社長の憂鬱。『アイアンマン２』【ネタバレ】M.C.U再見Vol.4

　『アイアンマン２』って実のところちょっと評価が１に比べても３に比べても若干取り上げられる事が少なく感じているのは私だけでしょうか。ですが『アイアンマン２』はファブロー監督で１からの直接の続編であり、『インクレディブル・ハルク』を経て語られるトニー・スタークの物語として非常に重要な位置を占めていると思うのです。それは何故かをちょっと書いてみたいと思います。

ストーリー/アイアンマン２

※物語の結末まで記しています。あらすじを飛ばし場合は目次から「トニー・スタークとヴィラン」まで飛んでください。

もう一人の自分。

　物語はトニーが１９７４年に父ハワードが開催した技術展覧会スターク・エキスポを復活させそのセレモニーに飛行機からアイアンマンスーツを身にまとって現れるところから始まります。この世の絶頂という感じのトニーですが、アーク・リアクターの触媒に使っているパラジウムから発生する毒素に徐々に身体を蝕まれていました。進行を遅らせるため特製ドリンクを飲むものの日に日に状態は悪くなるばかり。

　一方ロシアで華やかなエキスポの開催を中継で見ているひとりの老人が。病床についており付き添う息子に『なにも残せてやれなかった』と息子に言い残し息を引き取ります。その息子は父の遺した設計図を基にアーク・リアクターをつくりだしました。そして手製のアーマーを製作しながらトニーの載っている記事を不気味に見つめます。

　アイアンマンは個人が持つには強力すぎる力ということで上院の軍事委員会で聴聞会が開かれました。委員長のスターン議員から武装を政府に引き渡すように要請されますが、きっぱりと断るトニー。アーマーは武器ではなく防具であり楯（シールド）であるとして武装ではないと答えます。聴聞会には参考意見のためスタークのライバル、ハマー・インダストリーのジャスティン・ハマーが招かれていましたが、彼はスーツは武器だと断じますが、彼の試作したスーツは未だ成功せずトニーのスーツのみが成功品としてあり、トニーは自分こそがアイアンマンであると、スーツと自らは一心同体と会議で宣言し聴衆は彼をもてはやしますがスターンは渋い顔をします。

　そんな間にもパラジウムの毒素はトニーの体を蝕んでいきます。先の事を考えて絵画などをコレクションをあちこちに寄付しペッパーを怒らせます。するとトニーはペッパーをスターク・インダストリーのCEOにしました。突然のCEO移譲に戸惑うペッパーでしたが、何時もの気まぐれと思いトニーの変化にはまだ気が付いていない様子です。ともかく書類作成のため法務部の社員がトニーの自宅に。ナタリーというその赤毛の社員に何かを感じて強引に自らの秘書につけるトニー。トレーニング中のハッピーをあっという間に倒すその身のこなしに何かを探りに来たのではないかと訝しく思いますが、ナタリーは非常に優秀な秘書でもありました。

　トニーは自らスポンサーを務めるモナコのクラシックカーレースのセレモニーに向かいます。そこには先の聴聞会でやり合ったハマーもいました。ハマーと鍔迫り合いをしたトニーは発作がでるのを恐れてVIPルームを抜け出します。そして自らオーナーをしているチームのドライバーを無理矢理おろして自分がレースに参加することにしました。突然の無茶な行動にに怒るペッパーでしたが、そこに一人の男が乱入してきます。作業員のつなぎの下にはスケルトンフレームのスーツが。そして胸元にはアーク・リアクターが装着されていました。

　イヴァンはアーク・リアクターで動く鞭状の武器を使うスーツを独力で完成させて、トニーに地獄をみせるためにモナコへ乗り込んできたのです。鞭状の武器で次々とレースマシンを切断していくイヴァン。モナコの街はパニック状態になります。そしてイヴァンはトニーのマシンも真っ二つにしますが、そこにボディーガードのハッピーがペッパーを乗せた車で乱入。トニーはハッピーからスーツケースを受け取ります。

