南海の大決闘。もしくは「闇の奥」へ|『キングコング:髑髏島の巨神』|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

南海の大決闘。もしくは「闇の奥」へ|『キングコング:髑髏島の巨神』|感想【ネタバレ注意!】

2017年4月21日金曜日

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 『キングコング:髑髏島の巨神』、同じくレジェンダリー製作のハリウッド版ゴジラ、通称レジェゴジまたはギャレゴジの登場する世界と同一として『モンスターヴァース』と名付けられている連作の第二弾です。やっと観に行けたので、気になる所や個人的に気になった部分(主に武器類)の解説をしつつ感想をつづっていきたいと思います。

映画『キングコング:髑髏島の巨神』日本版予告編【HD】2017年3月25日公開/ワーナーブラザーズ公式/YouTubeより


巨神の棲む島/STORY

 1944年、陸軍航空隊のマーロウ中尉は南太平洋のある海域で日本の戦闘機と空戦中、ある島に不時着しました。同じく不時着したゼロ戦パイロット、ガンペイ(これグンペイ、軍兵じゃないかなあって思うんですが)と対峙、お互いに譲らず崖でガンペイと戦い、もう少しで殺される瞬間、眼前に巨大な類人猿が!時は流れて、1973年、ベトナム戦争も末期。この時代は宇宙開発競争時代でもあり、アメリカはランドサットを投入。地球表面の探査を開始していました。そこで南太平洋で発見されたある島は、伝説と言われていた未知の島でした。未確認巨大陸生生命体を研究する機関モナークに所属するランダは上院議員を動かして許可を取り島の調査に乗り出します。


 この未知の島では何が起こるか不明なため、ベトナムから撤退するはずだったパッカード大佐率いるヘリコプター部隊を護衛につけ、さらに未知の場所へのガイドとして元S.A.S(英国特殊空挺部隊)のコンラッドを雇い入れ、調査を聞きつけたカメラマンのウィーバーとともに謎の島スカルアイランド(髑髏島)に向かう事になったのですが、島は調査隊の想像を絶する魔境だったのです…。というあらすじです。

物語の舞台は1973年

 ベトナム戦争終結のパリ協定が1月に結ばれ、アメリカ軍は3月に完全撤退しました。『キングコング:髑髏島の巨神』はその頃のお話です。長く続くベトナム戦争でアメリカは疲弊し結局負けに等しい撤退を余儀なくされました。もっともベトナム戦争をアメリカでは「戦争」とは認めていないという話もあります。この戦争を題材にした映画は数多く、自らの従軍経験に基づきオリバー・ストーン監督が撮った『プラトーン』、フランシス・フォード・コッポラが撮った『地獄の黙示録』が有名です。

 この『キングコング:髑髏島の巨神』のイメージソースにこの『地獄の黙示録』があったことはまず間違いありません。

 これは『地獄の黙示録』のサントラジャケットですが、上の『キングコング:髑髏島の巨神』のサントラと感じが似ていると思いませんか?実際、監督もインタビューでこれは「モンスターの出てくるベトナム戦争にしたい」という話をしています。

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 この記事でも時代を1970年代初頭に設定したのはまだ科学と神話の境目がはっきりしていないなど冒険とロマンが残されていた時代でもありながら現代にも通じる問題点が山積していた時代ということで選んだと述べています。宇宙開発競争、冷戦などもあり、世間はUFO、ネス湖のネッシー、雪男イエティなどUMA騒ぎもたびたびありました。日本でも屈斜路湖のクッシー、池田湖のイッシー、ツチノコブームなんてのも大阪万博の前後にありましたね。

闇の奥へ

 サミュエル・L・ジャクソンが演じるパッカードは、『地獄の黙示録』に出てくるキルゴア中佐のように戦争を愛してやまない男です。所謂ウォーモンガー、戦争狂です。それ故に味方にとっては頼もしく、カリスマ性のある指揮官で、スカルアイランドに局所的な低気圧が発生し船が近づくのは困難で調査の中止もやむを得ない状況でも、そこへ飛ぶのが任務なら部隊を指揮して突入するような人物です。任務を前にして怯むことは恥だと考えている誇り高き戦争狂。それがパッカードです。コンラッドも、自らの戦争ではないのに軍を退役してもなお、ジャングルに居続ける、いわばスリルジャンキーです。冷静沈着、かつリスクに対する評価も的確なのに、このスカルアイランドへの調査にもきな臭いものを感じつつ、5倍の報酬をふっかけ尚且つ生きて帰れればと嘯く男なのです。そして調査を指揮するランダも、スカルアイランドへの執念は尋常ではないものがあります。これは物語が進んだところで明かされますが、彼が巨大生物を研究するモナーク機関へ入ったのにも理由があり、だからこその執着があるのです。

