探究者たち|『アンナチュラル』感想【ネタバレ注意】|tonbori堂ドラマ語り-Web-tonbori堂アネックス

探究者たち|『アンナチュラル』感想【ネタバレ注意】|tonbori堂ドラマ語り

2018年3月20日火曜日

drama

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 先週最終回を迎えた『アンナチュラル』。このクールで全話を鑑賞したドラマでは、頭一つ抜け出ていた存在でした。(あくまでもtonbori堂が観ていたドラマの中でという話ですが)こういった法医学系ミステリー系のドラマは海外ドラマに秀作が多いのですが、『BONES』や『ボディ・オブ・プルーフ』にも劣らない上質なドラマになっていたと思います。

アンナチュラル/ロゴはイメージです
アンナチュラル/ロゴはイメージです



『アンナチュラル』【TBSオンデマンド】AmazonPrimeビデオ/©TBSスパークル/TBS

不自然死の原因を追究する者たち。

 理不尽な死から生還した少女がやがて法医学者となり理不尽な死を対峙する。主人公の設定もなんですが、同じく理不尽な死に対面して絶望の淵に生きる法医学者がいてというキャラの配置や、主人公の同僚で友達じゃないけど同僚ですと言いきれるバディ感のある2人や、モラトリアムで目標の無い若者、人当たりはいいけれど実は信念が一本筋の通った男など、ほんとうに魅力的な愛すべきキャラクターたち。


 そしてプロフェッショナルな仕事ぶりと知識をしっかりと仕事に結びつけてフル回転で謎を解く快感。かなり海外ドラマを意識した仕事ぶりには正直感嘆しました。でも海外ドラマっぽいのではなく、そこはちゃんと日本での問題意識や日本ならでは作品としてもちゃんと成立する辺り、脚本の野木亜希子の仕事ぶりは本当に際立っていると言ってもいいと思います。実は物凄く話題になった『逃げるは恥だが役に立つ』は一切観てないんですけれど、『重版出来!』や『空飛ぶ広報室』は全話を楽しみに鑑賞していて、面白いホンを書く方だなとは思っていたんだけれども、今回はオリジナル。その上完全な犯罪サスペンスではないけれど死を扱うドラマだしどうだろうかと思っていましたが…なんのなんの。本当に素晴らしいストーリーをありがとうございますという感じです。

ポイントは3つ。

 tonbori堂がこのドラマ凄いなと思ったポイントは以下の3つです。ストーリー、キャラクター、プロフェッショナルの矜持。それぞれについて少し書いてみたいと思います。

ストーリー

 こういったストーリー、だいたい筋が読めるように作ってあるのが定石なんですが、いきなり決めつけないで手がかりを少しずつ、散りばめて、その上で気付くというスタイル。これは本当にスッキリします。ああ、そうだったのかと。特にミステリ、サスペンス系をよく観る人ほどはまりそうな落とし穴を設けておいて、あ、そこに行くのか!と感心させられる事もしばしば。最終回では万事休すというところで、こういう時、海外の法医学系ミステリドラマならっていうのを途中で思ったんですが、そこを鮮やかに突いてくる点はまさに計算された話運びでした。


 また、まるで時代を見通したかのようなストーリー。殆どの脚本の脱稿は去年の話でそれを想起させる事件の前だったというのも驚きですが、シンクロニシティなのかもしれませんが、日本の不自然な死に対しての検死案件の少なさは『チーム・バチスタの栄光』でも有名な海堂尊氏も指摘していましたが(そのためのレントゲン撮影によるAIを推進してしました。このドラマでも出てきましたがあくまでも補助的な役割で最終的には検死も含めた複合的な検死を提案しています。)そう言った問題意識もこのドラマのストーリーの根底にながれていたと思います。

キャラクター造詣

 主人公のミコトは一家心中の生き残りで、養母である三澄夏代が引き取ったという生い立ちを背負っています。そのため死の原因を探るという仕事を選んだという背景。絶望するより生きることを選ぶ強さ。それが普段は普通のおしゃべりが好きで食べる事が好きな女性なんですが、この食べる事というのも実は、『絶望する暇があったらご飯を食べる」という生への渇望というか絶望する暇なんかないというある種の強迫観念、鎧のようなものも感じさせるのです。当然それが強さにも反映される複雑さを持つただ単にクレバーなだけの出来る女性ではないという部分が上手いなと感心させられます。