画像はflickerよりアイアンマンMk5トランク形態

　スーツケースはコンパクトサイズのスーツMk5。Mk5をその場で装着してイヴァンと対決するトニー。リパルサーを利用した電撃できる鞭状の武器に苦戦しながらも辛くもイヴァンを撃退し捕らえることに成功しますが、その混乱を一部始終目撃したハマーはある企みを思いつきました。警察に捕らえられたイヴァンに接見するトニー。イヴァンはアーク・リアクターの開発について意味深な台詞をトニーに投げかけトニーは平静を装いましたが内心は動揺します。戦いには勝利したものの精神的に打ちのめされたトニーは荒れ、パーティに耽り、ペッパーの忠告も意に介さず、とうとうローディはMk２を着用しトニーを取り押さえる事になりました。果たして2人はマリブのトニーの自宅で大立ち回りとなりローディはそのままアーマーを着用したまま帰還する事に。

アイアンマン/ホール・オブ・アーマー、センターのアーマーがMk5/マーベルスタジオ展にて

　その頃イヴァンはハマーの企みで死を偽装され刑務所から脱走。ハマーのラボで彼のアーマーのパワーアップを計る事に。トニーしか作れないと思われていたアーク・リアクターを作れる男ならばスーツのパワーアップもアイアンマンアーマーと同じ力を持たせることも十分可能と思ったのです。イヴァンはハマーに協力することになりましたが、何かを考えている様子です。

父の思い、未来へ。鍵はここにある。

　ローディはMk2を持ち帰り、将軍はこの機にハマーの力を借りてアイアンマンスーツの兵器化を命じます。一方トニーは迫りくる死の恐怖にボロボロの状態に。そこにS.H.I.E.L.D長官フューリーが現れます。実はフューリーはずっと彼を監視していたのですが、事態が好転しないため出てきたのでした。ナタリーはフューリーの部下でS.H.I.E.L.Dのエージェント・ナターシャ・ロマノフ。コードネーム『ブラックウィドウ』でした。

画像はflickerより　ナターシャ・ロマノフことブラックウィドウ

　ボロボロになったマリブの自宅でフューリーはトニーに資料を渡します。それはトニーの父、ハワードの遺したもので、彼はS.H.I.E.L.Dの創設メンバーであり、S.H.I.E.L.Dのために研究開発をしていたのです。彼はアーク・リアクターを完成に導くのは息子と常々フューリーに語っていたと聞かされるトニー。『未来へ。鍵はここにある』というハワードがスタークエキスポの宣伝フィルムに忍ばせたメッセージをを見つけますが、資料を読み込んでもまったくヒントが掴めません。社長業務が忙しいペッパーと仲直りしようと社に出向きますが結局また仲違い。所在なさげにひとりぼっちで社長室を眺めているトニー。すると1974スタークエキスポの模型図が目に入ります。個々の配置を見てこれは原子モデルの模型になっていると気が付いたトニーは家に持ち帰りジャーヴィスに解析させます。

　どうやら新型の元素がそこに隠されているようで、それを生成するために自宅の施設と設備をつかって即席の粒子加速器を組み上げている最中に、トニーが仕事をするように見張っていたエージェント・コールソンがやってきます。別の任務に付くことになったといってニューメキシコへ旅立つコールソンはトニーにその試みが上手くいけばいいなと言葉を残し立ち去りました。組みあがった粒子加速器を作動させるトニー。果たして実験は成功。新元素を発見しアーク・リアクターの触媒として早速使ってみると毒素の排出も止まり問題は解決されました。そししてアーマも新型アーク・リアクターに合わせて新調しマーク６を製作します。

