魔女と潜水艦|『ローレライ』(2005公開|ローレライ製作委員会)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】-Web-tonbori堂アネックス

魔女と潜水艦|『ローレライ』(2005公開|ローレライ製作委員会)|tonbori堂映画語り【ネタバレ注意】

2017年8月9日水曜日

movie 特撮

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 tonbori堂映画語りシリーズ。今回は『8月に観たい映画』が続きましたので、その流れでこの映画を語ってみようかと思います。この作品、邦画の戦争映画にしては非常に珍しい架空の戦記物です。いや実際にないフィクションの戦争映画なら、例えば『独立愚連隊』シリーズとか『兵隊やくざ』なんかもそうでし、『潜水艦イ-57降伏せず』もそうです。ですがこの映画はさらにフィクション色が濃いものになっており、舞台仕立ても、ストーリーもよく言えばSFタッチであり、サスペンス色の高いものでありますが悪く言えば漫画チックでもあります。そんな潜水艦映画『ローレライ』が今回のお題です。

太平洋戦争末期、ある潜水艦に日本の命運が託された。/物語

 広島に原子爆弾が投下され、第2の原子爆弾の投下が帝都東京に投下されるかもしれないと大本営が混乱する中、軍令部の浅倉大佐は海軍兵学校で潜水艦の教官をしていた絹見(まさみ)少佐にある潜水艦の艦長として秘密の任務についてもらいたいと持ち掛ける。絹見に託された任務はドイツから回航されてきた戦利潜水艦イ五〇七潜水艦、それをもっていまや敵地となり日本への空襲の拠点となっているテニアン島を奇襲。東京への原爆投下を阻止せよというものであった。定員に満たない乗員で秘密裏に出航する伊五〇七潜。敵地には困難が待ち受けていると予想されたが伊五〇七にはナチスドイツの開発した特殊兵装『ローレライ』が搭載されていた。その『ローレライ』に非常に深く関わる少女パウラと束の間心を通わせる伊五〇七搭載特殊潜航艇N式の操縦士折笠。だが敵地に近づくにつれ米海軍の攻撃はますます激しくなり果たして彼らは任務を達成できるのか?

しかし浅倉には隠された意図があった。この企みの前に彼らの希望が打ち砕かれてしまうのか?運命の時が迫る…。

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AmazonPrimeVideo/ローレライ/監督 樋口真嗣/主演 役所広司

伊五〇七潜水艦

 この映画の目玉とも言える潜水艦伊五〇七、艦橋部の根元に大きな2連砲塔を備え、後部の格納庫に潜水艇を格納している大型潜水艦です。そんな潜水艦があるはず無い思った方もいらっしゃるかもしれませんが…これが実在の潜水艦をモチーフにしています。シュルクーフ、またはスルクフと呼ばれているフランスの潜水艦で第2次世界大戦でも用いられました。

スルクフ|Surcouf FRA.jpg
By 不明 - Morze, nr.6/1936 [1], パブリック・ドメイン, Link|画像はWikipediaより|スルクフ

 設計思想としては古いもので、艦体に装備された2連装砲は浮上して敵艦に止めを刺すものとして用いられていました。これは当時の潜水艦の戦術として実際に船体外部に搭載した小型砲で止めをさす用法が拡大され、小さな砲では商船ならいざしらず分厚い装甲戦闘艦では数発で沈める事が困難なため大型砲を搭載したたというわけですが、後に魚雷の高性能化が進み、魚雷のみでの撃沈が可能になったため、砲搭載潜水艦はあっという間に時代遅れとなり、実際には殆ど使われなかったと聞きます。

ソース|Wikipedia スルクフ(潜水艦)

 この伊五〇七潜水艦も史実としてはスルクフはドイツ軍に撃沈されたと思われていたものなのですがで、実はドイツが拿捕しており、戦利品として使用したという事になっていたという設定とし、敗色が濃くなった頃にローレライシステムの技術を日本へ持ち込み秘匿するため回航されたという話にしています。これは史実とフィクションを上手くミックスしていると思います。

魔女の眼/ローレライシステム(ネタバレ)

 伊五〇七の秘密兵器にして切り札。現代の水上艦でも曳航式ソナーっていうのがありますが潜水艦より曳航したN式特殊潜航艇と伊五〇七に設置された装置により艦の外周部の地形及び敵艦の位置把握を行える索敵装置です。

ソナーのイメージ画像 画像はWikipedia(米)より

 ただしこれには重要なパーツが必要で連続使用が出来ない、敵艦撃破など衝撃を受けると索敵不能に陥るという弱点がありました。そうこのローレライシステムの使用にはドイツから伊五〇七ともにやってきた少女、パウラの能力が必要で彼女はナチス・ドイツの人体実験を受けその結果、特殊能力を得た人間だったのです。この設定は、元々同じ雑誌での連載対談などで意気投合した小説家の福井晴敏と映画監督の樋口真嗣が、潜水艦をお題に映画が作れないかと話し合った結果、やっぱり美少女は外せないという事で設定されたのかパウラだったという話をどこかで目にしたことがあります。


