Hidden Figures(隠された人々)、映画『ドリーム』の原題は「Hidden Figures」というタイトルでした。同名の原作小説の映画化です。実はこの映画、アメリカ本国ではアカデミー賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』よりも大ヒットをたたき出したという事がよく喧伝されていますが、実は『ラ・ラ・ランド』をtonbori堂は未見のため比較できません。でもそういう比較の出来る映画ではないのです。
NASA(アメリカ航空宇宙局)を支えた人たち
実際のところこの物語は主人公をはじめ実在の人物が多く登場していますが、2時間の映画に収めるために『事実に基づいた』物語となっています。フィクションです。ですが大筋彼女たちのした仕事というのは映画に描かれたような事だったのです。
米ソ宇宙開発競争始まる!
1957年、東西緊張の高まる中、ソ連はアメリカに先駆けてスプートニクを打ち上げました。これが世にいう「スプートニク・ショック」です。これによってアメリカはソ連に一歩リードを許すことになり、東西の緊張も高まっている最中、熱核戦争による先制攻撃の恐怖が宇宙開発競争に拍車をかけました。そして1961年バージニア州NASAラングレー研究所から話がはじまります。
主人公である、キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)、メアリー(ジャネール・モネイ)、ドロシー(オクタヴィア・スペンサー)はNASAに勤務している女性職員で仕事は計算係でした。本館である東グループから離れた西グループ棟で仕事に勤しむ日々ですが、重要な仕事を任されているとは言い難い状況でした。キャサリンはヴァージニア大学院を修めた初の黒人女性で数学の天才でした。メアリーは突入カプセルの担当であるリージンスキーに引き抜かれ彼からエンジニアになる事を勧められますが、黒人で女性である事から積極的になれませんでした。ドロシーは西グループの黒人女性計算係の責任者的立場にいるものの、昇任の希望は、先例がないということで断られ続けていました。
IBMのメインフレームの設置も遅れているNASAにソ連がユーリー・ガガーリンの有人宇宙飛行成功の一報が入ります。後がなくなったNASAは至急に人を宇宙に送り込むことになりました。た、宇宙特別研究本部(スペース・タスク・グループ)の本部長ハリソンは優秀な計算係を欲し、西グループで一番の計算係キャサリンが引き抜かれる事に。しかし宇宙特別研究本部は白人のしかもハリソンの秘書ルース以外は男性ばかりの部署でした。
しかし時は待ってくれません。主任のスタッフォードの協力が得られなくても知恵をつかって検算や計算式を駆使するキャサリンに一目を置くハリソン。それはやがて周りの人々の意識をもかえていくことになるのです。そしていよいよマーキューリー7の一人、ジョン・グレンを乗せた有人軌道周回宇宙船を搭載したアトラスロケットの発射がちかづいてくるのですが…。
人間賛歌
日々の暮らしも大事にしながら偏見や差別と各々が闘いながらも仕事を全うしていく様を活写したいわゆる小品な映画です。ロケットの打ち上げシーンもありますが、主眼はそこには無く、そういう最先端の職場に能力は有りながらも数々の障害や差別、偏見があって思うように仕事が出来ず、時にはくさることもあるけれど、今している仕事に誇りをもった女性たちを描いている事がヒットにつながったのだろうと思います。
黒人と公民権運動で言えば最近でも幾つか作品が撮られていますが、やはりオバマ政権の影響とこれからはトランプ政権の影響でますます増えそうな気がしますが、この作品はそういった側面を持ちつつも深刻にならずに、あくまで未来を考えるという、その一点につらぬかれた映画でした。
数字は何時でも正確、数式ではなく数字のみを見て考えるというのは、周りの余分なものを見てあれこれ考えるのではなく純粋にその要素だけを見つめて未来に想いを馳せようという、そういうことなんじゃないでしょうか。tonbori堂はそう感じました。象徴的なのが、IBMのメインフレームが稼働する事によりキャサリンの仕事が無くなったということで終盤で彼女が宇宙特別研究本部を外れるところです。ですが発射シークエンスになり、ケープ・カナベラルでの検算結果が違う事で急きょキャサリンが呼び戻される事になりました。これは機械に任せてはいけないという話ではなく人の力も重要という部分だと思います。人のポテンシャルっていうのはひらめきや物事を進める力があるという事を言いたかったのかなと。でなければドロシーはこの後機械(プログラム)の時代が来る考え計算係の仕事が無くならないようにプログラミングを学ぶということはしなかったでしょう。ここでも優れた機械があっても使うのは人という部分が出てきています。
