ネットフリックス(Netflix)は映画、ドラマを定額プランで配信しているサービスとして知られています。同様なサービスはdTVやGYAO!などありますが、アメリカでは多くのユーザーから支持され、コンテンツホルダーの作品を配信するだけでなく、ネットフリックスオリジナルのドラマシリーズや映画をも製作。潤沢な予算を与えてクリエイターにすべてを任して高いクオリティの作品を配信しているのが特徴です。但し、人気が出なければドラマシリーズは打ち切りにしたりとかフリーハンドを与えられる分厳しいところもあるようですが。
ネットフリックスオリジナル
そしてネットフリックスはオリジナルの映画製作にまで乗り出しました。これについては十分な予算が使えるとあっていろんなクリエイターが興味を示していますが、『ダークナイト』のクリストファー・ノーランのように映画館(スクリーン)の大きな画面で受ける映像体験を大事にするクリエイターは否定的な見解を述べています。どちらにしてもネットフリックスオリジナルの映画は今後も製作されオリジナルのドラマシリーズとともにネットフリックスのオリジナルコンテンツとして今後も相当数が配信されるのですが今回、tonbori堂が鑑賞した『スペクトル』もネットフリックスオリジナルのSF戦争映画です。去年の12月に配信され、Twitterで噂を聞いたのが3月頃、やっとの鑑賞となりました。監督はニック・マチュー。主演はジェームズ・バッジ・テール。その内容と言えば劇場公開でもまったくおかしくないおおがかりな撮影な凝ったVFXなど一般公開しても遜色ない作品でした。
不可視の敵を撃て/ストーリー
東欧のモルドバで任務中であった米軍の特殊部隊のディヴィス軍曹は本隊をはぐれてしまったが先に目標地点へ向かいおびただしい死体を発見する。異様な雰囲気につつまれた建物を進むディヴィスはハイパースペクトルイメージングゴーグル(ビデオカム付)を装着しさらに進むと奥まった部屋で肉眼ではとらえられない光のもやのようなものを目撃する。その光が自分に向かってきた瞬間、ディヴィスは絶命した。
国防高等研究計画局で高周波パルスエネルギーなどの研究にあたっていたクラインはイメージングゴーグルの開発者としてモルドバの派遣軍司令官、オーランド大将の要請で現地に向かい、その不可解な不可視の物体の説明を受ける。肉眼では捉えられないが兵士が装着するハイパースペクトルイメージングに捉えられた靄のような人の形をした何かを解明することがクラインに要求される。
CIAの担当官であるフランは現地の人々には「アラタレ」と呼ばれ戦争で死んだ人間の亡霊や悪夢に出てくる魔物の類といわれているとクラインに説明するが、事態は深刻で反乱軍により市内は混乱しており、CIA側は前政権が開発していたクローキング・デバイスのような光学迷彩ではないかと睨んでいたとクラインに告げる。情報が少ない中、その判断は早計にすぎるとクラインはハイパースペクトルイメージング装置を搭載した高性能ビデオカムを装甲車に搭載し、市街地へ偵察活動に同行し情報を収集する事に。
先行して反乱軍の拠点に向かっていた部隊がビルに釘付けになり「幽霊(アラタレ)」を見たとの報告がはいり通信が途絶えたためセッションズ少佐率いる部隊が出動、クライン、フランもアラタレの正体を掴むべく同行する事に。ビルに突入した特殊部隊員が見たのは反乱軍兵士と先行していた特殊部隊員の死骸だった。そんな中、一人浴槽に隠れて生き残った兵士を発見するが残りは全員アラタレにやられたという。そこにアラタレが出現。肉眼では確認できないゴーグルでしか確認できないその敵に向かって発砲、しかしその人のような靄は弾丸をすり抜けダメージを与えることが出来ない。