過去との決着。

　一方ハマーはスターク・エキスポに出展。ハマー・アドバンス・ウェポンシステムズで武装関係を艤装したMk2あらためウォーマシンのお披露目と、イヴァンが改良したスーツベースのドローンロボット軍団がステージで披露されていました。ですがこれはイヴァンの罠でもあったのです。スタークエキスポを無茶苦茶にし、ペッパーを殺してトニーに塗炭の苦しみを味わせるというのが彼の狙いでした。エキスポでデモ中のドローンとウォーマシンのコントロールをハッキングし会場を混乱の渦に叩き込みイヴァンはそれをわざわざトニーに連絡、彼を動くようにしむけます。ナターシャはハッピーとともに、コントロールしているイヴァンを抑えにハマーの研究所へ。トニーは暴れているウォーマシンとドローンを止めるめぐ会場へ向かいます。

　ナターシャの活躍でウォーマシンのコントロールを取り戻したかと思いましたがドローンのコントロールは未だイヴァンが抑えており、ローディのウォーマシンとともに迎え撃つトニー。ドローンを一網打尽にしましたが。そこにスーツをまとったイヴァンが現れ最終決戦に。ウォーマシンとリパルサーレイをぶつけてのエネルギー反応の爆発でイヴァンを撃退。ペッパーとも仲直り。ローディは車の代わりにこれはもうちょっと借りておくとウォーマシンで帰還していきました。

　事後、トニーはフューリーからナターシャことブラックウィドウからの評価を示されます。そこには

• 衝動性あり
• 自己破壊傾向あり
• 典型的なナルシスト

と評価されていました。またアイアンマンはフューリーのアベンジャーズイニシアティブのメンバーとしては適格かどうかは、イエス。但しトニー・スタークは不合格であるとしていると断じられました。フューリーはアベンジャーズイニシアティブは一旦凍結、だがトニーをシールドの顧問として雇うと決めました。

トニー・スタークとヴィラン

　トニーの敵は３も含めてトニーのパーソナリティの合わせ鏡のようなヴィラン（敵役）が多くまた、２までのヴィランは父ハワードにかかわっています。１のオバティア・ステインはトニーの親代わり、ビジネスの師でもありハワードの友で彼の右腕ですし、２のヴィランは父ハワードと共同でアーク・リアクターを開発したアントン・ヴァンコの息子、イヴァン、（ウィップラッシュ）です。つまりイヴァンはあり得たトニーの未来でもあるわけです。トニーは天才なんだけれど人の心を汲み取るのは下手だし、誤解を招きやすいパーソナリティをもっています。善人だと周りの人は知っているけれど、同時にクソ野郎とも思われる言わばいい人だけど面倒くさい、もしくは浅い友達ならいいけど深く付き合うには向いていない人物です。また自分から壁をつくったりすることもあります。

　そう言ったハートを分かっている人たちだけではないし、そういう人でも尊大なトニーに振り回されて時には怒髪冠を衝くわけなのですが、（ペッパーは度々彼を諫めたり、怒ったりしていますよね）そういう問題のある人物が、いろいろな事を経て彼が成長していくというのがアイアンマンの骨子なのです。

　もっともアベンジャーズでもその性格でトラブルの種になったり、フェイズ２の要、エイジ・オブ・ウルトロンでも結局（スカーレット・ウィッチやセプターの影響もあるけど）彼の行動が元になっているので、時にトニー全然成長してないとはよく言われます。だから『アイアンマン』3部作は、いろいろトニーも思うところがあったというお話で３で決着がつくという感じになっています。そのためにも２は『アベンジャーズ』とともに今後のトニーに関して非常に重要なファクターを担っていると言ってもいいのではないでしょうか。

父の不在

　M.C.Uではファミリーと言うの事が大きくクローズアップされています。これは他の映画でも同じことが言えますが、『アイアンマン』は父代わりでもあったオバティアを超える親離れの側面を持っていたと言えますが、今回の２では死が迫っている事により真の親が既にいない事で、前回成長したと見えてもまだまだ偉大な父を越えていないというのを強く意識しているのだという事がクローズアップされました。アイアンマン３ではまた別のファミリーというか愛する者のためにという部分が強調されますがそれはまた別の話ですので３の時にでも書いてみたいと思います。ですがこの父ハワードの存在は今後もM.C.Uに関わり続け、『キャプテン・アメリカ』にも影響を及ぼしてきます。