 この3人、 それぞれに闇を抱えているのですが特にランダとパッカードはネジがゆるんだ人物として一行を魔境の奥へいざないます。


 その縁に立っているのが コンラッドなのかなと観ているときに思いました。彼と彼の一行が最初に島に不時着して助けが来ると待っていたマーロウと会うのもそういうことなのかもしれません。というのも『地獄の黙示録』は『ビッグ・ウェンズデー』の監督・脚本のジョン・ミリアスのシナリオを基にしていますが、途中から監督のコッポラが作品の撮影中に現場の混乱や出演者の一人、当時大御所でもあったマーロン・ブランドの我儘などでシナリオを一部変更、セリフの一部をジョセフ・コンラッドの『闇の奥』からの引用をしているのです。『闇の奥』の作者はコンラッド。そして主人公の名前はマーロウ。そこも『地獄の黙示録』、さらに『闇の奥』へと引用している感じです。

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混乱がなくあっさりとした冒険譚

 話はずれますが『地獄の黙示録』は作品としてはいろいろ破たんしており、理由はいろいろ挙げられますが、そのため現場は混乱を極めたそうです。ミリアスも自身の脚本に関してはいろいろ思うところがあったようですが、大量な物量がフィリピンに持ち込まれ前半のクライマックスである「ワルキューレの騎行」のヘリのベトナムの漁村攻撃シーンは撮影できたもののスケジュールは大幅に遅れ数々のトラブルに見舞われました。


 そんな中で『闇の奥』が引用される事になったのですが、それが作品に結果的に陰影を付けることになり前半のベトナム戦争を切り取ったかのような(実際の戦闘とは違っていますが)シーンと後半の未開地への遡行という対比からこれは「深い」映画ではないかと思われたようです。実際、私も映画館で1度、TVで放送された時に2度観ましたが、やっぱりこれは難解だなあと思った記憶があります。その内幕が分かったのは撮影記録本『コッポラ アポリカプス・ナウの内幕』という本とそのずっと後に読んだ町山さんの『〈映画の見方〉が分かる本』です。


 『キングコング:髑髏島の巨神』にはそういう事はありません。分かりやすく手に汗握る冒険活劇になっています。どちらかと言うと役者の力に頼っているような印象を受けます。それはパッカード大佐にしろコンラッドにしろ、「闇の奥」へ誘うランダやマーロウ、ウィーバーを演じる俳優さんたちがシナリオから読み取ったものを膨らませているのだと思います。なのでこれは子供向けの冒険譚(ちょっと中二病はいってます)という印象を受けました。そこにはカオスがなくて、ひどくあっさりとした印象を受けるのです。これだけ複雑な人間模様があるのに。コングとスカル・クローラーの戦闘シーンや島にいる巨大生物のシーンもそれこそジュラシックパークが放棄され野生化した恐竜がいるのでハンターチームと調査隊がっていう2みたいなもので、ああそうですかという。実は同じ理由でジュラシックワールドもあんまりときめきが無いのですが、クリス・プラットをはじめとするキャストの力でアレも嫌いではないのですが、ああそうですかと。


 もちろん単純な冒険譚でも、行って帰ってくるというのは、人生にもなぞらえることも多く、起伏に富めば富むほど、陰影が深まれば深まるほど味わいが出てきますが、今回はこちらの期待がマックスになっていたのに、あれそこまで行ってない?と思ったのも単純な冒険譚だなと断じてしまった理由かもしれません。ただこうやって感想を反芻すると、そういう要素も含んでいるのだなというのが分かりました。怪獣映画の怪獣バトルも大好物だし、怪獣が大暴れして人類では太刀打ちできない強大な力で人間が右往左往というのも好きなのですが、大きな力が産みだす混乱というものがちょっとあっさりしていたかなと、どうも「シンゴジラ」脳にまだ頭がマインドセットされているようで、自らがまだ「闇の奥」から戻ってこずに「恐怖!恐怖だ!」といってるだけなのかもしれません。


 今回の『キングコング:髑髏島の巨神』はあくまでもコング紹介編という事ですが、まだ成長期にあるコングがやがてはレジェゴジと対決するのは決定済。その前にレジェゴジは幾つかのモンスターと対決することになります。果たしてキング・オブ・モンスターはどちらになるのか?という楽しみはありますが、コング単独作品で再度、これは凄いなと思わせる1本を切望します。

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 シンゴジラが参戦したらどうなるんでしょうね?実現性は?ですがあったら面白いな。

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