 仕事上の相棒とも言うべき東海林はそこまで複雑ではないもののミコトと使付離れずの距離を保っている関係性がまた良かった。こういうお仕事系だといろいろあるものだけど、ピンチな時はミコトに真っ先に電話する当りその信頼関係が凄く垣間見えて、その第6回は好きなエピソードですね。対する中堂は、恋人が変死体で発見され、自ら検死を担当し心の闇を抱えた法医学者です。定型なキャラクターではありますが、彼が闇落ちするかどうかという部分をクライマックスまで引っ張ったのは、これはストーリー展開にも関わりますが、盛り上げに大いに貢献したかなと。そして狂言回し的存在の六郎。でもただのそういったキャラクターではなく彼もいろいろと鬱屈したものを抱えた存在でした。医者の家に生まれ、そこから落ちこぼれ3男ということで期待もされず目的を見失っていた青年です。その彼がミコトの死を調べるという事でひたむきな生を生きようする様を見て目的を見出すというのもまた上手い設定です。


 実はミコトの過去は凄絶で、そして悩みもするし弱音も吐くけど基本的には完成されたブれない人なのです。だからこそ変化していく人を入れたというのは非常に面白い。ストーリーラインが豊かになります。特に2話の2人が冷蔵トラックの荷台に閉じ込められて池に落とされたシーンでのやりとりはこの2人の後の関係性をはっきりを著したシーンだと思います。

プロフェッショナルの流儀/UDI(不自然死究明研究所)の面々

 そして三つめは、このUDIラボの人たちがプロであるという事。だからこそ狂言回しの六郎がそれに感嘆するという部分が生きてくるんですが、先ほどの2話、落とされた池の水の水質で場所を特定や、溺死した女性の死因を探るためプランクトンを探すために身近で手に入るものでキットを作るなど、プロフェッショナルな描写はお仕事ドラマとしては観ていて気持ちのいいものです。


 やはり仕事をメインに据えている以上その描写が拙いと面白みが半減してしまいます。またそれを支える神倉所長がいいのです。人当たりが良くて、ちょっと押しに弱そうな所長ですが、心の奥底では燃える魂をもっている人物で、キャラクター造詣にも関わる事なんですが長年、官僚として現場での忸怩たる思いを抱えそれを飲み込みがんばるおじさん像は世のおじさんをどれだけ勇気づけたか(ちょっと言い過ぎ?)またUDIのトップとしての矜持は、今の政治を揺るがしている忖度問題にもリンクしてきました。ここでも時代とシンクロニシティを感じさせるとは、やはり真摯につくるとつながってくるんでしょうね。

シーズン1ではもったいない

 あえてシーズン1と書かせてもらいましたが、本来なら20話くらいで半年ほどやって欲しいドラマでしたね。ただ一人の脚本家が手掛けた事による完成度の高さもあるとは思うんですが、魅力的なキャラクターたちや時代に即したストーリーテリングがシーズン1では本当にもったいない。シーズンを重ねていけるポテンシャルを感じる作品でした。出来れば…映画化、劇場版ってのは無しにして欲しい。劇場版っていうのは確かにドラマシリーズを観ていた人にとっては大きなスクリーンで好きなキャラクターたちの活躍を観れるという楽しみがありますが、大きなお祭りとなって終わってしまう事も。


 懐かしい話ですが『踊る大捜査線』はそういったシリーズを続けていけるポテンシャルがありながら結局映画に進出。確かに大成功は収めたけれどドラマとして戻ってくることはありませんでした。(スピンオフはありましたけどね)それでは非常にもったいないキャラクターの成長や新キャラクターの登場などを上手くシリーズの滋味につなげることができない。『相棒』のようにベースはドラマシリーズというのを続けて欲しい。これは個人的希望ですが、そういうシーズンを続けて欲しい作品でした。シーズン2心から待っています。

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