黒人と白人
物語の舞台となった1960年代はバスには黒人の席は分けられていたし、トイレも、役所の窓口も、ウオータークーラーまでもが別々でした。それをオブラートに包まず、メアリーの夫は過激な闘争の論理をもっていることもしっかり描写しています。だけどそこに軸足を持ちつつ、深刻に描かず、されどしっかりとそういう事が普通にあったということを伝える部分は凄く誠実に見えました。この映画はあくまでもNASAの黄金期を支えた彼女たちの物語であり公民権運動の映画ではないからです。もちろん関係ないとは言いません。時代と彼女たちもまた無縁でなかったのですから、その描き方の間合いが誠実だなと思いました。
キャスト
キャサリン・G・ジョンソン/タラジ・P・ヘンソン
キャサリン役を演じたタラジ・P・ヘンソンは『Empire 成功の代償』の主人公の妻、芸能界のゴッドマザーであるクッキーを好演していますが、tonbori堂は『パーソンオブインタレスト』で最初はスーツの男であるリースを追うジョス・カーター刑事がやはり印象深いです。が、もっと前にジョー・カーナハン監督『スモーキン・エース』でアリシア・キーズ演じる殺し屋サイクスの相棒で向かいのビルからの狙撃を担当したワッターズ役で彼女の名前を覚えました。今回、ちょっと夢見がちなところもあるけど天才数学者であり3人の娘の母である役を好演しています。
ドロシー・ヴォーン/オクタヴィア・スペンサー
ドロシーを演じたオクタヴィア・スペンサー、下積みからキャリアを重ねてきた女優さんで『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』でメイドのミニー役で一躍脚光を浴びたそうです。残念ながらtonbori堂はその作品を未見なのですが、この映画でもチャーミングな存在感を発揮し、タフで勉強家、そしてリーダーなドロシーを好演しています。上司役であるキルスティン・ダンストとのやり取りは必見です。
メアリー・ジャクソン/ジャネール・モネイ
3人の中で一番気が強いけれど現実を見て若干厭世観をもっているメアリーを演じているのがジャネール・モネイです。彼女はシンガーなんだそうですが最近ではアカデミー作品賞に輝いた『ムーンライト』に同じくこの映画にも出演しているマハーシャラ・アリのガールフレンド役で出演してこれが2作目。才能あふれる才人っていうのがメアリーと被ります。
その他にもケヴィン・コスナー、キルスティン・ダンスト、マハーシャラ・アリ、グレン・パウエルなどが脇を固めています。
スタッフ
マーゴット・リー・シェタリーの原作を元にケープカナベラルでエンジニアとして働いた祖父母を持ち自身もNASAでインターン経験のあるアリソン・シュローダーが脚本を書き、広告CM界出身で『ヴィンセントが教えてくれたこと』のセオドア・メルフィが監督。あの『スパイダーマン:ホームカミング』の監督に決まっていたのにそれを辞退してこの作品に取り組みました。音楽にはあのヒットメーカー、ファレル・ウィリアムスが参加。ハンス・ジマーも加わったこのサントラは非常に魅力的でまたまた欲しくなるサントラが増えてしまいました。
道を切り拓いた人たち。
素晴らしいキャストにスタッフでこの作品は公開され埋もれていた人たちに脚光がまた当たりました。彼女たちの仕事ぶりは一部では既に知られていたものの多くの人に知られていたわけではありません。ですが映画になったことで多くの人の目に留まるようになったのです。残念ながらドロシーとメアリーは既に故人ですがキャサリンは存命で一昨年オバマ大統領から叙勲を受けたと聞いています。ヘンソンも彼女に実際に会ってリサーチしたそうです。あの困難な時代にも未来を見据えていた人たちがいたという事は大きな希望になると思います。本当に多くの人に観て欲しい作品です。
※ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS) | マーゴット・リー・シェタリー, 山北めぐみ | 英米の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon(映画の元になったエピソード/原案となった本です。)
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