フェアリイの空には道がかかっている。ブラッディ・ロードが、2つの太陽が空に輝く異世界。人間と異星体ジャムとの戦場、不可侵であり不可知な、そこに在る戦場。天翔ける妖精、シルフィード、メイヴ。妖精たちがフェアリイの空に舞いジャムと闘う。
「戦闘妖精・雪風(改)」と「グッドラック 戦闘妖精・雪風」はそんな物語だ。しかも異星体とのコミュニケーションは出来るのか?いやそもそも人に全く違う生命体、いや知性を想像できるのか?というメタなテーマも含まれている。
『戦闘妖精・雪風』/現在の版になる前の横山宏さんのカバーイラストの版/ハヤカワ文庫/tonbori堂蔵書 |
妖精空間フェアリィ
フェアリィに人間が赴くことになったのは、物語の始まる30年前ある日南極に超空間通路が開かれそこからジャムが侵攻してきたからとされている。突然の攻撃を受けた人類側はジャムを追撃、そして南極の超空間通路を発見しその先にある森におおわれた謎の惑星フェアリィを発見した。通路の周囲に6つ基地を築きその中でも最大の威容を誇るのがFAF(フェアリィ空軍)司令部も設置されているフェアリィ基地だ。そこに所属する特殊戦第五飛行戦隊に所属する特別な13機のスーパーシルフフィードとも呼ばれるフェアリイ空軍の最強戦闘機。その5番機機体ネーム「雪風」と搭乗員の深井零、そして上司でフライトディレクターのジェイムズ・ブッカー。特殊戦司令官クーリィ准将。そして彼らにかかわる人たちの物語だ。
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ブーメラン戦隊
特殊戦第5飛行戦隊は別名『ブーメラン戦隊』と呼ばれている。彼らは作戦行動をとる各飛行隊についていき戦闘空域を記録するのが役目だ。そして戦闘データを持ち帰る事が至上命令である。「必ず生きて帰れ」そのためには味方の援護もしない。FAFでも最強のスーパーシルフの強力な武装は基地に帰還するためだけに火を噴く。得体のしれない侵略者、ジャムのデータは彼らの操る戦闘機(それが戦闘機かどうかは定かではない、地球人の尺度でVTOL戦闘機や、爆撃機、高速ミサイルと分類しているだけだ。)でしか蓄積されない。そのため戦闘データはどのような情報よりも貴重だ。だから特殊戦第5飛行戦隊は戦隊であるのにも関わらず軍団級の区画を持っている。
フェアリイ空軍
謎の異星体ジャムと戦う為に作られた軍隊フェアリイ空軍(FAF)。FAFの軍人達はどこかしら歪だ。最下級の階級が仕官である、少尉であることからして既に異常だ。実質少尉クラスが一兵卒という軍隊。兵隊がおらず士官のみで構成されているという事で彼らを組織したはずの地球側からも不安を抱かれているという描写がある。一度、スーパーシルフのための新型エンジンのテストのために地球へテスト飛行をした時にはジャムを引き連れてしまった事もあり露骨に嫌がられていた。
だからFAFには陸上部隊はいない。そもそもフェアリィ陸軍というものは存在しない。海が無いから海軍が無いというのは理解しやすいが軍隊がその機能をフルに使うためには陸上戦力は不可欠だ。フェアリイはある種侵略に対しての防波堤ではあるがそれ以上の能力をワザと持たされていない。
また構成人員も最初期こそ精鋭による地球防衛の最前線であったのが、現在は長く続く防衛戦に人員の損耗を嫌がった各国の思惑により幹部級はともかく実働部隊の要員には社会不適合者や犯罪者などが促成教育を施され送り込まれるようになる。結果、ゴミ箱、牢獄と揶揄する者も。その中でもブーメラン戦隊の人員はさらに特殊で、他者への関りが極端に薄い、いいかえれば他者に感心の無いものが集められた。そのためフライトディレクターであるブッカー少佐は何時も苦労している。
侵略から既に30年が過ぎ地球では防波堤の外の事は遠い別の国の話のようでもあるし、実際にそのような描写も多い。この小説が書かれたのは1979年からで、その時はハードミリタリーSFとして宣伝されtonbori堂もそういう作品だと思って購読したのだが、観念的、概念的なものが忍ばされていてその奥深さにやられてしまった。当時のいろんな事象のメタファーが含まれているがそれは2000年も10年を過ぎた今でもまったく古びていないしこのシリーズは今も人気が高くその後に『グッドラック』や『アンブロークンアロー』の続編が出るたびにそう思わされる。普通にこの作品を映像化するとなると超絶な能力を持つ戦闘機と得体の知れない異星体の戦いというのは凡百な描き方になる。
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※シリーズ4冊目が出ました。
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馴染めなかったアニメ版
実のところGONZOが制作したOVAはその圧倒的なクォリティには正直脱帽、感服したが納得できない部分があった。それはあまりにもキャラクターが耽美すぎたということ。もっともそれが萌え?いやしびれるという方もいらっしゃるかもしれない。それにどんなのがいいんだよと問われると確かにどれが来てもピンとこないかもしれない。単行本で読んだのが既に20年近く前で相当に脳内イメージが出来てしまっているというかもし今のSFXによる実写映画なんかでも撮られた日にはもう怒髪天を衝いていかもしれない。それだけに飛行シーンなどは惚れ惚れする出来だったのはこの作品を買える部分だと思う。だがそこでまた問題が出てくるそこに目が行ってしまい物語のコアな部分に目が届かなくなってしまうという部分だ。
それでも続編『グッドラック』を中心に戦闘妖精雪風の中の印象深い『インディアンサマー』や『スーパーフェニックス』をうまく取り込んでいるとはいえ最後のけりの付け方はかなり強引且つ力技。さすが『交渉人真下正義』の十川さんの仕事だ。もっともなんらかの結末をつけたのはどこからの要請なんだろうか?神林先生はそれほどでもなくもっと弾けても?というような事をおっしゃっていたようだ。それは今回借りた雪風の最終巻の特典インタビューで監督が言ってたけれどそれはもっとジャムに関しても戦闘シーンにしても遥かに越えたモノを作ってもよかったのにというメッセージともとれる。
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『妖精を見るには 妖精の目がいる』
これは戦闘妖精・雪風の巻頭に掲げられた言葉である。神林作品にはこの巻頭にある言葉が作品のコアを指し示す羅針盤になっているのだが今回のアニメは半分だけ妖精の目を持ったが完全にそれを観ることは叶わなかった。という風に思う。ここからは余談だが元々主人公深井零とジェイムズ・ブッカー(物語の最初から最後まで出ている登場人物でもある)の話であるため多田由美さんのキャラデザインとあいまってなんとはなくBLっぽい感じがさらに加速されていることはかなり狙っているとは思うが、アニメなのに質感が妙に生々しい気がした事も印象に残っている。
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