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『小さな巨人』と『踊る大捜査線』|考察|tonbori堂ドラマ語り

2017年6月20日火曜日

drama movie

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 『小さな巨人』は個人としての警察官が、組織としての警察にどうやって立ち向かっていくのかのお話でした。となればやはり組織論、本店(警視庁)と支店(所轄)(『小さな巨人』ではそういう言い回しはありませんでしたが)の『踊る大捜査線』が思い出されます。実際放送中にもそういう声は多くオマージュともリスペクトともとれる台詞が多数ありました。

小さな巨人/ロゴはイメージです
小さな巨人/ロゴはイメージです


 『踊る大捜査線』はそれまでの刑事モノのスタンダードであった所轄の刑事やその部署の刑事が全部解決とか、とにかく走る(『太陽にほえろ』では若手の刑事をとにかく走らせていました。)とか、そういうお約束を排除しようというのがあったと聞きます。

 そして刑事ドラマに変革が起きました。『踊る大捜査線』は当時まだ黎明期だったSNSシステムやネットの口コミを使い拡散、また従来にない刑事ドラマとして人気も高まり、スペシャルを経て映画化され映画版の2本目は実写映画の最高興行収入を上げました。そんな『踊る大捜査線』のおかげで、本庁から乗り込んできて、見当違いな捜査を指揮する捜査一課(現実にはそれほどどんくさいのかどうかは知りませんが、いわゆる刑事の花形部署、誇張もされていると見るのが妥当でしょう)や警察の手続きの面倒くささ、キャリア(国家公務員試験1種をパスしたもの)とノンキャリアの壁など、全てではないものの従来の刑事モノにも取り入れられいろいろ亜種が産まれるに至りました。その末裔とも言える『小さな巨人』『踊る大捜査線』の血を引いている部分が散見されます。

刑事の花形、捜査一課

 『踊る大捜査線』で湾岸署に強行犯係に刑事として配属された青島が重大事件発生に意気揚々と現場に向かうと締め出され、湾岸署に捜査本部が立つと今度は捜査会議も碌に参加させて貰えず、一課の道案内としてこき使われる。現実に即しているわけではないようですが、これで青島は刑事としての仕事がさせて貰えず不貞腐れます。しかし指導係のベテラン刑事、和久に諭されます。


 『小さな巨人』では香坂は最初は一課の刑事として登場します。いわば青島を足げにしていた横柄な刑事たちの一人と同じようなものだったわけです。実際に芝署の刑事、渡部に上から目線で声をかけていました。その後、香坂はあるミスが元で所轄へ左遷されるわけですが、この一件にも裏があってという事にでしたが。さて、どちらのドラマでも捜査一課は重大事件捜査(主に殺人、強盗などの強行犯)を捜査する部署で、威張っているという事です(笑)実際どうかは知りませんが、警察は縦社会で階級がモノをいいます。ですが階級以外でモノを言うのがこういう部署という事になります。中でも捜査一課はしばしばドラマでも取り上げられる部署。主に殺人、強盗などの重大事件を主に手掛ける部署です。そのため所属している刑事が捜査一課を鼻にかけるっていうのは…ありそうですよね。TVドラマというのは印象が第一。だからこそ花形エリート集団=鼻もちならないという分かりやすい図式は安心できるというものです。


 だから当然そこから外れたり、または一課のはみ出し者を集めたりとかそういう設定のドラマも多いわけです。エリートがエリート然としているのは受けません。何故なら観ている人たちはエリートとは無縁の人が多いからです。とは言え事件を解決するには説得力が必要なため昔のドラマでは一芸に秀でているとかいろいろ設定されていることが多いのですが、結局は状況から事件を見立て証拠を集め、犯人を検挙するというのが王道です。当然、ドラマではエリートの見立てが『ほぼ100%』外れるわけですが。ちなみに捜査一課所属の有名刑事と言えば最近、逝去された渡瀬恒彦さんが演じた『十津川警部シリーズ』の十津川警部は捜査一課の所属です。これは『小さな巨人』に出演されていた高橋英樹さんも十津川警部を演じられていましたね。

 また渡瀬さんは『警視庁捜査一課9係』で捜査一課にある強行犯捜査9係の加納係長役も有名です。『小さな巨人』ではお遊びで似た名前が歴代捜査一課長の木札にあったとか。同じクールで放送中の『捜査一課長』の内藤剛志さん演じる大岩課長に似た名前もあったとかで、これは…まあエールととっておきたいですね(笑)


階級

 『踊る大捜査線』は階級も重要になっていました。ちなみに国民的刑事ドラマであった『太陽にほえろ』の階級はボスが警部、山さんは警部補。長さんはそのあだ名通り巡査部長、ゴリさん、殿下、マカロニ、ジーパンは階級の話は出ませんでしたが巡査、(もしかするとゴリさんあたりは巡査長かもしれません)でした。でもほぼ階級の話は出ません。ボスの上は署長みたいな割と大雑把な感じです。

 そして『踊る大捜査線』はドラマに階級社会というのを持ち込んだ感じになっていますが実は『Gメン’75』でも階級は明言されています。『Gメン’75』は『キイハンター』の流れを汲むドラマで『キイハンター』にもリーダー格で出演していた丹波哲郎がボス的役割で出演。丹波哲郎が演じた黒木は警視(のちに警視正)、他の刑事も現場主任格が警部や警部補に設定されていたり、一応のリアリティを保っていました。

