ゴーストは囁いたのか?『ゴースト・イン・ザ・シェル』|感想【ネタバレ注意!】-Web-tonbori堂アネックス

ゴーストは囁いたのか?『ゴースト・イン・ザ・シェル』|感想【ネタバレ注意!】

2017年4月16日日曜日

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 やっと観てきましたよ、スカージョことスカーレット・ヨハンソンが「少佐」を演じた『ゴースト・イン・ザ・シェル』監督のルーパート・サンダース。かなり押井リスペクトで画をつくってきたなという感じでした。でも、オープニングの部分は凄い別の映画みたいな導入部で、それはオチにつながってくるわけなんだけど、多分そこで、?ってなってる原作ファンや、押井版攻殻機動隊ファンは多いかもしれません。

動画はyoutubeより|『ゴースト・イン・ザ・シェル』予告編|パラマウント・ピクチャーズ(日本版)

 ネットでの自分の観測範囲では、押井版攻殻機動隊を忠実に実写化したシークエンスや、ハリウッドスタイルできっちりお金もかけたセット、CG、そしてアクションシーンはよく出来ていると評価している人もいて、この辺りどこまで踏み込むのか、それともどういう話にしたかったのかでいろいろ評価分かれるところではあります。以下ネタバレも含みつつちょっと書いていきたいと思います。
















【ネタバレしております】


















ではよろしいですか?

『ゴースト・イン・ザ・シェル』について紐解いていきたいと思います。

『少佐』はいったい何者なのか?

 原作の「攻殻機動隊」では少佐って人は公安9課の雇われ工作員のようなポジションで軍属でありながら自らの特捜チームを率いている謎の人物として描かれています。来歴もくわしく語られず、分かっているのは超ウィザード級のハッカーで、メスゴリラとイシカワが揶揄するほどの豪腕であるという事。つまり荒くれ男を腕で率いているプロフェッショナルという事です。

 当然、9課の課長である荒巻とも対等というか、雇用者と被雇用者ではあるのですが、意に沿わない事はやらないとはっきりしています。(予算の件など)その後映像化された作品でも9課の課長は荒巻なんですが、少佐との関係性はやはり対等で雇用者というよりは同志という関係性のように見えます。元々完全義体という事もあり実年齢は不詳で、これは原作でもあったしTVアニメ『攻殻機動隊S.A.C』でも若い女性型の義体に入っているけど年齢は80以上のKGBの暗殺者っていうキャラがいました。つまり少佐って荒巻の戦友という見方もできなくない訳です。士郎さんの『アップルシード』では『攻殻機動隊』も同じタイムラインだったように思いますが(攻殻機動隊2.0でそれはちょっと怪しくなった気もします。)何度か非核大戦かそれに類する大規模戦闘があちこちであり、『攻殻機動隊S.A.C』でも半島や大陸で戦争があり日本からも何がしらの海外派兵があったように描写されています。

 元々、荒巻も陸自の赤鬼と呼ばれた一等陸佐、殿田の下で諜報活動に従事していたのは、原作やアニメでも描かれていましたので、その頃に少佐と知己を得たとしても不思議ではないのです。もっとも少佐と荒巻との邂逅を軸に描いたアニメ、『攻殻機動隊ARISE』が作られたのは記憶に新しいところですが。

 ARISEにしても少佐の生い立ちまで深く切り込んでいません。(ある程度はありましたが)今回の映画が手本にしたS.A.C2ndGIGのエピソードにしても同様です。いちおう少佐から語られたものの子供の頃のエピソードとして語られているに過ぎず物語の根幹ではないのですが、今回の実写映画は世界最高の、そして初の完全義体を持つサイボーグとして少佐は描写され、何故彼女がサイボーグになったのか?という部分がクローズアップされています。ネット時代のアイデンティティを揺さぶるにしてはいささか古典的な導入でありオチも(それなりの衝撃はありましたが)やはり古風な展開でした。押井版攻殻機動隊は米国ではそれなりにファンも多く認知度もそこそこ(ギークの間で)といったところですが、今回そういったギークが納得したかというとそれは正直厳しかったのではないかと推察するストーリではあったかなと思います。