　その辺りもM.C.Uの楽しみの一つで作っている側は単独作品としてまず成立するように腐心していますが、使用出来る設定はどんどん盛り込んでいくという姿勢もあります。そのためアイアンマンでの行動がアベンジャーズに影響したりソーがやってくる事により世界が変わったりするという事が見られます。ハワードもそうで、彼はトニーの前にキャップと関わりを持ち、シールドの創設にも関わりつづけたM.C.Uに無くてはならない存在なのです。そういった偉大な父親と若い頃には反りが合わなかったトニーがハワードの事を理解できないまま彼が死去したという事が様々な影響を及ぼしている事になった、その一端をこの２では示したと言ってもいいでしょう。

トリビア

　そうですね、今回のヴィラン、ウィップ・ラッシュことイヴァンは原作のクリムゾン・ダイナモというソ連のアーマーを着込んだヴィランの要素を持っており、本来のウィップ・ラッシュはスターク・インダストリーの技術者だったそうです。そちらの設定を持つヴィランが今後登場するかどうかは不明ですがM.C.Uとしてあり得るかもしれません。またコールソンが別れを告げるシーンでトニーに「これはなんだ？」と尋ねた楯のようなものはキャプテン・アメリカのシールド（ヴィブラニウム、架空の金属元素、希少金属でブラックパンサーなどにも関わってくる。アフリカの架空の国家、ワカンダが原産地）のプロトタイプのような形で、これはお遊びのようでしたが、この後の作品群に微妙に影響を及ぼしていると思います。

キャスト

　トニー・スタークはロバート・ダウニーjr、ペッパーはグゥイネス・パルトロゥはそのまま、ボディガードのハッピーも監督であるジョン・ファブローが続投ですがウォーマシンことローズ中佐はテレンス・ハワードから、ドン・チードルにスイッチしてします。いろいろ噂も聞きますが、アイアンマン２以降ジェイムズ・ローディ・ローズ中佐はドン・チードルが出演しているので、チードルの方がマーベル側と相性が良かったという事でしょう。ヴィラン側ではイヴァンをミッキー・ロークが、ジャスティン・ハマーをサム・ロックウェルが演じています。ミッキー・ロークと言えば『ナインハーフ』セクシーさを見せつけた今で言うところのイケメン俳優でしたが、その後不遇の時代をかこったことも。ボクサーに進出してネコパンチで物議を醸したこともありましたね。マイケル・チミノ監督の『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』でジョン・ローン演じるチャイニーズマフィアのボスとの死闘が一番印象深いです。当時珍しかったデザートイーグルという拳銃を使ったのも有名です。

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　ジャスティン・ハマーを演じるサム・ロックウェルは『月に囚われた男』の名演が記憶に新しい所です。コメディ作品からシリアスな作品まで幅広く活躍している俳優です。『セブン・サイコパス』『カウボーイ＆エイリアン』最新作は『バッドバディ！私と彼の暗殺デート』など多彩な役柄を誇り今回のジャスティン・ハマーでも印象を残しました。再出演してほしいですが今のところ出番は無さそうです、残念ですが。

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アイアンマントリロジーの「破」として

　『アイアンマン２』はトニーはとにもかくにも父のしたことを引き継ぐ決心をしました。そういう決意の物語だと思います。その決意はトニーのシールドへの協力や、アベンジャーズの活躍につながっていくのですが、そこでまたトニーは大きなものを抱える事になっていく事になります。ですがそれはまた次の時にでもお話したいと思います。ともかく『アイアンマン２』は『アイアンマン』から続けてみて欲しい作品なのは間違いありません。

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