラの少女、ケイ。東京の治安を預かりAKIRAに関わる人物、アーミー(軍)の大佐、そして実験体(ナンバーズ)26号タカシ、25号キヨコ、27号マサルが登場し漫画のそのもののビジュアルとクオリティでファンを驚嘆の渦に巻き込みました。

AKIRA/パンフレット/tonbori堂所蔵品
AKIRA/パンフレット/tonbori堂所蔵品




ネオ東京

 物語は1982年に関東地方で新型爆弾が爆発。東京は崩壊しこれを引鉄に世界大戦が勃発した未来の2019年(!)から始まります。翌年には東京オリンピックの開催が計画され急ピッチで戦災後、復興のため東京湾上に作られた埋め立て地につくられたネオ東京も熱気と倦怠が渦巻く大都市となっていました。このネオ東京が主な物語の舞台となるわけですが、ウォーターフロント、お台場などなど未来の東京を予見したのではないかと最近もてはやされ、NHKでは『東京リボーン』なる企画も生まれていますね。『AKIRA』のスタッフが集結して金田とおぼしき人物が今も変貌を続ける東京を疾走するOPCGアニメが放送されました。


 そういえば『機動警察パトレイバー』で手狭になった東京を拡張するためのプロジェクトとしてバビロンプロジェクトなるものがありましたが、ネオ東京もほぼ同じような感じです。このネオ東京のイメージは後の作品に多大な影響を与えているのは間違いありませんが当時にそういう話がいっぱい出てきたのは、それこそウォーターフロント再開発やそういう流れがあったからです。海ほたるを含めた東京湾アクアラインもその一つですよね。

アーミー(ARMY)

 主人公は金田と鉄雄なんですが物語のもう一方の中心人物である大佐が率いるのはネオ東京の治安を預かるアーミーです。くどくどとは説明されませんが戦中に自衛隊は発展的解消を経て軍隊となったということと推察できます。サクラのマークが大きく書かれた装甲車や帽子などが印象的ですが一方でフライングプラットホーム、携行型光学兵器(レーザーライフル)、そしてS.O.Lと呼ばれる衛星レーザー砲など先進的な装備を持っているのはAKIRAの秘密を握っているからこそなんでしょうね。この辺り漫画原作でもはっきりとは明言されていませんがAKIRAを軸に力の駆け引きがあったことは間違いもなく、その力に魅せられた根津のような人物の小賢しい陰謀はその力の前には潰えるほどです。

金田のバイク

 なんといってもAKIRAといえば金田のバイクを思い出す人も多いかもしれません。映画『レディ・プレイヤー1』でもアルテミスが使うバイクは金田のバイクでした。当時実物大のモックアップがつくられたり、その後も個人で制作する人が出てきたり、金田のバイク風のスクーターにした人がと、これまた影響が大きいガジェットなんですが今現在、モーター駆動の電動バイクはそこまでまだ普及していませんね。

 ですが電気自動車の時代がもうすぐ来ようとしている現在、金田のバイクのような電動バイクが登場するのも時間の問題かもしれません。そういった意味でもある種の手塚治虫や石ノ森章太郎とは違う未来社会を描いたのがこの作品『AKIRA』の一面です。


S.O.L

 それは軍事面でも現れています。物語に登場したS.O.Lは日本が独自に運用する地表を攻撃できる人工衛星で、レーガン政権下で発表されたスターウォーズ計画(SDI)今となっては荒唐無稽な計画であったという話もありますが、それが発想の元になったのかなと推察しています。


画像はイメージです|人工衛星のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや
画像はイメージです|人工衛星のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 原作で登場した時、遥か天空から地表をピンポイントで攻撃できる兵器はビジュアルインパクトが大きく、多くの作品に影響が見て取れます。またハリウッド映画でも時たま見られるこの手の兵器を漫画で描き、さらにはアニメで描いて見せた大友克洋という人は本当に未来を見据えていたんだなと感心しきりです。ちなみにこのブログで取り上げた『エースコンバット3エレクトロスフィア』ではOSLという衛星レーザー兵器が。パワードスーツが激突する漫画『redEyes』ではオービタル・アイズという多目的軍事衛星群がでてきましたが、これらはSOLのフォロワーだと思います。