 ローレライシステムは、その当時のソナーより高性能で、今でいう3Dグラフィックスで相手を把握できるシステムです。潜水艦が周囲をまさに見ることにより相手の先を取れる索敵能力を持つことが出来る可能性をもったものですが、システムのコアがパウラであること、水(液体)を介して外部を把握できる超感覚であるが故に戦闘中に発生する衝撃や死者の断末魔さえもフィードバックされその全てをパウラが受け止めてしまうために敵艦を撃沈した場合、彼女の精神が崩壊寸前までになってしまうという点で決して無敵というものではないという縛りがあります。だからこそどうやってその能力を活かしていくのか?という部分も『ローレライ』の展開の一つのキーになっています。

キャスト

 伊五〇七艦長の絹見少佐には役所広司、軍令部の浅倉大佐には堤真一。N式特殊潜航艇の操縦士、折笠は妻夫木聡、パウラにはこれが映画デビューとなった香椎由宇。副長の木崎大尉には柳葉敏郎、掌砲長田口兵曹長にはピエール瀧、他、國村隼、佐藤隆太、石黒賢、小野武彦などが脇を固めています。特に木崎大尉役柳葉敏郎の演技が、ヤマト2の真田さんプラス空間騎兵隊斉藤タッチで凄いなと思ったら後に実写版『宇宙戦艦ヤマト』で真田さんを演じる事になりびっくりしました。(笑)またちょっと影のある田口兵曹長をピエール瀧が演じていたのですが、これがまた味のある感じで、TVで見せるコミカルな部分ではなくちょっと強面の男の持つ部分がいい味になっているのも見逃せないポイントです。

魔女は海に囁く

 原作小説はその後に読みましたが、長大かつ細部がかなり濃く書き込まれいます。もう少し原作に忠実な作品も観て観たかったなと思いますが、その辺りどうなんでしょうか。原作に登場し映画には登場しなかったフリッツというパウラの兄ですが、その理由は彼がナチスの親衛隊士官であるからという話もありましたが、ナチス・ドイツの問題は生半可で手を出すと火傷をするので、あえてオミットしたと思いますが…うーん、そこが残念な部分、その一です。次に戦後的なヒューマニズムとかが今だとちょっと目につくかもしれません。『特攻させてください』という折笠に対し許可を出さない絹見、もともと特攻に反対で現場を外されたという経緯もあるようですが、この辺りどうだったのかなという部分も気になります。あとこれは原作を読んで分かった事ですが島崎藤村の『椰子の実』が非常に重要な役回りをもっていたこと。同時スタートだったこともあり落とし込めなかったのかなと思いますがこの部分入っていたならまた感じが変わったかもしれません。


 全体的にはストーリーが荒唐無稽で、無茶苦茶という声も聞きますが、米海軍の描写はあちらのキャストとクルーを使ったり、伊五〇七のセットをしっかりつくって撮影など力の入ったものでそこは買えると思いました。ただ、ええっそこ、そうなのっていうシーンとかもあるのでトータル的に厳しいという声も理解出来ます。フジテレビが製作幹事ということで、そこは素直によくお金を出したなと。何にしろ戦争映画、しかも潜水艦、そしてSF的なガジェットと当たりそうな要素がありません(コラッ!)今なら難しい企画かもしれませんが(さらにヒロイックにするならあるかもしれませんけれど)よく通ったなと。そこは色々な要素がプラスに働いたのだろうと思っています。


 これはトリビアですが、福井晴敏が敬愛する富野由悠季監督と樋口監督とはエヴァや最近ではシンゴジラで組んでいる盟友ともいえる庵野秀明監督がカメオ出演しています。どこに出ているかはお楽しみですが、樋口監督の『日本沈没』にもご両人でておられますので併せて探してみるのも一興かと。


 そしてこれは余談ですが上でも触れた『潜水艦イ-57降伏せず』はある外交官の親子を敗戦の色が濃い日本から中立国へ秘密裏に送り届けその仲立ちにより早期講和を画策するのだがというストーリーでした。それも影響しているのではという話も当時聞きましたが、さてどうだったのか。こちらは困難な任務を押し付けられたものの愚直にその任務を全うしようとするが、というお話でした。『ローレライ』は架空の話なので任務から逸脱したものの目的は達し、静かに海に還っていくラストとかなり違った印象になっています。こちらも一度お時間があればご覧になっていただきたい映画です。戦争映画というにはと思う人もいるかもしれませんが熱量だけは買いたい1本ということだけはお伝えしてここで筆を置きたいと思います。

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※福井晴敏による原作小説というより企画発案者としての同時進行での小説。(発表はこちらが先です。)

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