そして一人、また一人と兵士がやられていく中生き残った部隊員は装甲車に逃げ込みなんとかその場を脱出するが反乱軍が仕掛けた地雷により横転、生存者たちはなんとか近くの廃工場に逃げ込む。廃工場には何者かが播いた鉄の粉があり、どうやらアラタレはそれを突破できないようだった。鉄の粉を播いたのは廃工場にいた生存者の幼い姉弟。姉弟の父がそれを播いたそうだったが彼はその最中に落命しており、何故アラタレたちがそれを突破できないのかは分からずしまいだった。
決死の脱出
セッションズはこのままここで籠城しても全滅するだけだと回収地点の広場に向かう事を決めた。反対する隊員たちにクラインは、突破する妙案を思いつく。鉄分がアラタレの足止めになるならグレネード(榴弾)、手榴弾に鉄分を混ぜ倒せないにしても足止めに有効な即席兵器と、電池切れで使えないゴーグルの代わりに彼らを映し出すサーチライトをビデオカムを改造して作る事に。戦車部隊と回収のためのヘリ部隊が回収地点に向かうと連絡のある中、アラタレたちが続々と集まってきた。鉄分の影響を受けない電柱や電線ぞいにジャンプして工場に侵入してくるつもりなのは明白。こちらにくるのは時間の問題であったため、即時に行動を開始することに。
数多くのアラタレが向かってくるが即席ながらも鉄分は十分に彼らの足を止めるのに有効であったが、多勢に無勢、徐々に押されていく兵士たち。それでもなんとか広場に到着したが周りのビルにはさらに多くのアラタレが。ビデオカムのバッテリーも上がり万事休すかと思われたがそこに援軍が到着した。しかしその援軍もアラタレたちの襲撃を止めることが出来ない。クラインたちの命も風前の灯、彼らは危機を脱することが出来るだろうか?そしてアラタレとはいったいなんだろうか?その正体は。倒すことは出来るのだろうか?
SFミリタリーアクション
このジャンルで思いつくのは『世界侵略ロサンゼルス決戦』がありますね。未知の敵に何者かも分からず一方的に攻撃される人類。そして次第に明らかになる敵の正体。そして反撃というフォーマット。続編がつくられた『インディペンデンス・デイ』もそうですが、こちらは『ブラックホーク・ダウン』や『プライベート・ライアン』に追い迫る敵がゲリラ兵やナチスドイツ軍ではなく未知の生きものかどうかもはっきりしないいわば幽霊(アラタレ)というような存在。しかも触れたとたんに即絶命。皮膚は凍傷やけどのような状況になり体内が何故か被曝しているという。この設定ちょっと『怪奇大作戦』の「死神の子守歌」のスペクトルG線を思い出しました。いや実際にはこの光る亡霊(といってもハイパースペクトルイメージングでそう見えているだけなんですが)の正体はさらに恐ろしいものだったんですが…
この敵の設定には『ボーズ=アインシュタイン凝縮』という物理法則が関係しており、世にも恐ろしいことがその裏にあったのですが…。そういう設定の妙と戦争映画の少数での乾坤一擲な作戦や序盤のシーンなど、今作が初映画監督のCM出身のニック・マチューのスタイリッシュなアクションやライティングは一般のSF映画やミリタリーアクションにも負けていない迫力がありました。驚くことにこのボーズ凝縮、実際にちゃんとある物理事象を指す言葉でした。どう関係しているのかは文系のtonbori堂にはさっぱり?でしたが(ヲイ!)