ナウシカとAKIRA

 まったく違う作品なんですけれど80年代の基礎を作り上げ後進への影響も多き作品として語り継がれる両作品なんですが、この2019年のタイミングでナウシカは1月4日の日本テレビ系金曜ロードショーで21時より放送され、AKIRAはCS系映画専門チャンネルで5日に名作アニメを放送する枠により放送されました。そこでふと思ったんですよね。『風の谷のナウシカ』が製作されたからこそ『AKIRA』があったんじゃと。単純に両作品とも漫画原作であり、原作者自らが監督しているという。もっともそんな理由ではないのではとTwitterでもツッコミ受けました(笑)当時はアニメブームが花開いた頃。島本和彦の『アオイホノオ』で描かれてもいましたがシーンが熱かった時代でした。

ナウシカとAKIRA、原作漫画第1巻/tonbori堂所蔵品
ナウシカとAKIRA、原作漫画第1巻/tonbori堂所蔵品




 宮崎駿監督は既にベテランアニメーター/演出家として名前が知れていましたし、アニメ雑誌アニメージュで連載が始まったのも宮崎監督の才能に惚れ込んだアニメージュ側が宮崎監督の構想を形にしたいと1982年2月に始まったものだったと記憶しています。またその時の担当者がジブリの鈴木敏夫プロデューサーなのは有名な話ですね。一方『AKIRA』は同じ年の12月に週刊ヤングマガジンで連載が始まりました。当時すでに大友克洋は名前が(漫画ファンの間で)知られており、大友前、大友後と後に言われるほど影響を与えた漫画家です。

 よく主人公が超能力を発動すると球体として発動し、周りがボコンとなる描写や、物が壊れる描写はほぼ大友克洋からと言っても過言ではないはずです。(「童夢」や短編『ファイヤー・ボール』など。)手塚治虫や石ノ森章太郎とともにその名を残す漫画家の一人ですがご本人とアニメとの関りは角川映画初のアニメーション映画『幻魔大戦』のキャラクターデザインからです。その頃アニメづくりの現場に触れそちらへ徐々にシフトしていったように思います。


 すぐれたアニメ作家は絵コンテの段階で物語が出来ている。これは『ルパン三世カリオストロの城』の絵コンテ集や『風の谷のナウシカ』のコンテ集を読んだときに思ったんですが、コマを割って絵をかく漫画家にその才能があれば確かに凄いモノが出来るというのはこの大友克洋が証明して見せたと思います。ただ全ての漫画家がそうではないでしょうが。そういった才能がアニメ業界を中心にメイルシュトロームよろしく渦が起こっていたのがこの80年代ではなかったかと。と、それはレスをつけて下さったフォロワーさんが指摘されていたんですが、面白いなと思ったのは原作付きでありながらこの2本はある意味監督のオリジナル作品であり、しかも連載開始時期は同じ年であるという事です。なんというシンクロニシティだと思いました。


 『風の谷のナウシカ』は後にジブリを産み出す元となり映画監督としての宮崎駿監督の言わば出世作となりましたし、『AKIRA』は音楽には芸能山城組や作画には当時のトップアニメーターたちが参加し海外評価も(原作が先行していたけれど)高く海外にも影響を与えました。当然同時期にあったヤマト、ガンダムらの功績や、後の日本のアニメーション映画として海外に認知度が高い『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』もありますが、80年代アニメ絶頂期のマイルストーンとしてこの2作は長く語り継がれるものではないかとそう感じました。昭和の終わりにアニメ界を席巻したこの2作品。もしまだ未見の方がいらっしゃったら是非1度ご覧いただきたいと思います。

※『AKIRA』 ネットフリックスにて配信中(20190204現在)

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