 少なくとも少佐は天涯孤独、もしくは俗社会に対する帰属意識が薄く、ワーカホリック、もしくはスリルジャンキーだが、一種の規範があってそれを守ることでバランスをとっているというプロフェッショナルだったのが、今回の映画ではマシーンとして調整されたサイボーグ(ロボット)が己のアイデンティティに目覚めて、自答する映画になっているのでハリウッドアクション映画としてはこれが正解なのかもしれないけれど原作ファンとしては、うーん、まあ映像は完全押井リスペクト、完コピでしたよっていうしかない感じでした(苦笑)

人種の壁を越えて。

 少佐役がスカージョになった時に、なんでアジア人じゃないんだよっていう、いわゆる人種問題、白人がそもそも原作ではアジア人と設定されていたり黒人であったりする役を演じる場合に持ち上がるホワイトウォッシングが取りざたされました。で、ここは物語の大きな根幹にかかわりかつネタバレになるのですが、まあ少佐っていうのが何者っていうのが終盤はっきりする訳です。で、それを思ったときに今回のキーマンである、クゼの扱いも含めて人種問題がひっかかってくるわけです。つまり義体っていうのは着せ替え人形のようにいく通りの容姿を用意でき、ひいては男でもいいし子供でもいいという部分です。


 押井版攻殻機動隊でもコドモトコという少女型サイボーグに脳幹を移し替えるという描写もあり、S.A.Cでもリモート義体で登場しています。つまりアイデンティティの根幹って容姿ではなく脳なのか、そこにゴーストが宿っているのか?っていうのは攻殻機動隊でも重要なテーマなのですが、現状、この作品ではトータル・リコールmeetブレードランナーでしかありませんでした。いや少佐の正体も含めて踏み込めば化ける要素はあったのですが…。これ以上は分からないと思われたのでしょうか。ハンカ・ロボティックス(このネーミングも原作やS.A.Cの阪華精機から来ているのは明らかです)が関ってくる部分もこの作品が、自分たちのアイデンティティを模索するレプリカントを作り出したタイレルに復讐するブレードランナーと重なってきてしまいいろいろ残念な事になっていました。

ネットの海を渡っていけなかったゴースト

 『ゴースト・イン・ザ・シェル』は少佐のアイデンティティに重きを置いたせいでネット描写も少し控えめでありました。やはりネット空間でのサイバー戦とかもっと驚くような映像をそこは提示してほしかった気がします。アクション関係に関してはほぼ不満はないのでそこも残念ポイントでしょうか。光学迷彩の再現は既に我々はもう観た後の事だから、それをあらためてブラッシュアップされても、ああそれは凄いですねっていうしかないのです。当然、それはそれで凄い事で日本の実写は予算の関係もあってそこまで持っていけません。そういう意味でのハリウッドの凄さはまじまじと感じましたが。それだけにネット描写がもう少し捻りがあれば、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の評価も若干変わってきたかもしれないなと思いました。

最後に、

 ハリウッドの実写化としては及第点は上げれるものの、攻殻機動隊の肝の部分がやはり薄いというのは残念なポイントでした。ホワイトウォッシングの問題に関しても、あと一歩踏み出せば、というのもありましたが、そうなると攻殻機動隊ではなくトータルリコールになっていたかも?っていうのはありましたが、そこで予想外の反響があったかも。桃井かおりという日本から参加しているアクトレスもいたわけですから。評価は低くはないけれど、絶賛できなかった作品でした。攻殻機動隊は原作も面白いのでぜひ一読をおすすめします。あと押井版ゴースト・イン・ザ・シェル攻殻機動隊を観てから『ゴースト・イン・ザ・シェル』を観るといろいろリスペクトぶりは伺えます。

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※20170726 少し文章に手を入れました。てにおはなどを修正、あと文章に少し加筆しています。

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