 内容も警察の中の警察として設立された特別部署として凶悪化する犯罪に、時には国境をまたいで捜査するという設定でしたので当時としては破格なハードボイルドかつリアリティを追求したドラマだったと言えると思います。もっとも階級をわかるようにネタにしたのは『踊る大捜査線』でしたね。ユースケ・サンタマリア演じる真下の警部発言が記憶に残っています。そのユースケ・サンタマリアが『小さな巨人』では豊洲署編では重要なキーパーソン、しかも登場してすぐに死亡しているにもかかわらず最終回まで事件に影響を及ぼす警察官として登場するのはいろいろ感慨深いものがあります。これはさすがに制作陣もちょっと意識したんじゃないかなと思うのですが。


 ちなみに警察官で主人公が警部だったり、推理小説で主人公を助けるのが警部だったりというのは多いですよね。昔聞いた話によると(なので出典はありませんからでまかせかもしれませんので念のため)ヒラの警官では何かあった時に主人公を助けて八面六臂の活躍すると嘘くさい。また応援を呼ぶなど場合でも巡査がというのではということと、主人公と釣り合いをとる意味合いで警部なんだとか。主人公の場合は警察官でも巡査は上の命令に逆らえない。巡査部長も悪くはないけど巡査の一つ上だけ。なので主任クラスの警部補か係長、所轄課長クラスの警部なら自由度も効くし多少の無理も通せるからということらしいです。まあ説得力あるようなないような(笑)

 ちなみに警部と言うと私が思い出すのは銭形警部です。これはいろいろ思い出す人や見ていたもので変わってくるでしょうね。ちなみに古畑任三郎は警部補ですよ。間違えないように。

本庁vs所轄

 これは一番『踊る大捜査線』と『小さな巨人』の近い部分で特別捜査本部での捜査会議でハブられる所轄というのはまるで『踊る大捜査線』を思い出す感じでした。実際思い出した人も多く芝署編で所轄の意地をみせてやりましょうと香坂が言うあたり、ああ「踊る」だと思ったものでした。当然所轄の方がその地域を管轄しているので知り尽くしたいるのです。だから事件が起こった際でも捜査一課が臨場する前に動けることもあるわけですし、もっとも重大事件だと鑑識などなど本庁から臨場すると特別捜査本部が設置され捜査一課の仕切りとなります。ですが地域の地取り、鑑取りは地域を知っている所轄の署員と組んで行うのが一般だそうで、やはり郷に入っては郷に従え、主導するのは一課でも地域を知っている所轄の力は必要という事です。


 この辺りは「踊る」のフジが製作しこちらも映画化までされた『ストロベリーナイト』で描写されていましたね。今回の『小さな巨人』ではどちらかというと『踊る大捜査線』のように捜査一課は無個性いや、どちらかというとただのロボットのような言われたことだけを忠実にする忠犬みたいな感じでした。そこはかなり似通っていたように思います。

 そういえば『ストロベリーナイト』の主人公、姫川玲子も警察官としてかなり異例の出世コースにのっています。若くして捜査一課に配属、警部補そして主任として活躍していますが『インビジブルレイン』の事件で所轄へ左遷されている点は香坂に通じるものがありますね。豊洲署の女課長さんと同じ点は仕事をこなすことが最重要。違う点は出世ではなく事件に興味がある。つまり仕事にしか興味がないということです。実のところ政治的なものには全く興味を示さないのが姫川ですが…まあそれはまた別の話ですね。

『踊る大捜査線』と『小さな巨人』

 踊るで青島は和久さんに「正しい事をしたければ、えらくなれ」と言われました。果たして『踊る大捜査線』完結編ともいうべき新たなる希望では青島は警部補になっていましたが、やっぱり初登場時から変わらないお巡りさんなんですよね。ですが香坂は違います。同期の藤倉から『頼む、上にいってくれ、正しい事が出来るようにしてくれ』と言われます。小野田の隠ぺい指示に対する反逆後に出た台詞です。被疑者である横沢を本庁に連行すれば送検で事件は決着するはずだったのに所轄に連行し香坂に取り調べをさせようとした藤倉の叫びは同期の警察官の願いの声だったかもしれません。


 ですがきれいごとでは済まないというのは図らずも小野田が語った通り、そこを呑み込んでいった香坂がこの後どうなるかは分かりませんが少なくとも捜査一課に返り咲いた以上、青島の道を通ることは無いでしょう。いわば青島は正義を成したいけれど、だからといって着任当初の心を捨てたくない、いわば青臭さが残ったままの警察官として、多分警部にまでは昇任できたとしてもそこまで。香坂は現状で警部です。多分警視、警視正となり捜査一課長への道を歩んでいくことでしょう。そこには青島のような想いではなく覚悟があるように思います。

 どちらがいい悪いではなく選んだ選択なんでしょうね。ですがどちらも「警察官の誇り、矜持」というものは通底していると思います。なので『小さな巨人』と『踊る大捜査線』は似て非なるものだが警察官として正義を行う覚悟と代償の物語としては通底しているものは同じだと思うのです。この機によろしければどちらも観直してみるのも一興かもしれません。

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