ソース|ボース=アインシュタイン凝縮 - Wikipedia
そしてクライマックスで思い出したのがクラインが基地にある材料で即席に対抗する兵器やプロテクター、ゴーグルを作り上げるんですがそれが昔バンダイで企画されたトイ、プラモデルとイラスト、小説のメディアミックス企画、『スパイラルゾーン』を思い起こさせるデザインだったことです。それで全ての元凶を断ちに敵の本拠地に行くわけなんですが、そこまでの道程が戦闘機を使わないエースコンバット味がある感じで、FPSをやっている人にはなじみのある画なんじゃないでしょうか。これはなかなかよく出来ているなと思いました。
キャスト&スタッフ
主演はジェームズ・バッジ・デール。『アイアンマン3』でエクストリミスを投与された兵士でアイアンパトリオットを奪いエアフォース1を襲撃したヴィランを演じたり、tonbori堂がこの前ご紹介した『13時間』でもリビアのCIA施設の民間軍事企業の護衛役を演じていました。今回は科学者役でしたが、既に生産中止された部品から必要な元素を取り出すためにジャンクヤードからそれを探してくるようなアウトドア派な科学者というらしい役で、いわゆる足手まといではなく物語を引っ張っていく主人公を好演していました。
By Josh Jensen - originally posted to Flickr as James Badge Dale, CC 表示-継承 2.0, Link |
隊を率いて死地から脱出、最終決戦でも兵を率いて敵を引き付けるセッションズには、バッジ・デールとは『13時間』で共演。最近は特殊部隊兵士といえばこの人、マックス・マーティーニ。この人出てきたら、味方にしろ敵にしろとりあえず銃を撃つのが仕事の人だなっていうのがすぐに分かります(笑)、ちょっとショーン・ビーンに似てる気もするので元SASの兄弟兵士でステイサムと戦ってほしいですね(笑)
By U.S. Army photo by Staff Sgt. Melinda M. Johnson - http://www.defenseimagery.mil/imagery.html#guid=10d72b3848d9fe371111bdaa43522c1a308fdbd3, パブリック・ドメイン, Link |
CIAのフランにはエミリー・モーティマー。正直よく知らなかった女優さんなんですけれど東欧の言葉がしゃべれるようで。CIAの担当官が女性っていうのも『ゼロ・ダーク・サーティ』からこっち割とデフォルトになってる感じですよね。
By David Shankbone - 投稿者自身による作品, CC 表示 3.0, Link |
モルドバの米派遣軍の司令官オーランド大将にはブルース・グリーンウッド。様々な映画の脇を固めてる俳優さんですが、最近だと『スタートレック』新シリーズ映画のクリストファー・パイク艦長が記憶に新しいところです。他にロバート・ロドリゲスの『プレデターズ』で長ドスをつかうヤクザ、ハンゾーを演じたルイ・オザワも特殊部隊兵士役で出演していました。
監督はニック・マチュー。先にも書いた通りCMディレクター出身しか情報がネットに無かったんですが、ワーナーが計画中の『超時空要塞マクロス』のアメリカローカライズ作品(マクロスの他にモスピーダ、サザンクロスを編集して1本の作品としたもの)ロボテックの実写版監督に決まったとかなんとか。しかし情報が古かったため現在はどうなっているかは分かりませんでした。製作会社はゴジラ、キングコングなどモスンター・バースを展開、『パシフィック・リム』も作っているレジェンダリー・ピクチャーズです。
ネットフリックスの本気
キャストはドラマならかなりのいいキャストを揃えたねっていう感じのキャスティングですがお金がかかっているという感じではありません。ですがストーリー、そして撮影にはあきらかにお金がかかっているという感じがあります。やらしい話ですが、普通の映画よりも、しっかりつくってあるといっても過言ではありません。当然中盤のシーンやお金をかけずにというところもあるし、チープな部分と掛ける部分の配分もさすがレジェンダリーが仕切っているなと思わせる作りでVFX、CGなどもしっかりとしているという印象でした。
ちなみに米国のレーティングでPG-13であり、13歳以下のお子様には視聴に注意が必要となっています。これはショッキングなシーンがあるからだろうと思われます。幽霊に襲われて血が出るというのは無いのですが若干恐ろし気なシーンがあるので気をつけて欲しいという感じでしょうか。『エイリアン:コヴェナント』や『プロメテウス』が大丈夫な人ならほぼ問題なしです。戦争映画やSFアクションが好きな人、または両方好きな人にはおすすめできる作品でした。こういった作品だけじゃなくちゃんとしたシナリオでこのレベル(製作規模、そして体制)で作り続けられるとこれは確かに映画の方も安穏としてはいられないなと感じます。
そしてネットフリックスはドラマでさえもこのレベルで作りだしたらそれこそ映画が危ないとなる人もいるでしょうけど、多分棲み分けは出来るのではないかなとtonbori堂は思っています。何故なら音響、スクリーンの大きさは家で観る画面がいくら50型だのさらに畳一畳分とかいっても限界があるわけですから。ただクオリティはますます見る目が厳しくなるので両者切磋琢磨していって面白い作品を出していってほしいなと思います。
(リンク)ネットフリックス|Netflix
0 件のコメント:
コメントを投稿
お読みいただきありがとうございました。ご意見、ご感想などございましたら、コメントをよろしくお願いいたします。【なおコメント出来る方をGoogleアカウントをお持ちの方に現在限定させて頂いております。】